第341話 やはり二つ
グレンは右手に肩をかついだままゆっくり歩いていく。彼は姉と一緒に来た時に見た二階建ての平たいレンガ造りの建物へとやって来た。
「ブルってみんな…… 中へ逃げたってところか」
体を横に向けたグレンがつぶやく、彼の足元には銀色の矢が転がっている。グレンに向かって矢を放っていた者達は建物の中へと逃げ込んだのだ。
「おっと! まったく…… まだ戦う気か…… じゃあ気兼ねなくできるな」
グレンに向かって矢が向かって来たがグレンは大剣で簡単にはたき落とす。グレンは左手を前に向けた。月の前に浮かんでいた月菜っ葉が黄色く光りまわり出した。晴れた夜空に月は大きく直径十メートルほどで輝いている。
「今度は全てを吹き飛ばせ!!!! ルナキャノン!!!!」
月がわずかに光を強めた直後に巨大な光線が伸びて来た。十枚の月菜っ葉の間を通り光線はレンガ造りの建物へ向かって行った。
「クゥ!!」
グレンは声をあげ左手を左から右に動かした。
激しい爆発音がしてグレンの周囲に爆風が吹き抜けていく。光線は建物にぶつかり爆発した、さらにグレンの手の動きに呼応するようにし、月菜っ葉が動き光線は建物を薙ぎ払うように動いた。
数秒後…… レンガ造りの建物は消滅し地面から煙が上がっている。グレンの前方数十メートル四方は建物が吹き飛び無くなっていた。
大剣を担いだ姿勢でグレンは前に出て建物の残骸の中を歩いていく。十枚の月菜っ葉は周囲に散らばって地面にひらひらと落ちて行った。
「あぁ……」
地面には右腕と胸が残ったヴァンパイアが転がっている。グレンを見たヴァンパイアは助けを求めようと手を伸ばした。
「あっあああ…… ウギャアアアアアアアアアアア!!!!」
グレンはヴァンパイアと目をあうと大剣を振り下ろし心臓をつぶした。彼は周囲に目をやり生き残ったヴァンパイアを一人ずつ仕留めていく。
「さて…… さすがにこれだけ派手にやれば気づくか……」
視線を横に向け口元を緩ませる、グレンの背後に空からスッと下りて何者かが下りて来た。ゆっくりとグレンは振り向いて背後に体を向ける。
「よぉ…… ウォルフ……」
空から下りて来たのはディーアの腰に手を回し抱えたウォルフだった。ディーアの腰からウォルフは手を外す。ウォルフは背中のサーベルに手をかけ、左手をディーアの前に出して彼女を背中に隠しグレンを睨みつける。
「お前はレイナやクレアの側に居た……」
「俺はグレン。クレア義姉ちゃんの義弟だ。よろしくな」
肩に大剣をかつぎ左手の親指で自分の胸を指して笑うグレンだった。ウォルフはグレンを睨み鼻で笑う。
「義弟か…… ふん。あいつは男を飼うのか好きだったな……」
笑いながらクレアを馬鹿にしサーベルを引き抜く構えるウォルフだった。ウォルフはグレンを挑発し怒らせ平常心を失わせようとしていた。だが、グレンは笑って大剣をウォルフに向けた。
「ふふふ。はははは。そりゃあお前は飼われてたんだろうよ?」
「なっなんだと!!」
眉間にシワを寄せグレンに向かって怒鳴るウォルフだった。彼の背後でディーアが心配そうに見つめる。グレンを挑発したはずのウォルフだが、逆に自身が冷静さを失いグレンに激高したのだった。
グレンは大剣を肩にかつぎ首を横にふり同情した顔をウォルフに向ける。
「意味わからねえか…… まぁ意味もわからずにお前は排除されるんだ。悲しいね」
「なっ何を!? クソオオオオオオオオオ!!!」
ウォルフは地面を蹴ってグレンとの距離を詰めると、上からサーベルを振り下ろす。グレンはウォルフの動きに素早く反応し大剣を頭上で水平にして彼のサーベルを受け止めた。
「おっと! さすがにそこら辺のやつと違ってするどいじゃねえか…… だが! 軽い!!!」
「ぬぅ!?」
グレンは刀身に左手を添え押し返した。ウォルフは体が浮かび上がり後ろに下がった。グレンは大剣を横にしながら両手で持って横からウォルフに向かって繰り出した。ウォルフの脇腹へ向けグレンの大剣が鋭く伸びて来る。
「ぐぅ!!!」
なんとか反応したウォルフは体を斜めにしてサーベルを横に持って行き、グレンと同じように刀身に左手を添え受け止める。グレンの大剣とウォルフサーベルがぶつかり大きな音を立てる。
「ぬわああああ!!!」
「ウォルフ様!!!」
顔を歪ませるウォルフ、グレンの大剣の衝撃で両手がしびれ踏ん張り切れずに彼は横へ押されていく。浮かんでいた彼は地面に叩きつけられるように足をついた。なんとか倒れずに踏ん張ったが地面のついた足が引きずれ砂煙をあげていく。グレンから二メートルほど離れた場所までウォルフは移動していた。ディーアは心配そうにウォルフに声をかけた。
「ほっ」
左手をディーアに向け大丈夫だとアピールするウォルフに、ディーアは安堵の表情を浮かべ胸をなでおろした。
「次はこっちからだ!!!」
グレンは地面を蹴ってウォルフとの距離を詰める。ウォルフの頭を目掛けてグレンが大剣を振り下ろす。
「ぬう!!」
必死にウォルフは振りあげサーベルでグレンの大剣を受け止めようとした。水平にした湾曲したサーベルは大剣を受け止めずに軌道をそらした。ウォルフの体の横の地面をグレンの大剣が叩いた。
「ふふ……」
視線を動かしグレンは大剣をすぐに横にし、ウォルフに体に向け振り上げようとした。ウォルフは必死の形相で横に飛んだ。振り上げたグレンの大剣は空を切った。ウォルフはグレンと二メートルほど距離をとって着地した。
「なるほど…… やるじゃねえか」
「当たり前だ! 私は猊下に慈愛を受けし神聖騎士だ!!!」
ポケットに手をいれウォルフは赤い液体が入った瓶を取り出した。
「これを…… 使う時が来ました…… 猊下!」
「イプラージ……」
赤い液体をウォルフが飲み干した。ウォルフの顔から下が銀色に変化し体が大きくなり筋骨隆々へと変化した。
黙って自分を見るグレンにウォルフはニヤリと微笑んだ。自分の変化に彼が驚いているとウォルフは思っていた。
「どうだ! この力は猊下より……」
「あぁ。そういう長い前置きはいらねえよ!!
得意げに語り出したウォルフ、面倒そうに彼の言葉を遮った。
「ノウレッジじゃ日常茶飯事だ。とっととかかって来いよ!」
グレンはキティル達を手助けのため大陸を横断しながら、古代遺跡で何度も銀色の強化された魔物や人間と戦っておりもう驚くようなことではないのだ。
手招きをするグレンをウォルフは睨みつけ怒鳴りつける。
「黙れ!!」
グレンは大剣を肩にかついだ姿勢で左手でウォルフに手招きする。眉間にシワを寄せウォルフはグレンを睨みつけ駆け出した。先ほどよりもウォルフは速くグレンとの距離を瞬時でつめた。
右手に持ったサーベルでウォルフはグレンに斬りかかる。
「しねえエエエエエエエエエエ!!!」
グレンの斜め前からサーベルがグレンに迫ってくる。グレンは大剣を軽くサーベルに向かって振り上げた。グレンの大剣をサーベルがぶつかり大きな音をたてる。
ウォルフのサーベルはグレンの大剣で受け止められた。
「ぬっ!? クソ!!」
「残念だったな。俺はお前みたいのと戦う専門家だからな!」
「黙れ!!」
必死にサーベルを押し込むウォルフ、しかし大剣越しに見えるグレンは涼しい顔をしていた。グレンは力任せに大剣をさらに押し込み振り上げた。
「ぬわああああ!!?」
ウォルフはサーベルを恥から右腕をあげた姿勢で後ずさりする。グレンは素早く大剣を戻しながら振りかぶりウォルフとの距離を詰めた。彼は飛び上がりウォルフの頭の上から大剣を振り下ろした。
必死にウォルフは反応しサーベルを水平にしてグレンの大剣を受け止めた。グレンの大剣がウォルフのサーベルに振り下ろされた。衝撃がはげしくウォルフのサーベルが押し込まれる。ウォルフは必死に左手を伸ばし刀身を両手に差さえこらえた。
「うぐ!!!」
「このまま叩き潰してやるよ!!」
グレンは右腕に力を込めウォルフのサーベルを押し込む。必死にこらえるウォルフだったが、足が地面へとめり込み徐々にサーベルが下がり、添えた左手に刀身が食い込んでいく。
「させませんわ! パワーホーリー!!」
両手を前に出しディーアはウォルフに向けた。彼女の両手から白い光が伸びて行きウォルフを包む。彼女が使用したのはパワーホーリーという光魔法で受けた者の能力を上げてくれる。
「ディーア様! ありがとうございます! はああああ!!!」
ウォルフの体に力がみなぎり彼は笑顔になり、グレンの大剣を押し返すのだった。
「よっと」
大剣を押し返されたグレンは後ろに飛んでウォルフとの距離を取った。グレンは悔しそうに大剣を持つ右手に視線を向けた。ウォルフはグレンの姿に左手を軽く振りグレンを見てニヤリと微笑んだ。
「エリィ…… そうか…… ごめん。やっぱり二つだったよ…… 義姉ちゃん……」
グレンは視線を下に向け悲し気につぶやくと首を横に振ったのだった。




