第346話 仲裁お姉ちゃん
飛び上がったウォルフはディーアに向かって飛んで行く。飛ぶ彼の切り裂かれた断面が、銀色の触手のようなものが現れた。触手がウォルフの体を再生させようとしているようだ。
だが、飛んでいた頭と右腕だけのウォルフはディーアまで行けずに地面に落ちた。断面の触手が消えていく。
「あっあああああああ!!!! なぜだ!!!! なぜ!!!」
必死にディーアに手を伸ばし叫ぶウォルフだった。ディーアは怯え口元を両手で覆い涙目でウォルフを見つめている。
グレンは大剣を肩にかついで振り向いてウォルフに向かって歩き出す。歩きながらグレンは左手で月を指さした。
「月は太陽により輝き太陽は月によって女神の大地に光る。二つの光はアーリアの慈悲を現す…… 俺が唯一知っている説教だ」
「なっ!? なんだと」
アーリア教の集会で神父からもらう説法の一つを語りながら歩くグレンだった。歩く彼はさらに口を開く。
「太陽ほどじゃねえが月にはヴァンパイアの力を祓う力がある。そして俺の特殊能力は月のほほ笑みだ……」
ヴァンパイアは陽の光が弱点であり日に当たると消滅する。再生能力も日の光に当たれば無効化される。月は太陽により光るため、月光にはヴァンパイアを消滅させる力はないが再生を妨げる力はある。
ちなみにヴァンパイアの教えには月の光に油断するなという格言があったが、純粋なヴァンパイアではないウォルフはこの格言は知らない。
「クソ…… クソオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
悔しそうに手を伸ばし叫ぶウォルフだった。銀色の血のような液体が断面から流れだしていく。彼は右腕一つだけ必死に這ってディーアの元へ向かう。一歩ずつグレンはウォルフとの距離を詰めていく。
「ウォルフ様…… すぐにわたくしが……」
ディーアは両手を前に出した彼女の両手が緑に光りだした。ディーアはウォルフに回復魔法をかけるつもりのようだ。
「させるか!!!!」
グレンはディーアを見て眉間にシワを寄せた。彼は肩にかついだ大剣を強く握りしめディーアに向け駆け出した。グレンはディーアとの距離を詰めたグレンは大剣を振りかぶった。
「うっ!? クソ!!!」
前を見て自分を見たディーアにグレンがわずかに躊躇した。エリィとの思い出が一瞬だけ彼の判断を鈍らせたのだ。
すぐにグレンは首をわずかに横に動かし瞬いてディーアに振り下ろす。迫りくる大剣にディーアは臆することなく両手をウォルフに向けたままだった。
「やっやめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
ウォルフは手を伸ばし必死に叫んだ。グレンの大剣はディーアの頭へ向かって行く。
「なっ!!!!」
ディーアの周囲に炎の壁が現れせり上がり、グレンの大剣を防いだ。激しく燃え盛る炎の壁にグレンは見覚えがあるこれは……
「ファイアウォール…… クソ!!!」
叫びながらグレンは振り向いた。彼の背後に杖を自分に向けるキティルの姿が見えた。
「やめてください! グレンさん!! 彼女はエリィですよ!!!」
キティルはグレンに向かって叫んだ。
「知っているさ…… でも今は聖女ディーアだ。俺達が排除すべき存在だ」
「そっそんな…… グレンさんまで……」
大剣を肩にかつぎグレンは淡々と、今のエリィは福音派の聖女であり排除対象であることを告げた。キティルはショックを受けた様子で悲し気な表情をするのだった。
息を吐いたグレンはキティルに口を開く。
「ふぅ。キティル…… 引け! 君に見せたくはないんだ」
左手を前に出して下がるように強い口調で指示するグレンだった。キティルは大きく首を横に振り真剣な表情で叫ぶ。
「嫌です!!! ディーア…… エリィがエリィに戻れば排除しなくて良いんですよね? だったら私が彼女を戻します!」
「無理だ!!! もう彼女はエリィじゃない!」
グレンはさらに強くキティルの主張を否定した。しかし、強く否定されたからと言ってキティルは親友を見捨てることなどできない。彼女はグレンにさらに食らいつく。
「なっなんでですか?!?! レイナさんには吸血症の治療するように伝えじゃないですか!」
「一日待っただけだ。二人の治療が出来なければ俺が二人を殺す…… そういう約束だ」
「だったら私にも…… 一日をください! 彼女を…… エリィを絶対に元に戻します」
「君は薬師じゃないだろ。これは遊びじゃないんだ!!! 下がれ」
振り向いたグレンは大剣を大きく振りかぶった。目の光が強くなり纏った青いオーラが激しくゆらめいていく彼は大剣を持つ手に力を込める。彼の本気の一撃であればキティルのファイアウォールを破壊することは造作もなかった。
「わからずや!!! ファイアウィップ!!」
叫んだキティルが杖を横に振った。杖の先端が赤く光り出って炎の鞭が伸びていき、グレンの大剣に絡みつく。
「なっ!? 何をする!?」
「いっ嫌です!!! 私はエリィの仲間です。冒険者には…… 相互安全義務があるんですよね! だったら私がエリィを守ります!!」
グレンは後ろを向いて鞭を外そうと強引に大剣を引っ張った。引っ張られたキティルは両手に杖を持って必死に耐えて叫ぶ。
「この!!」
「キャッ!!」
「ふん」
力を込めグレンはさらに力強く鞭を引っ張った。前のめりに倒れて地面に杖を落とし鞭が消えた。グレンは倒れたキティルに鼻息荒くして睨む。
「まっ負けないんだから!!」
必死にキティルは杖をすぐに拾ってまたグレンに向けた。グレンは彼女の様子を見て眉間のシワを深くする。
「チッ…… ガキが…… わからせるしかねえようだな」
「ヒッ!!!! わっ私だって……」
吐き捨てるようにつぶやいた、グレンは駆け出して一気に距離を詰めた。キティルは怯えて悲鳴をあげた。逃げ出そうと後ろに下がりたい気持ちを必死に我慢して彼女は両手で杖を持って構えた。
グレンは大剣を振りかぶる。キティルが手に持った杖の先端から炎の刃が伸び槍のようになった。振り下ろされるグレンの大剣、目をつむってキティルは必死に炎の槍を彼女に突き出した。
激しく大きな音が響いた。
「えっ!? えぇ!?」
目をつむったままのキティルが驚いて目を丸くする。グレンとキティルの間に一人の人間が立っていた。
「クックレア…… 義姉ちゃん……」
にっこりとクレアはグレンにほほ笑んだ。クレアはグレンとキティルの間に立っていた。彼女は左手でキティルの杖を掴み、右手に持った大剣でグレンの大剣を受け止めていた。
「なっなにするんだよ……」
「そうですよ! 止めないでください!」
二人がほぼ同時にクレアに叫ぶ。クレアは視線を左右に動かしムッとする。怒ったのではなくグレンとキティルの声がそろったのが嫌なのだ。
「喧嘩は…… ダメです…… よっ!!!」
言葉を強く吐き出したクレアは左手を軽くひねり、同時に彼女は右手に力を込めグレンの大剣を押し返した。キティルの体は浮き上がりその場で一回転しクレアは投げ捨てるように彼女の杖から手をはなす。押し返されたグレンは両腕をあげた姿勢になった。クレアはすっとグレンの背後へと回り込み彼の尻を蹴り上げた。
「うわあ!」
「キャッ!!!」
杖を捻られて一回転したキティルは尻もちをつき、蹴られたグレンは前のめりに彼女の前で地面に顎をうつ。
「いてて…… いっぅっ!!!!!!!!!!!!!」
「うぅ……」
顔をあげたグレンの前に膝をあげたキティルが座っていた。短いスカートの裾がまくれ彼女の太ももの間にピンクの下着がグレンの視界の前にあり、彼は声をあげて頬を赤くしていた。尻を押さえて顔を横に向けていたキティルはグレンに気づかないでいた。




