第342話 哀れな吸血鬼
「何をよそ見しておる! 貴様!!」
うつむき悔しそうにたたずんだままのグレンだった。ウォルフは彼を見て眉間にシワを寄せ駆け出す。持っていたサーベルを両手に握り振りかぶった。
「!!!」
不意をつかれたグレンはやや遅れて右手を振り上げた。グレンの大剣はウォルフのサーベルと激突し大きな音を立てる。
「ぐわあ!!!」
「ふぃ!!」
衝撃がウォルフとグレンを襲う。ウォルフは声をあげながらサーベルを弾かれ両腕をあげた姿勢で後ずさりしていく。グレンは大剣を振り上げた姿勢で数センチほど後ろに足を引きずられながら下がった。
すぐにウォルフが体勢を戻してグレンにサーベルをグレンに突きだした。
「よっと!」
グレンは右腕をさげながら左肩を引き、体を斜めにして突き出されたサーベルをかわした。突き出されたサーベルを目で追うグレンだった。ウォルフはすぐにサーベルを引き戻し体の右横にサーベルを持って行き
グレンに斬りかかる。
表情を変えずにグレンは戻していた右腕を振り上げ、左から飛んでくるサーベルを弾く。吹き飛ばされそうになり踏ん張るウォルフだった。なんとか耐えたウォルフはさらに上からサーベルでグレンに斬りかかった。
「うぐ!?」
グレンは右腕をあげサーベルを受け止めそのまま力任せに押し返した。グレンに押し返されたウォルフは一メートルほど下がり距離を取った。
「……」
真顔でグレンは右手に視線を向けた。ディーアの魔法で強化されたせいか、ウォルフの攻撃で手がわずかにしびれていた。
静かに右手を見るグレンをサーベルを両手で握りしめ、ウォルフは眉間にシワをよせ睨みつけていた。
「ぐっ!? クソオオオオおおお!!! 私は聖女様の祝福を受けた! 貴様は私に…… 勝てんのだ!!!!」
ウォルフの体が黄色く光り出した。ウォルフは左手をサーベルから離して開いて前に向けた。グレンは冷たい視線をウォルフへと向けた。
霜がウォルフの左手を白くそめ、丸い冷気の輪が手の前に浮かび上がった。白い冷気が光線のようになりグレンへと飛んで行く。
大剣を肩に担ぎグレンは冷静に右足を前に出して移動しながら左肩を引いた。彼の横を白い冷気が通り過ぎていきわずかに胸から肩にかけてが霜で白くなっていく。
「はあああああああああああああああああああああああああ!!!」
視線を横に動かすグレンにウォルフが距離をつめ叫び斬りかかる姿が見えた。ウォルフはグレンに首を狙いサーベルで切り付けてくる。グレンは肩にかついでいた大剣を右手を強く握りしめた。
「しねえええええええええええええええええええええええええええ!!!」
向かって来るウォルフのサーベルにグレンは体を向けながら、右手に持った大剣を上から振り下ろした。グレンの大剣は力強く伸びて行きウォルフのサーベルを叩いた。サーベルは強烈に押されウォルフは腕を体を大きく後ろに押された体勢がくずれた。ウォルフのサーベルに添えていた左手は離れていき、残った右手は離さないように必死につかんでいる。グレンは大剣を戻して横に倒して地面と水平にして横からウォルフを斬りつける。
体勢を崩されたウォルフはグレンの一撃に反応できなかった。
「ぐわああああああああ!!!」
ウォルフの体が左に斜めにくの字に曲がり吹き飛ばされた。地面にウォルフは叩きつけられ転がった。衝撃で彼の右手からサーベルははなれて地面を回転しながら滑って行った。
「ウッウォルフ様!!!」
ディーアが悲鳴のような声をあげた。ウォルフはすぐに起き上がり真顔で振り返り、手をあげディーアにうなずいた。ディーアは胸をなでおろしほほ笑んだ。ウォルフはディーアから顔をグレンに向けた。彼の眉間にシワがより怒りの表情に変わった。グレンは大剣を肩にかつぎ静かにウォルフを見つめて立っている。
「クソ…… なぜだ…… 私は猊下の……」
拳を握りしめ悔しそうにつぶやくウォルフだった。グレンは彼の言葉を聞き答える。
「人の話はちゃんと聞いた方がいいぞ。ここじゃお前みたいなのは日常茶飯事だって言ったろ? 銀色野郎なんて珍しくもない」
ウォルフはカッとして眉間にシワを不機嫌になり叫び右手を伸ばした。
「黙れ!!! 猊下の力をそんなものと一緒にするな!!!」
地面に転がっていたサーベルが浮かび上がり、ウォルフの手へと向かって飛んで行く。だが、彼の視界が影に覆われ青ざめた表情で視線を横に動かすウォルフにグレンの声が聞こえる。
「遅えんだよ!!!!!!」
サーベルがウォルフの右手に届く前にグレンが距離を詰めて来た。彼はウォルフが伸ばしていた右腕に大剣を振り下ろした。ウォルフの右肘から下をグレンの大剣は切り落とす。
「うギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!?」
右腕の肘から下が地面に転がり声をあげるウォルフだった。グレンは攻撃の手を緩めず大剣を振り下ろした姿勢のまま右足を踏ん張り、左足を上げ回転させた。
グレンの左足にウォルフの背中が当たる。グレンに蹴られてウォルフは前のめりに倒れた。倒れたウォルフの背中にグレンが視線を向けた。両手で持っていた大剣から左手を外し、右腕を引いて剣先を心臓に向けた。
「グギャ!!!」
「チッ!!」
ウォルフは左手で地面を這うようにして地面を押して飛び上がった。グレンの大剣は外れてウォルフの左足首を突き刺し引きちぎった。
グレンは大剣を引くウォルフは飛んで距離を取って四メートルほど上空に浮かんでいる。グレンを見下ろし左の拳を握るウォルフだった。
「クソ! クソ! クソオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
天を仰いで叫ぶウォルフだった。彼の切り落とされ右腕と左足が再生していく。
「ウォルフ様……」
心配そうに空に浮かぶウォルフを見つめつぶやくディーアだった。
「はあはあ…… クソ!!!」
息を切らしウォルフは動作を確かめるように指先を閉じたり開いたりとしていた。グレンは彼を見て少し驚いた様子で口を開く。
「再生が早いし慣れているな…… あぁ。お前もヴァンパイアか……」
ウォルフを見てグレンが口を開いた。ウォルフはグレンを睨みつけた。
「そうだ! 私は猊下の寵愛を受け…… この力を得たんだ!!! この力は貴様らを凌駕するんだ!!!」
右手を自分の胸に置きグレンを怒鳴りつけるウォルフだった。ウォルフはグルファーブルによってヴァンパイアへ変貌していた。勇者候補になれず聖女に裏切られウォルフは失意のままに放浪していた。とある国を旅していた時にウォルフは福音派の馬車が魔王軍に襲われているところに遭遇し助けた。その活躍を聞いたグルファーブルが彼を気に入り福音派へ勧誘した。
その後、グルファーブルはウォルフを護衛として側においた。端正な顔立ちのウォルフがグルファーブルから寵愛を受けるのに時間がかからなかった。当初は困惑したウォルフだったが世界に失望していた彼に居場所をくれたグルファーブルを受け入れ、さらに自ら血を差し出しヴァンパイアとなった。
グレンは怒鳴るウォルフを冷めた目で見つめていた。
「寵愛…… ただのお気に入りのおもちゃだろ? すぐに別のお気に入りが出来てお前はいらねえって言われるよ」
「なんだと!? 貴様!!! 許さんぞ!!!」
「ははっ!! 図星みてえだな……」
「黙れ!!!!」
ウォルフはグレンを睨みつける。グレンはウォルフを見て頬を緩ませ大剣を肩にかつぐのだった。




