第348話 こっちを見て
クレアの大剣エフォールがウォルフの右側から、彼の頭を目掛けて伸びて来る。ウォルフは肘を曲げ右手に持ったサーベルを振り上げ大剣を受け止めた。
「ぐぅ!!」
顔を歪ませるウォルフ、彼の手に激しい衝撃がしてしびれた。クレアの大剣を受け止めきれずに押し返された彼だったが、うまくサーベルを下に向け湾曲した刀身がクレアの大剣を受け流せた。
しかし、すぐに彼の視界の端にグレンの青いオーラがゆらめいた。
「ぬっ!?」
グレンはクレアと逆にウォルフに左側に回り込み接近してきた。グレンは大剣を引いてウォルフの心臓へと向ける。ウォルフはグレンの接近に気づき眉間にシワを寄せる。
「クソ!!」
「俺もいるんでね…… おっと!!!」
左手を振りかざしたウォルフはグレンに向かって手を振り下ろす。彼の手は白く光り長い柄の巨大な斧が現れた。振り下ろされる氷の斧をグレンは後ろに飛び上がりかわした。大きな冷気の白い煙が巻きあがり飛んだグレンの頬を濡らす。
ウォルフは氷の斧を戻して振りかぶり体を開きながら横に向けた。彼の右横にクレアがおりサーベルに大剣を受け流され地面を大剣で叩いていた。彼女は左手をすぐに大剣から離して向かって来る氷の斧に人さし指を向けた。指先から伸びた光の剣が氷の斧を貫通し破壊した。破壊され破片となった氷の斧が、飛び散りながら溶けウォルフの頬を濡らす。クレアは大剣を戻し右腕を引き、後ろに下がりながらウォルフに向けた。
「チぃ!!!!」
氷の斧を大剣で破壊されたウォルフは背後に飛んで距離を取る。飛んで行ったウォルフを一瞥するクレアだった。大剣を戻して下した状態で立つ、クレアに駆けてきたグレンが声をかける。
「惜しかったな…… さすがに神聖騎士ってとこか」
「昔から変わりませんね……」
「うん!?」
首をかしげるグレンに向かって、クレアは顎でウォルフの後ろにある積まれた瓦礫に隠れ顔を出す、ディーアを指し口を開く。
「ディーアさんですよ」
「??」
視線をディーアに向けるグレンだったが、意味がわからずますます首をかしげた。
「後ろに守る者がいるとき…… ウォルフの力は上がっていきます…… わずか一年とはいえ私達を守り抜いたんですからね」
嬉しそうにわずかに口元を緩ませクレアはウォルフに視線を向けた、横に立つグレンはどこか不満げにしていた。
「あのまま精進していたら私達のようになれたかも知れません」
寂しそうにつぶやくクレアにグレンが口を尖らせ答える。
「だったら教えてやりゃよかったのに……」
「嫌ですよ…… 私の声を聞いてくれないんですもん…… 聖女さんばっかり見て……」
眉間にシワを寄せ嫌悪感丸出しでグレンに顔を向けるクレアだった。グレンは彼女の顔を見て安堵し笑った。
「ははっ…… そうか…… ならしゃーねえな」
どこか嬉しそうにグレンは言葉を弾ませている。クレアは彼に向かって大きくうなずいた。
「はい。グレン君とは違います。グレン君はお姉ちゃんの言うことよく聞いて強くなりました」
「なんか嬉しくねえな…… もういい。さっさと行くぞ!」
「ムっ!? あっ!? 待って下さい!」
頬を膨らませクレアを置いてグレンはウォルフにむかって駆け出した。置いて行かれたクレアは慌ててうなずいて彼の後を追いかけるのだった。
「チッ! はあはあ…… なっなんだ…… 体が……」
舌打ちをしたウォルフの息遣いが荒くなっていく、鼓動が早くなり体が震え彼は思わず右手で胸を押さえる。振り向くウォルフの視界に瓦礫から顔を出し、ディーアが彼を心配そうに見つめている姿が映る。
「わっ…… 私は…… 私は…… 猊下と…… 聖女様をおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
必死に鼓動を押さえるように胸を強く押さたウォルフは強引に体を起こした。右手に持ったサーベルと構え迫るグレンとクレアに向かって走り出した。
「クレア義姉ちゃん! 俺に任せろ!」
振り向いたグレンが速度をあげウォルフへ向かって行く。クレアはうなずいて立ち止まった。
先に行ったグレンは大剣を構えるウォルフとの距離を詰めていく。ウォルフはグレンの動きに反応し迫る彼に向かってサーベルを振り下ろす。グレンは彼のサーベルを迎えうった。
「ぬぅ!!!」
「ふん!!!」
サーベルを押し込むウォルフにグレンは鼻で大きく息をして押し返す。こすれる音がしてグレンとウォルフは大剣とサーベル越しに向かい合う。
「まだ…… 月の光は輝いているぜ。聖女様がいないけど大丈夫か?」
「黙れえええええええ!!!!!」
全身に力を込めてウォルフがグレンを押し始めた。
「なっなんだ…… 力がさっきよりも…… チッ!!」
グレンは両足に力を込め踏ん張り必死にウォルフを押し返す。二人の力は拮抗し膠着状態になる。クレアはジッと二人の様子を見て振り返った。
「はい!!」
クレアはキティルに顔を向け左手を前後に動かし行けと合図を送った。キティルは大きくうなずいて返事をして駆け出した。
徐々にグレンをウォルフは押し始めていた。グレンは必死に両手に力を込め押し返すが、足が地面にめり込み彼が持っていた大剣が下がっていく。
「グッ……」
「お前たちがディーア様に触れることはない!!!」
必死の形相で自分を睨むウォルフだった。グレンはさらに表情をきつくしてウォルフを睨む。グレンの目の奥の赤い光が強くなり青いオーラが輝きをましていき毛のような縁がさらに激しく揺らめく。
「これが…… 守る者が後ろにいると強くなるか…… すげえよ。でも…… 俺は逆だ!!!!」
「はっ!? なんだお!? うわああ!!」
揺らめいたいた青いオーラが止まり逆立ったように鋭く細く伸びた。
大剣を強く前にグレンが押し出した。彼の力に耐え切れずにウォルフはサーベルから左手をはなし、腕をあげ後ずさりする。グレンは前に出て大剣を構えた。
「クソオオオオ!!!」
「オリャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
左拳を握り振り下ろすウォルフだった。彼の左手が青く光り白い氷の斧が出現しグレンへ向かっていく。
グレンは白い斧に目線を向け体の横で構えていた大剣を振り上げた。氷の斧とグレンの大剣が衝突する。
「なっ!?」
激しい音がして周囲に氷の粒がばら撒かれた。ウォルフの作り出した氷の斧は粉々に砕かれた
破壊された氷の斧の白い冷気が周囲に漂い視界が一瞬だけ悪くした。煙に紛れたグレンはウォルフの背後に回り込み右腕を引き剣先をウォルフへと向ける。
「はっ!?」
気配に気づいたウォルフは体を横にそらしたグレンの大剣が突き出された。ウォルフの右胸をグレンの大剣が貫いていく。
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
ウォルフの体をグレンの大剣が貫通し串刺しにされた。体を横にそらしたことで致命傷になる心臓への直撃はなんとかさけたウォルフだった。彼の手からゆっくりとサーベルが滑り落ち地面に転がった。
「うぐぐぐ……」
苦痛に顔をゆがめ視線を後ろに向けるウォルフだった。心臓を外したグレンは悔しがることもなくわずかに口元を緩ませた。
「ウォルフ様…… やはり私が……」
傷ついたくウォルフに手を伸ばし悲し気につぶやくディーアだった。彼女の背後から駆けて来たキティルが声をかける。ディーアはウォルフの戦況が気になり背後から近づくキティルには気づいてなかった。
「エリィ!!!」
「なっ何者!?」
振り向き身構えるディーアに口は笑って目には涙をため、キティルは彼女を見つめるのだった。




