第345話 女神の加護
逃げられないようにウォルフは左手を伸ばしグレンの肩をつかんだ。グレンの胸へと向けたサーベルが伸びる。グレンは左手を右肩に伸ばし逆にウォルフの手をつかみ、大剣を持った右腕に力を込め上下に動かし反動をつけ体をひねった。
横からウォルフの体へ向け大剣が伸び、ウォルフのサーベルがグレンの胸へ突き出される。
「ぬわあああああああああああああああああ!!???」
サーベルがグレンの胸に届く直前に、横から鋭く伸びて来た大剣がウォルフに叩きつけられた。グレンの右手に重い衝撃が伝わり、ウォルフの体に大剣がめり込り激痛が走って彼の視界が上下左右に揺れる。
振りぬかれたグレンの大剣によりウォルフの体は吹き飛ばされて地面へと落ちていく。
「ぐわあああ!!!」
ウォルフは地面に叩きつけられ大の字になっている。ウォルフの元へディーアが駆けていく。彼女は途中で彼のサーベルを拾っていた。
「……」
首を横に振りグレンは視線を下に向けた胸当てに小さな刀傷が出来ている。ウォルフのサーベルの剣先がわずかに届いていたようだ。
「ふぅ…… イブラージに強化魔法か…… やっかいだな……」
体を起こし立つ姿勢になり、グレンは地面に落下したウォルフへ視線を向けた。彼はさらに左足で地面をける仕草をしさらに上空へ上がっていく。
上空十メートルほどでグレンは右肩に大剣をかつぎ左手を地面へ向けた。彼の左手はわずかに白く光り出す。
「さぁ…… 女神の光よ!」
グレンのポケットから瓶詰めの月菜っ葉の酢漬けが飛び出し光を放って瓶を割った。さらに地面に散らばっていた十枚の月菜っ葉が浮かび上がりグレンの周囲に浮かぶ。グレンを月菜っ葉が囲み彼の後ろに月が浮かんだ。月灯りに月菜っ葉が照らされ黄色く強く光り出す。
「ウォルフ様! これを」
「もっ申し訳ありません…… ディーア様」
起き上がったウォルフにディーアはサーベルを差し出した。サーベルを受け取ったウォルフはディーアに左手を向けた。
「ここから…… 早く…… なっなんだ!? なにを……」
「まっまぶしい」
優しく穏やかだが力強い光が上空からウォルフとディーアを照らした。空には月が輝きを増しグレンが光に照らされていた。まぶしく顔を手で覆った二人に視界に居たグレンの姿が消えた。
「キャッ!!!」
空に浮かんでいたグレンがディーアとウォルフの前に現れた。彼はディーアに視線を向け、肩に担いでいた大剣を持ち上げ振りかざした。
「ぬぅ!!!」
「キャッ!!!!!」
慌ててウォルフは前に出てサーベルを頭上で水平に持ってグレンの大剣を受け止めた。グレンの大剣はサーベルを滑るように落ちて地面を叩いた。砂埃が舞って周囲の地面がわずかに揺れ衝撃波が周囲に広がる。衝撃波で建物のがれきが動きディーアは耐え切れずに尻もちをついた。
グレンは舌打ちをしにやりと笑って視線をウォルフへ向けた。
「チッ!! やるじゃあねえか……」
「早くお逃げください!!! うわあああああああああああああああああ!!!!」
振り向いて叫ぶウォルフ、すぐに剣を戻すと同時にグレンは横から大剣で彼を斬りつけた。グレンの大剣はウォルフのサーベルにぶつかった。先ほどと違い防ぐことは出来ずウォルフのサーベルは端かれ大剣が右脇にめり込んでいく。ウォルフの胸当ては切り裂かれ脇腹に大剣の刃が刺さった。グレンは軽く斬りつけたため硬い骨に大剣は止まる。だが、グレンは力任せに大剣を振り抜いた。ウォルフの体は浮き上がり大剣から抜け吹き飛ばされてしまった。吹き飛ばされたウォルフあ建物にぶつかり破壊しながら数十メートル飛んで行った。
「ヒッ!!!」
尻もちとついていたディーアにグレンは視線を向け彼女は悲鳴をあげた。腰が抜けて立てないディーアは必死に後ずさりする。グレンは彼女の姿を見て悲し気な表情をした、ノウレッジにやって来た親友を格上の魔物から身を挺して守った勇敢な狩人の姿はそこになかったからだ。
「もういい…… お前は後回しだ……」
ディーアから視線を吹き飛んでいったウォルフへ向けるグレンだった。砂埃で舞う崩れた建物瓦礫の中にウォルフは埋もれており姿は見えない。グレンは左手を瓦礫へと向けた。
浮かんでいた二十枚近い月菜っ葉が光線を出した。光線が建物のがれきを吹き飛ばしていく。
グレンから数十メートル離れていた瓦礫の中に、脇から血を流し仰向けに倒れていた。彼の周囲のがれきが無くなり視界が広くなっていた。直後に黄色い光る月菜っ葉が彼の視界に映った。
「えっ!? ウギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
月菜っ葉は光線を一斉に撃ちだした。ウォルフの銀色の体を光線が貫きウォルフは声をあげた。彼は心臓を貫かれないように必死に体をよじった。穴だらけになりながら必死に起き上がってウォルフは飛んで逃げる。光線をかわしながら空へと上がるウォルフだった。
「ほら! 早く逃げないと穴だらけだぜ!!!」
上空へと上がっていくウォルフにグレンは笑いながら声をかける。
「ぬうううううううううううううううううううううううう!!!」
「チッ!!!」
サーベルを振り回し月菜っ葉を叩き落とそうと振り回す。グレンは左手を自分に向け手招きするように動かす。彼の手の動きに反応して月菜っ葉が戻って来た。
グレンは右肩に大剣をかつぎウォルフに視線を向けゆっくり前に出た歩き出す。
「クソ! 私は…… 認められ猊下と聖女様の力を!!!!!! なにもせず与えられたお前とは…… 違うんだ!!!」
近づくグレンに眉間にシワを寄せウォルフが怒鳴りつけた。ウォルフはサーベルを構えて一瞬でグレンの前に来て立ち塞がった。同時にグレンの首を目掛けてサーベルで切り付けて来る。グレンは体をひねって右肩にかついでいた大剣でサーベルを受け止めた。
「なっ!? なぜ…… 与えられた力が私の力に…… 勝てるわけ……」
「俺やクレア義姉ちゃんが本当に何もせずに強くなったと思っているのか?」
両手に力を込め大剣を押し込むグレンは首をかしげる。押されて必死に踏ん張りサーベルを持つ両手に力を込めウォルフは叫ぶ。
「違うのか? お前たちの特殊能力は与えられたものじゃないか!!!」
「そうか…… きっとお前には一生わからねえな!!!」
「ぐぬうううううううううう!!!!」
グレンが大剣をさらに押し込んだ。ウォルフはサーベルを上に弾かれ踏ん張り切れずに後ずさりする。素早くグレンは大剣から左をはなし右腕を引いて突き出す。
「ぐっ!? クソオオオオオ!!!」
心臓を狙って鋭く伸びて来たグレンの一撃がウォルフの左肩を貫く。ウォルフはなんとか一歩だけ右横に移動してかわした。グレンは顔をしかめすぐに大剣を上にあげた。大剣を振りかざすようになったグレンはそのままウォルフに大剣を振り下ろした。
「なっ!? ウギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」
振り下された大剣がウォルフの左肩から右わき腹まで切り裂いた。ウォルフは右腕と肩から頭だけになって地面にたたきつけられた。
「ウォルフ様!!!! いやああああ!!!」
ディーアが悲壮な様子でウォルフの名前を叫ぶ。駆け寄ろうとするディーアだが恐怖で足がすくんで動けないでいた。
「チッ! 体をひねって心臓を外したか……」
グレンは落ちたウォルフを見て舌打ちをした。グレンは大剣で心臓を真っ二つにしようとしたが外されたようだ。
「おっ!? そうか…… ヴァンパイアだもんな……」
残った右腕で地面を叩きウォルフは飛び上がりグレンとの距離をとったのだった。




