第344話 残酷な事実を告げられて
グレンとウォルフの戦いが始まった頃。
クレアとキティルは地下の遺跡から、修道院へと上がって聖堂脇の通路を駆けていた。二人はグルファーブルを討伐しグレン達と追いかけていた。
「はあはあ……」
「うん!?」
正面玄関へとつながる曲がり角で振り向いてクレアは立ち止まった。キティルが息を切らしやや遅れたたため待とうとしたようだ。
立ち止まったクレアの耳をかすかに赤い光がかすかに照らした。直後……
「なっ!? お前ら!? 何も…… ギャアアアアアアアアアアアアア!!!!」
クレアは視線をわずかに右に動かし、右手の指を二本立て腕を横にのばした。彼女が立てた二本の指先から光の剣が鋭く伸びていく。
通路の先からヴァンパイアが武器を持って駆けて来ており、光の剣はヴァンパイアの額と心臓を貫いた。
クレアは指を曲げ後ろに下がるように手と指を動かした。光の剣はすっと消えて行った。クレアはキティルに顔を向け小さく息を吐く。
「ふぅ。どこかで少し休みましょうか……」
「だっ大丈夫です。早く…… グレンさんとエリィの元へ……」
近づいて来たキティルにクレアは休憩を提案したが、彼女は首を横に振り先を急ぐというのだった。クレアはキティルを見てから再び駆け出した。しかしすぐに二人は呼び止められる。
「あっ!! クレア! ちょうど良かった」
「ソーラさん!?」
ナーとグレンを案内していた猫を両脇に抱えたソーラが聖堂の扉の前に立っていた。彼は近づいて来たクレアを見て安堵の表情を浮かべ顔を聖堂の扉へ向けた。
「ここを開けてよ!」
聖堂の扉を見つめソーラはクレアに開けるように依頼する。クレアはソーラの横に来て彼の横で扉を見上げた。金属の扉は外側からは見ても変哲もなくクレアは首をかしげた。前に出た彼女は右手で扉にそっと触れた。
「これはグレン君の…… フォレストガーディアン…… なるほど…… わかりました」
振り向いてクレアはソーラにうなずいた。ソーラは猫と顔を見合せ嬉しそうに笑う。クレアは両手を扉に
置き肘をまげグレンの胸に抱かれるように頬をつけた。ほんのりと扉が温もりを感じクレアの鼻にわずかな愛する人の匂いが漂う。クレアが触れると聖堂の扉がほんのりと緑に光りだす。
「大丈夫そうだね」
クレアの様子を見てソーラがうれしそうに笑ってナーと猫を手からはなした。彼の後ろにたつキティルは首をかしげる。
「フォレストガーディアンって植物を使って障壁を作る魔法ですよね…… なんでクレアさんが解除を……」
グレンが聖堂の扉を封じたのは、フォレストガーディアンという木属性の魔法で、植物を障壁のようにし強度を変質させ周囲の攻撃から身を守ってくれる。
キティルの言葉にソーラが笑って答える。
「ふふ。しょうがないよ。あれを使う時はグレンは特別な封印をかけるからね」
「特別な封印って…… どういうことですか?」
「うん。彼が一番信頼している人が触れると一時的に障壁を解除して通してくれるんだよ」
フォレストガーディアンにはグレンが特別な術を施しており、特定の人間が触れると一時的に障壁を解除できるという。
「あっ!! でも…… 信頼というよりか愛している人かな」
「はああああ!? なんですって!!!
「えぇ!? どっどうして僕に怒るの!?」
眉間にシワを寄せ怒った顔でキティルはソーラに詰め寄った。彼の足元にいた猫は怖がってクレアの元へかけていった。なぜ自分が怒られたのかわからずソーラは困惑をするのだった。
「あら!?」
「にゃああ!!!」
「うん!?」
クレアは駆けて来た猫に気づいて声をかけた。猫が後ろに顔をむけなくと彼女も振り向いた。クレアの目に詰め寄るキティルとソーラを見えて、彼女は首をかしげて二人に声をかける。
「どうしたんですか? 開けますよ」
「うっうん! 大丈夫! お願い」
「ふー!! ふー!!!」
ソーラは右手をあげ答えたクレアは首をかしげた聖堂の扉を開ける。キティルは眉間にシワを寄せ鼻息荒くソーラを睨みつけていた。
「あっ…… やっぱり…… グレンさん…… いつか私も……」
扉を開けるクレアの背中に視線をむけつぶやくキティルだった。
開いた扉から三人と二匹の猫は聖堂の中へと入るのだった。
「やっぱりクレアちゃんだ! グレン君が言った通りだね! ふふふ。やっぱり二人の愛は……」
「キッ!!!!!」
「ヒッ!!!」
聖堂の中央にいたレイナがクレア達に手を振りながら駆け寄って来て声をかける。レイナの言葉にキティルがものすごい形相で睨みつけ彼女は悲鳴をあげた。ソーラとクレアはキティルの行動に苦笑いをしたのだった。
クレア達はレイナに連れられ聖堂の中央へと移動する。ベンチが取り除かれた聖堂の中央に焚火がたかれ鍋がかけられている。焚火の横にノールとチョコが寝かされていた。なぜか凍り付いたグルーナの死体がそばに転がっている。
「レイナさん…… この人たちは?」
「えっと……」
ノールとチョコを見てレイナに尋ねるクレアだった。レイナは聖堂に踏み込んだ際に襲われていた二人を助けたこと、二人は血療隊というヴァンパイアに血を提供するための奴隷であることを伝えた。
「それでね…… 今は彼女たちの吸血症の治療をしているのよ」
胸を張って答えるレイナにソーラは驚いた表情をする。
「えぇ!? 出来るの!? 吸血症って…… 治療した人はいままでいないはずだけど……」
グレンと同じようなことをいう、ソーラにレイナは顔を向け真剣な表情で答える。
「うん。彼女達の証言からヴァンパイアの体液を飲むと吸血症の進行が止まるみたいなの……」
ノールとチョコを手で指しながらレイナは話を続ける。
「冷凍保存したヴァンパイアの血液を二人に飲ませね。抵抗力が高まった状態の血からうまく血清を作ることが出来れば……」
「なるほどね…… 吸血症のヴァンパイアにもう怯えなくてよくなるね」
話を聞いたソーラが納得したようにうなずいていた。ナーに視線を向けソーラは少し話しづらそうに口を開く。
「実はグレゴリウスは吸血症でナーが保護しているんだ。彼の分もその血清をつくってもらえるかな?」
「えっ!? もちろんだよ! 任せて!」
胸を張って大きくうなずくレイナだった。
「グレゴリウスさんが…… グルファーブルですか?」
「多分ね…… 元から彼に興味があったみたいだからね」
「そうですか……」
うつむいたクレアは少し考えて顔を上げた。彼女は横になっているノールとチョコに視線を向け寂しげな表情をした。
「キティルさん…… 私はグレン君を助けに行きます。彼女たちの護衛をお願いします」
「えっ!? 嫌です! エリィを助けるんです」
クレアの指示を即座に否定するキティルだった。親友であるエリィが近くにいるのに彼女は自分が残ることは出来ない。キティルは声を強くしてさらにクレアに主張する。
「ここはグレンさんに守られています! クレアさんがフォレストガーディアンを説いたのは一時的ですよね。あなたが離れればまた壁が守ってくれるはずですよ」
キティルの言葉に困った顔をするクレアだった。クレアの様子を見たレイナがゆっくりと口を開く。
「ねぇ…… グレン君とクレアちゃん何を隠しているの?」
「えぇ!? 隠していることなんかないですよ」
慌てて動揺した様子で首を横に振るクレアだった。レイナは小さく息を吐き落胆した様子で口を開く。
「嘘よ! 私はこれでもグレン君のお姉ちゃんだよ。何かをずっと隠しているのくらいわかるわ」
右手を胸にあて真剣な表情でジッとクレアを見るレイナだった。二人の様子を見ていたソーラがクレアの横に立ちキティルを手で指した。
「クレア…… しっかりと伝えた方が良いよ。彼女には……」
「そうですね」
小さくうなずいたクレアはキティルに顔を向けた。口調が暗く真顔なクレアに周囲が重苦しい雰囲気に包まれる。
「レイナさん…… キティルさん…… 教会からの私達に送られた詳細な指示は……」
静かにゆっくりとクレアは話を始めた。キティルは黙って彼女の言葉を聞いていた。
「グルファーブル、ウォルフの両名の排除…… 行動を共にする聖女も併せて排除することです」
「えっ!? それって……」
右手の指を一本ずつ立てながら三本目で止めるクレアだった。教会からの指示は福音派の教皇グルファーブルと護衛ウォルフの排除に聖女して、擁立されたエリィも排除せよというものだった。青ざめた表情で両手で口を押さえショックを受けるキティルだった。しかし、彼女にすぐに怒りの感情が沸いて爆発する。
「なっなんでそんな命令を!!! あなたた達は!!!!」
キティルはクレアとソーラに怒鳴る。クレアは目を背けることなく真顔で淡々と彼女に答える。
「今のエリィさんは福音派の聖女です。ノウレッジの脅威になるものは排除しなければならないんです」
「そんな…… 嘘だよ…… 嘘よ!!!! グレンさんが…… エリィを……」
クレアの言葉にキティルはさらにショックを受けしゃがんで涙を流していた。クレアは泣いているキティルを見て何も言葉をかけられずに佇んでいる。ソーラはクレアに視線をむけ尋ねる。
「でも、エリィさんが記憶を取り戻し冒険者に戻れるなら…… 排除はしなくていいんだよね?」
「はい。でも…… その可能性は限りなく…… あっ!? キティルさん!?」
立ち上がったキティルは黙って走り出して聖堂の入り口へ向かう。すぐにレイナがクレアに口を開く。
「クレアちゃん追いかけて! あの子を助けてあげて……」
「ここは僕が残るよ。ナーもいるから大丈夫」
「お願いします」
うなずいたクレアはキティルを追いかけて聖堂から出て行くのだった。




