第336話 ババアはダメです
猫の先導でグレン達は地下から出て聖堂の脇の廊下を歩いていた。
「あっ!? 外すなよ」
「大丈夫。誰かが来たらつけるよ。猫ちゃんがよく見えないんだもん!」
「はぁ……」
レイナはフードを後ろに外し気づいたグレンが注意した。前を歩く猫が見えないというレイナにグレンは不服そうに首を横に振ったがそれ以上注意はしなかった。
前を歩く猫を笑顔で見つめるレイナ、彼女の横でグレンは周囲を警戒しながら猫を視線を向ける。
耳を猫が左右に動かし髭がふわりと動く。グレンは腰に刺した剣を握ってレイナに体を向けた。
「にゃっ!」
「キャッ! なっなにをモガ!」
「シー」
鳴き声をあげて振り向く猫よりも少し早く、グレンはレイナを壁際に押しつけ口を押え静かにするように指示した。グレンは視線を横に向けた。彼の視線の先は廊下の壁に赤い二つの光が照らしている。猫がすっと前に駆けだした。廊下の奥から目を光らせた福音派の男が歩いて来た。
「ニャーーー!」
「うん!? また猫か…… そんなにここに猫いたっけな……」
猫は男の前に来て鳴いた。首をかしげる男が急に何かに押された。男の視線から外れた暗がりからグレンが現れ左手を彼の喉元へ伸ばす。一瞬で現れたグレンに男は反応できずに喉を掴まれた。声をだそうと必死になるが喉をつぶされ男は何も言えない。
「うぐ!!!」
黙ったまま静かにグレンは左手で、男の喉をつぶしたまま彼の心臓に剣を突き刺した。目の光が消え男はぐったりとなった。
「ふぅ」
グレンは周囲を警戒しながら男を静かに床に倒した。
「残しておくと面倒だからな」
ベルトの袋からグレンは透明な液体が入った小瓶を取り出した。彼は福音派の男に液体を振りかけた。白い煙をあげ男の体が消えていく。
「ニャー!」
「あぶないよ。こら」
「ニャッ!」
男から立ち上る煙を見て猫が鳴いた。男に猫が近づこうとするレイナが寄って来て抱き抱えた。猫を抱き抱えたレイナはグレンの横へ来て、彼が持つ小瓶を覗き込むように見て口を開く。
「それクリーンイライザーだよね…… 透明だから違うかと思った」
「あぁ…… グリーンクリーンの蜜じゃなくてオーガの胃酸を使って強力にしてあるけどな」
瓶をレイナに見せながらグレンは彼女に答える。グレンが使った液体はクリーンイライザーという薬だった。
「ふふ…… それ私がグレン君に調合を教えたんだよね。なるほどね。元は洗剤だけどこういう使い方もできるね」
「へへへ」
実はクリーンイライザーは薬ではなく洗剤だった。木から取れる蜜を使って作る薬で、二人の村で掃除に活用されていた。また、商品を磨くとぴかぴかになるので、道具屋などでも利用されていた。
「ダイアとしたいたずら書きを消そうとしたってのが気に入らないけど……」
「うっうるせえな……」
恥ずかしそうに顔を赤くするグレンだった。レイナは恥ずかしく頬を赤くする弟の横顔を見てほほ笑む。たくましくなった弟の横顔、新大陸で生きる彼に自分が教えた技術が活かされているのが嬉しかったのだ。
「なっなんだよ……」
「ううん。なんでもない。ちょっと嬉しいだけ」
「はぁ…… なんかにやにやして気持ち悪いな」
「むぅ! なによ! グレン君嫌いだよ」
舌を出すレイナにグレンは呆れた顔をするのだった。倒れた福音派の男から離れ二人は先に進むのだった。先導する猫の後をグレンとレイナが付いていく。
「ニャー!?」
「どうした?」
通路にある聖堂へ向かう扉で猫が立ち止まって鳴いた。足を扉の隙間に入れようとしているのが動かしている。グレンは何がしたいのかわからず首をかしげている。
「あっ! はーい」
「えっ!?」
レイナは駆けて行き聖堂の扉に手をかけた。猫は聖堂の扉を開けて欲しいと訴えていた。レイナが扉を開けようとしているのに気づいたグレンが慌てて前に出た。
「ほーら開けるわよ」
「えっ!? おい! いきなり開けたら……」
音を立て扉が開いた。開いた扉の向こうから鉄のような臭いが充満しレイナの鼻まで漂ってきて不意をつかれた彼女は思わず顔をしかめる。
「なによ! これ!」
扉の中を見て声をあげたレイナだった。レイナが開けた扉は聖堂のちょうど中央にあり、向かいにも扉があり聖堂を横断する通路に出る。
聖堂ではベールのみを身に着けた二人のシスターに福音派の男性が覆いかぶさっている。男たちはヴァンパイアで女性達の体を弄びながら彼女達に噛みついていた。聖堂のベンチと床で二人のシスターは凌辱され、順番待ちなのか祭壇の前でフードをかぶった福音派の男性が並んでいた立っていた。
レイナの声に近くにいたヴァンパイアが顔をあげ彼女を見つめ首をかしげた。
「お前は…… なんだ? 新しい血療女か?」
「ずいぶん老けたババアだな! おいグルーナ! 女の質は落とすなって言っただろ」
「ばっババア!? ですってええええ!!!」
殴り込もうとするレイナに猫が足元で必死にとめようとしていた。次の瞬間にレイナは肩をつかまれ勢いよ後ろに引っ張られた。
「キャッ」
「なにやってんだ! レイナ姉ちゃん! もう! 引っ込んでろ!」
「ムゥ!!!」
グレンがレイナをどかして前に出た。彼を見たヴァンパイアが目を大きく見開き祭壇へ目を向けた。
「どういうことだ? グルーナ!?」
祭壇の前に大きなハンマーを持った女性が立っていた。女性は丸く巨大な体をしており体の直径は四メートルほどあり、身長も高く三メートルはあった。上半身は黒い金属の鎧に兜をかぶり下半身は幅の広い白のロングスカートを履いていた。彼女はグルーナというヴァンパイアだ。
「しっ侵入者よ! 殺しなさい!!」
グルーナはグレンと指して叫んだ。グレンは彼女の声を同時に駆けだした。彼は目を強く赤く光らせ纏わせたオーラが強くなびいていた。
「ウギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「ウギャアアアアアアアア!!!」
近くで女性に覆いかぶさっていた、ヴァンパイアの心臓を剣で突き刺すグレンだった。二人のヴァンパイアは叫び声をあげ目から光が消えていく。
「クソ!!」
「殺せ!!」
並んでいたヴァンパイアたちが右手を開いて伸ばした、彼らに鎌や斧や剣などの武器が握られる。ヴァンパイアたちは一斉にグレンに襲い掛かる。
「うん!? あいつらは…… 敵じゃないか」
グレンが視線を動かしつぶやいた。ベールをつけた裸の女性たちはヴァンパイアと行動を共にせずに動かないでいた。視線をこんどは左に動かしグレンは左手の人指し指を上下に動かした。
「よそ見している場合か…… ぐは!!!」
木のベンチが浮かび上がりヴァンパイアへ飛んで来た。ベンチは細く鋭い杭になってヴァンパイアを横から貫いた。飛んで来たヴァンパイアは床に落ちて転がった。
「不意打ちに声をだすなよ…… 後…… もうこの部屋は俺の領域だぜ……」
「クソオオオオおおおおおお!!!」
「遅い!」
次に右から手斧を持ったヴァンパイアが一体飛んで来てグレンを襲う。ヴァンパイアはグレンの頭を目掛けて斧を振り下ろした。しかし、グレンはすっと一歩下がって斧を簡単にかわした。
グレンの目の前をヴァンパイアの斧が通り過ぎていく。
「がは!!」
右に動きながら左手を斜め前に伸ばしグレンはヴァンパイアの肩をつかんだ。動けなくなったヴァンパイアの背中から心臓に剣を突きさした。グレンはすぐに剣を抜く。刀身にヴァンパイアの血がべっとりとついてた。
剣を振って血を拭ったグレンは視線を動かす。ヴァンパイアたちはまだグレンへと飛んで向かって来ていた。




