第347話 甘くて強い人
尻もちをつくキティルの前でグレンは倒れていた。顔を背けて耳まで真っ赤にしキティルの下着を見つめるグレンから、二メートルほど離れた所にクレアは立っている。彼女は冷めた目で二人を見つめていた。
大剣を背中にしまったクレアはグレンの背後からそっと近づく。しゃがんでクレアは真っ赤に染まった彼の耳元でささやく。
「エッチ!」
「うああああああああああああああああああああああああ!!!! 違う!! 見てない!! 見てない!!」
「へっ!?」
飛び上がるようにして叫び声をあげて勢いよく立ち上がり後ろに下がっていくグレンだった。声を聞いたキティルが前を向く。クレアは立ち上がり尻もちをついたキティルに指を立てて体をかがめて顔を覗きこむようにして注意する。
「キティルちゃん! はしたないですよ!」
「ああ!? キャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
視線を下に動かすクレアにキティルは自分の状況を見て悲鳴をあげる。キティルは慌ててスカートの裾を押さえて下着を隠す。
グレンはホッと安堵の表情を浮かべる。彼の横にすっとクレアがやってきて腕を組んだ。
「ジー!!」
「見てない! 見てないって!!」
クレアの視線に気づき慌てて無駄な言い訳をするグレンだった。クレアは首をかしげ優しくほほ笑みグレンに問いかける。
「何色でした?」
「えっ!? ピッ…… ふっ! ひっかかるかよ!」
キティルの下着の色を言いかけたグレンは罠に気づき、首を振って慌てて言葉を引っ込め得意げな顔をする。クレアはグレンの態度を見て、わざとらしく心配そうな顔をして右手を彼の頭に置いて撫で始める。
「大丈夫ですか? すぐ前のことを忘れちゃうなんて…… 頭を強く打ったんですか? 痛いの痛いの飛んで行けー!」
「やめろ! ピンクだよ! はっ!?!!?!!?」
頭の上に置かれたクレアの手をグレンが振り払いながら。キティルの下着の色を叫ぶ。義姉の罠に義弟が引っかかった瞬間である。グレンは顔を青くしキティルは目に涙をため顔を真っ赤にする。
「グレンさん…… バカ!! 嫌いです」
「ふふふ」
うつむいて恥ずかしそうにするキティルに、どうしていいのかわからずおろおろするグレンだった。クレアは二人を見て満足そうに微笑んでいた。
「さて……」
グレンとキティルを交互に見てクレアが小さく息を吐き真面目な顔をする。
「何を仲間で争っているのですか? 対象を早く排除しますよ」
「だったら邪魔するなよ……」
「排除なんてダメです! だってエリィを……」
口を尖らせ不満げにするグレンに必死にクレアに訴えるキティルだった。クレアはキティルの前にしゃがんでジッと彼女の顔を覗き込む。
「前にも言いましたよね? 私達がやることを全て肯定するつもりはありません。ただ今やらなきゃいけないことをやるだけです」
「でも…… それでエリィを殺すなんて…… 私には出来ません!」
「だからそれは俺達が…… えっ!?」
キティルに詰め寄ろうとしたグレンの口に手をあて首を横に振るクレアだった。クレアは彼に静かにするように意思表示をした後、キティルに顔を向け口を開く。
「親友を殺されたくないならあなたが彼女を捕まえて責任をもって管理してエリィさんに戻してください。私達が排除するのは聖女ディーアです…… 良いですね?」
静かにゆっくりとクレアは言い含めるようにしてキティルに話す。クレア達が排除するのは、聖女ディーアであり冒険者のエリィではない。クレアはキティルが全責任を負ってディーアをエリィに戻せと言っているのだ。キティルはクレアの言葉に顔を明るくしてうなずいた。
「はい! わかりました。私が…… ディーアを…… ううん。エリィにしてみせます」
キティルは足元に落ちていた杖を拾うとファイアウォールの前へと駆けていった。足取り軽く駆けていくキティルとクレアは優しい笑顔で見つめていた。彼女の横にグレンがやってきてあきれた顔をする。
「甘いですかね……」
「知らねえ…… でも…… 良いんじゃね」
「えっ!?」
右肩に左手を置き腕を回し大剣を肩にかついだ、グレンは彼女の一歩前に出た振り向いた。
「俺だって出来ればやりたくねしな……」
「ふふ! ありがとう。グレン君!!!」
「わっこら!?」
ニコッとほほ笑んだグレンにクレアは両手を広げて抱き着いた。いきなり抱き着かれたグレンは彼女を離そうと手を伸ばす……
「わああああああああああああああ!!!」
「きゃあああああああああああああああ!!!」
唸る音を上げながら猛スピードな炎の球がグレンとクレアの間を狙って正確に飛んで来た。火の球の接近に気づいた二人は左右に別れるようにして離れた。二人の間を火球が飛んで行き建物に当たり爆発した。
二人が視線を前に向けると杖の先端を自分達に向け怖い顔をしているキティルが見えた。彼女の杖の先端から立ち上る白い煙が彼女が火の球をはなったことを物語っていた。
「あっあぶねえだろ!」
「ごめんなさーい。間違えました…… チッ!」
「ジー…… ふん!!」
舌を出して笑顔で謝ったキティルは振り向いて小さく舌打ちをする。グレンは首を横に振りクレアは不満そうに口を尖らせそっぽを向くのだった。
「早く! ファイアウォールを消すから来てください」
振り向いたキティルがグレンとクレアを呼ぶ。グレンはクレアに向かって手でキティルを指して口を開く。
「ほら…… 行こうぜ。ウォルフたちを倒さないと……」
「はい」
グレンに促されクレアは小さくうなずいた。ファイアウォールの前で、キティルを挟むようにしてグレンとクレアは立った。
「エリィは私が…… 二人はウォルフをお願いします」
「わかったよ……」
「はい。じゃあお願いします」
キティルは顔を動かしグレンとクレアに声をかけた。うなずくグレンとクレアにキティルは前を向き杖で地面と軽くついた。ファイアウォールは現れた時と逆にゆっくりと下がっていき地面の中へと消えて行った。
ファイアウォールが消えるとウォルフたちが見えて来る。ウォルフの体は再生しエリィは彼に寄り添っていた。ウォルフはクレアを見て目を大きく見開く。
「クレア……」
「ウォルフ…… グレン君から聞いてますよね? あなたを排除します」
大剣に手をかけるクレアを見てウォルフは眉間にシワを寄せた。
「また…… お前が私から聖女様を奪うのか……」
「はて? 私はあなたから何も取った記憶はなにですよ」
「変わったな…… お前はもっと優しかった……」
憐れんだ表情でクレアを見るウォルフにクレアは毅然とした態度で首を横に振った。
「違いますよ。あなたが勝手に卑屈になっただけです。これ以上私を失望させないでくださいね」
「だとよ!」
「黙れ!! ディーア様…… お下がりください」
ウォルフはディーアをかばうように前に出た。うなずいたディーアは振り向いて走っていく。
「私とグレン君がウォルフを引きつけます。その間に彼女を……」
「わかりました。お願いします」
小声でクレアはキティルに指示を出した。キティルがうなずいて返事をすると、グレンとクレアは顔を見合せうなずいた。
キティルが一歩前に出ると同時にグレンとクレアは駆け出した。
「一気に行くぞクレア義姉ちゃん」
「はい…… ごめんなさい…… ウォルフ!」
駆けながらクレアがやや前に出て背中に持っていた大剣を勢いよく振り抜く。クレアは大剣を引き抜くと同時にウォルフに向けて大剣を振り下ろすのだった。




