第343話 狼が牙をむく
空に浮かぶウォルフと地面に立つグレンは睨み合っていた。
二人から離れた場所に居るディーアは戦況をジッと見つめていた。彼女の視界に地面に落ちた突き刺さっウォルフのサーベルが映った。ディーアはハッとして両手を前にだしてサーベルへ向けた。
「はっ!?」
「チッ……」
サーベルが浮かび上がりウォルフの元へ飛んで行きグレンが視線を横に動かしディーアに向け舌打ちをする。ウォルフの手にサーベルが握られるとディーアは口を開く。
「ウォルフ様! お使いください! わたくしも…… あなたの力に!」
「ディッディーア様!!! ダメです! お下がりください」
笑顔で嬉しそうにディーアはウォルフに声をかけた。慌ててウォルフは彼女に向かって叫んだ。ディーアは首をかしげた直後に黒い影が彼女の前へと現れた。
「邪魔するな!!!!!」
ディーアの前にグレンが現れた。彼は大剣をディーアの首を目掛けて繰り出した。
「!!! えっ!?」
グレンは振り向き大剣を後ろに向けて両手で水平に動かしていく。グレンの背後にウォルフが急接近して彼にサーベルで斬りかかって来ていた。
ウォルフのサーベルとグレンの大剣がぶつかりグレンが驚きの声をあげた。グレンの体が激しい衝撃に襲われ彼は踏ん張りがきかずに横へ吹き飛ばされた。地面に叩きつけられる寸前にグレンは姿勢を直して着地し踏ん張って耐えた。着地した姿勢のまま彼の足は一メートルほど引きずられ砂埃をあげる。
「へえ…… やるじゃん!」
グレンは着地した姿勢のまま顔をあげウォルフを見た。ウォルフはグレンに視線を向けずにディーアに声をかける。
「ここは危険です…… お逃げください」
「嫌です…… あなたと共に居させてください……」
「むぅ…… わかりました。では……」
首を横に振ったディーアにルドルフは観念したように首を横に振り左手を彼女の肩にかけた。直後にウォルフの手が白く光り、同時に白い光の球体がディーアを包み込んだ。
「そこで大人しくしてください…… すぐに終わらせます」
「はい」
ディーアは目を輝かせ嬉しそうに大きくうなずいた。ディーアにほほ笑んだウォルフはグレンに顔を向けた。グレンは肩に大剣をかつぎ歩きながらウォルフに近づいて来ていた。
グレンを睨みつけウォルフの表情が徐々にきつく怒りが満ちていく。
「なるほど…… そういうつもりか…… オフィーリア!!!!!!! お前の性根はそこまでくさっているのか!!!!」
大きな声が叫ぶウォルフに驚き少し怖いのか怯えた表情をするディーアだった。グレンはとぼけた顔で首をわざとらしく首をかしげた。
「どうした? 聖女さんの名前なんか叫んで。命乞いでもするつもりか? 悪いが俺は誰の命令も受けずにお前を殺しに来ているんだ」
「黙れ!!!!! 見え透いた嘘をつきおって!!!」
グレンはウォルフの三メートルほど前で大剣をかついだまま止まって対峙する。ウォルフはグレンを見ながら右手に持ったサーベルに力を込めた。
「また…… 私から全てを奪うつもりか! オフィーリア…… もう…… 許さん!!!」
叫ぶと同時にウォルフはグレンに向かって走りだしサーベルで斬りかかる。サーベルで横からグレンに斬りかかるウォルフにグレンは大剣でサーベルを防ぐ。甲高い音が周囲に響きグレンとウォルフと大剣とサーベル越しに目が合う。
厳しい表情のウォルフにグレンは穏やかな表情で口元を緩ませる。
「奪う? お前は自分から魔王軍に志願したんだろ? なにも奪われてねえじゃねえか!」
「黙れ!!!! お前の狙いはわかっている!!!」
ウォルフは両手で力を込めたグレンを押し返した。グレンは押し返され後ろに下がり大剣とサーベルが離れた。素早くウォルフはサーベルを戻しグレンに斬りかかった。ウォルフの動きに気づいた、グレンは後ろに飛んで彼との距離をとった。サーベルは空を切った。
グレンはウォルフと三メートルほど距離に着地した。ウォルフはサーベルをグレンに向け叫ぶ。
「お前の狙いは私とディーア様を殺すことだ!!!!!!!」
建物の残骸がつもる周囲にウォルフの声が響いた。白い光の壁の中でディーアはグレンに視線を向けた。
「ふっ……」
小さく息を吐き口元と緩ませグレンは何も言わずに大剣を構えた。ウォルフはサーベルを力強く握りしめ駆け出す。
「答えろ!!! 卑怯者め!!!」
グレンとウォルフの距離が瞬時に縮まった。敬愛する猊下を見下し自分を侮辱した憎き敵へウォルフのサーベルが鋭く伸びていく。グレンは落ち着いて大剣を振り上げ向かって来るサーベルを弾く。
わずかにグレンの顔が歪む。怒りに任せて振り下ろされたサーベルは強くグレンの右手がしびれたのだ。グレンはスッと片手で持っていた大剣を両手に持ちかえた。
「はっ!!!」
弾かれたサーベルをすぐに戻してグレンにもう一度剣を振り下ろし斬りかかる。足を踏ん張りグレンは大剣を素早く戻し向かって来るサーベルを受け止めた。
大きな音がしてサーベルが止まり、ウォルフ眉間にシワを寄せ怒って力任せに押し込んでいく。必死に両手に力を込めてグレンは大剣でサーベルを押し返す。
「熱くなるなよ…… 足元をすくわれるぜ」
「黙れ!!! フン!!!」
グレンを睨んでウォルフは鼻息を荒くしサーベルを押し込む。目前の憎き敵を切り裂くまで彼は手を緩めるつもりはない。全身に力をこめ大剣を押し返すグレンだったが、やや押され気味で地面に足がめり込み気を抜けばすぐに押しつぶされそうな重圧がかかる。
「クッ……」
必死な形相のグレンの瞳の奥の赤い小さな光が徐々に大きくなっていき、纏ったオーラの青い光が強くなり細かい毛先のような光の縁が風でなびく。
「クソオオオオオオオオオオオオ!!!!」
膝を曲げ反動をつけ両腕を勢いよく前にだしグレンはウォルフを押し返した。耐え切れずにウォルフは後ろに押され突き飛ばされように下がり距離が開いた。グレンはウォルフを見ながら大剣を戻す。息がわずかに乱れたグレンは静かに息を整える。
「はあはあ…… ふぅ」
大剣を構えウォルフに視線を向けるグレンだった。ウォルフは右手に持ったサーベルの剣先を下に向け、顔を前に向けグレンを睨みつけていた。グレンの視線はウォルフと合わずに、彼の後ろに転がる瓦礫の木の柱に向けられていた。
「私は…… 聖女様に祝福を受けた! 貴様のような堕落者に…… 負けるかあああああ!!!!」
左手を前に出すウォルフ、突き出された彼の手から白い冷気の光線が飛び出す。グレンは飛び上がり白い冷気の光線をかわした。グレンの後ろにあった瓦礫に冷気は当たって凍り付かせる。
「チッ!!!」
飛び上がったグレンにウォルフが襲い掛かる。彼は飛びながら両腕を引きサーベルの剣先を、グレンへ向けた。グレンは剣を両手で構えウォルフを迎えうとうとした。
「なっ!?」
ウォルフは左手をサーベルから離して先ほど同じようにグレンに向けた。白い冷気の光線がグレンへと一直線に伸びて行き彼の視界が真っ白に染まる。
不意をつかれたグレンは動けずに大剣から左手をはなし、必死に体を後ろにそらして冷気の光線をかわす。体をそらしたグレンの前を冷気の光線が通過していき、凍った空気が胸にわずかに付着し霜が降りたようになる。グレンは腕を開いて体をそらした姿勢で浮かんでいる。
「クソ!!」
目の前に黒い影が見えたウォルフがグレンの前へと飛んで来たのだ。ウォルフは右手に持ったサーベルを引き、グレンの胸へ向け剣先を向け左手を伸ばす。




