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第34話 迫る危機

 ブライス達が砦で襲われたから一週間が過ぎた。

 テオドールは平穏を取り戻していたが、町から南の地域は封鎖され南門は硬く閉ざされたままだった。

 夕方、冒険者支援課の事務所。扉を開けグレンが部屋に入ってきた。各自の席についていクレアとハモンドがグレンに一瞬だけ視線を向ける。部屋に入ったグレンは右手に持っていた、一枚の紙をクレアの机の上に置いた。


「ここ一週間で行方不明になった冒険者達だ。ほとんど全員が北門や東門から迂回して南側へ向かった後に消息不明だ」


 クレアはグレンが置いた紙を、手にとりまじまじと見つめた。


「うーん…… 二十人…… 普段なら一週間で行方不明になる冒険者は一人か二人ですよね…… さすがに多いですね。彼らの指輪の反応は?」

「ない。範囲を少し広げてみたけどかすりもしないな」


 首を横に振ったグレン、クレアは難しい顔をした。二人の会話を聞いていたハモンドが驚いた表情になった。


「えっ!? 消えるって…… それは冒険者さん達が亡くなったからからでは?」

「死んだのなら赤くなるはずだろ? その反応を追いかけて死体を回収してるんだから」

「あっ…… そうか。なら消えたってどういうことなんでしょう?」


 首をかしげたハモンド、クレアは首を横に振った。


「わかりません。初めてですね…… でも……」


 顎に手を置いてクレアはうつむいて考えこんでしまった。彼女は冒険者が行方不明になった理由がなんとなく分かっているようだ。支援課の部屋の扉が、何者かに急に開かれ甘えた子供のような声がした。


「クレアー! ミレイユが急いで来てって!」


 受付を担当するパステルが部屋に入ってきてミレイユを見て彼女を呼ぶ。


「わかりましたー。ミレイユが急げって…… 緊急の会議ですかね」

「いってらっしゃい。面倒事は引き受けて来ないでくれよ」

「もう……」


 立ち上がったクレアにグレンが茶化すように声をかける。だが……


「グレン! 君もだよ。クレアと一緒に来てくれってさ」

「えぇ……」

「うふふ。一緒に行きましょうねぇ」


 弟と一緒で嬉しそうなクレアとは違い、面倒なグレンは顔をしかめて渋々立ち上がるのだった。グレンが立つのを確認したクレアはパステルに尋ねる。


「私達はどこへ行けばいいんですか?」

「第一会議室だって。じゃあ伝えからね。はぁ忙しい忙しい」


 忙しいとぼやきパステルは、グレン達に手を振ってすぐに部屋から出ていった。

 クレアとグレンは階段を上り第一会議室がある四階へとやってきた。


「グレンくんまで呼ぶなんて…… きっとよくないことですね」

「だろうな。事態が悪化したんだろう」


 廊下を歩きながらクレアがつぶやく、グレンは小さくうなずいた。状況の報告だけならクレアだけ一人を呼べば充分だが、二人同時に呼ぶということは、何か重大なことが起きているということだ。


「失礼しまーす。冒険者支援課のクレアとグレンです」


 扉を開けて二人は中に入った。第一会議室にはギルドマスターのキーセンと、受付部の部長ミレイユの二人が居た。二人は会議用の円卓の側で立ってクレアとグレンと待っていた。


「ごめんね。急に呼び出して……」

「来てくれてありがとう」

「うん?」


 二人にキーセンとミレイユが声をかけた。クレアはミレイユの表情が冴えないのが気にかかる。キーセンが二人に向かって深刻な表情をして話しを始めた。


「テオドール坑道跡、ホエール岬の神殿、シットロ湿原……」


 キーセンが喋った三つの場所は全てテオドールの南にある遺跡やダンジョンである。


「他にもテオドールの南地域の各場所で魔物や人が姿を消している」

「消えただと…… それってもしかしてキラーブルー達が?」


 驚くグレンにゆっくりと静かにキーセンはうなずいた。


「うん。タワー君が雇った冒険者の斥候が魔物が銀色の馬に乗った人間に襲われてるのを見た。しかもその銀色の人間たちの中には魔物も混じってたみたいだ」

「そうか。あいつは確か戦力が足りないから撤退するって…… だから……」


 キーセンの言葉にグレンが反応した。ふと彼が頭に思いうかべたことは、キラーブルーが逃げる前に言った一言だった。クレアは黙って考え込みキーセンはグレンの顔を見てまた口を開く。


「グレン君の考えてることが正解だね。彼らは人間や魔物を捕まえて銀色の兵士に変えて戦力を整えてるみたいだ。ここ最近増えている行方不明の冒険者達もおそらく彼らに……」

「目的は一体なんなんだ‥…」


 グレンの問いかけに答えたのはクレアだった。


「私達の排除…… いえ…… この大陸を開発する全員を排除でしょう。だって彼らは私達を侵入者って言ったんですもの」

「それじゃあ戦力が整ったあいつらは」


 何かに気づき驚いた表情をするグレン、クレアは彼に顔を向け静かにうなずいた。


「えぇ。テオドールに攻め込むつもりでしょう。ここの港がなくなれば侵入者は増えません。ここを落としたら西に移動して残った人達を……」


 落ち着いた口調でクレアは自分の推理を話す。キーセンはゆっくりと静かにうなずいた。


「うん。クレアさんの言う通りでほぼ間違いない。さっき砦を監視していたタワーから連絡があった」


 少し間を開けて深刻な表情でキーセンがまた話しを再開する。


「町に向かって銀色の人と魔物の軍団が向かってきてるって…… その数はおよそ二万」

「二万……」


 驚いた様子のグレンに対して、クレアは静かにうなずいて冷静な表情をしていた。部屋に入った時に、ミレイユが青ざめた顔をしていたので何かあるのだろうと感じていたようだ。

 真剣な表情でクレアは視線をミレイユへ向けた。


「ミレイユ。いまテオドールに居る冒険者は三百人くらいですね?」

「えっ!? うん。それくらいよ」


 クレアの突然の質問に驚いたミレイユが少し考えて答えた。すぐにクレアは次の質問をする。


「町の聖騎士さん達は?」

「関所や近くの砦にとかにいる人を併せれば二百人くらいかしら……」


 少し自信なさそうにミレイユが答えると、クレアは右手の人差し指と親指で顎に軽くつまむようにして考え始めた。


「聖騎士と併せても約五百人ですね。戦力差は歴然ですね。戦う…… ううん…… それよりも先に……」


 つぶやいた後にクレアは首を横に振り顔を素早くキーセンに向けた。


「キーセン神父! 銀色の人間たちに襲われた船はありますか?」

「いや…… 定期船、商船、ともに順調に運行しているよ」


 少し驚いた様子でキーセンはクレアの質問に答える。すると彼女はすぐにミレイユの方へ顔を向ける。


「ミレイユ! 港に係留されてる船に怪我人や老人と子供を乗せてすぐに出港できるようにしてください。町で元気な人は修道院と騎士団の寮へ避難させてください」

「えっ!? えぇ。わかったわ」


 矢継ぎ早に次々と指示をだすクレア、ミライユは少し驚いた顔でクレアの指示を聞いていた。


「それと町の人達で戦える人は避難させずに戦力とします。ギルドと聖騎士の武器庫の使用許可と鍛冶屋さんからは臨時で徴収する手配を……」

「あっあの。クレア…… 町を放棄して北のダコマーにみんなを避難させたほうが……」


 町を放棄して逃げようという、ミレイユの言葉にクレアは力強く首を横に振った。


「ダコマーに逃げてる途中で追いつかれます。ここには住民と行商人に旅行者で常に一万数千人がいますが、その中に戦えず移動も遅い老人や子供が多数含まれています。避難中に襲われたら守りきれずに即全滅です。だったら城壁があって守りの硬いここで耐える方が良いです」

「でっでも……」


 食い下がるミレイユ、彼女たちの背後から静かに声が聞こえる。


「クックレアさんの言う通りですよ。しっ進軍のスピードが速いから…… 明朝にはここに到着します。今からダコマーに逃げても間に合わないです」

「タワーさん!? 戻って来てたんですね」


 いつの間にか情報課課長タワーが、クレアとグレンの背後に現れた。


「キーセン神父。聖都に救援を求めてください」


 次にクレアはキーセンに指示をだす。彼は落ち着いた様子でクレアの指示に答える。


「わかったよ。でも、今から救援を要請しても援軍が到着まで早くて三日はかかるだろう。それまでは僕達が食い止めるしかない」

「はい。では、ルドルフさんに協力を……」


 真剣な表情をしたキーセンは首を大きく横に振った。


「ううん。僕は君が指揮官として防衛にあたってもらいたいと思ってる」

「私ですか!?」


 驚くクレアにキーセンは静かにうなずいた。


「えっと…… 私は…… ただの支援課で……」

「いや。この局面を乗り切れるのは君しかいない。防衛の指揮権を君に渡すことはルドルフもそれは承諾してる…… まぁ相当ごねられたけどね」


 小さくため息をついてキーセンは呆れた顔をする。

 クレアは防衛を指揮するのに自信がないのか歯切れが悪い。彼女は助けを求めるような顔でグレンの顔を見て袖をつかんだ。


「グッグレン君…… 私と一緒にやってくれますか? グレン君が一緒なら私…… 頑張れる気がします」


 目をうるませてジッとグレンを見つめるクレアだった。グレンは彼女の方を向いて笑った。


「いいよ。やろうぜ。テオドールは俺達の町だ。銀色の兵士なんかに好きにさせてやるもんか! って!? うわ!?」


 クレアはグレンに抱きついた。バランスを崩してグレンは、倒れそうになるのを必死に踏ん張って耐える。クレアは踏ん張っているグレンの胸に頭をつけた。


「ありがとう…… うれしい……」

「ねっ義姉ちゃん……」


 泣いているのか肩を震わせるクレア、グレンはそっと彼女の背中に手をまわして軽く抱きしめた。

 しばらく二人は抱き合っていた。


「あっあの…… そういうのは家でやってくれないかな…… はは」

「そうね。家でなさいな。仲が良い姉弟さん……」


 二人のすぐ横でキーセンとミレイユが呆れた顔をしている。グレンはハッと我に返った。


「えっ!? ほら! 義姉ちゃん! はなれて!」

「やだー! もっとですー!」


 離そうとクレアの肩に手をかけて腕を伸ばすグレン、クレアはプクッと頬を膨らませてなおを抱き合おうとグレンの手をつかみ抵抗するのだった。

 テオドールは冒険者ギルドと聖騎士と合同で銀色の軍団を迎え撃つことになった。

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