第335話 教皇の置き土産
レイナを抱きかかえグレンは通路をガーラム修道院へと急いでいた。ソーラは二人より先行しており姿が見えない。グルファーブルとい遭遇したケースが置かれた部屋を出て、少しして開いた木製の扉がグレンの視界に見えている。
「こっちだよ」
開いた扉の向こうから、ソーラが顔を出しグレンに声をかける。グレンはレイナを抱えたまま部屋へと駆けこむ。そこは先ほどまで駆けていた石造りの古代遺跡の違い壁に木が使われた棚が並ぶ倉庫だった。
「倉庫…… 新しいな……」
「ここはガーラム修道院の地下だね。きっとここを作っている時に古代遺跡をみつけたんじゃないかな」
倉庫を見渡してグレンがつぶやく、抱きかかえたナーを撫でながら答えるソーラだった。
「もう下してもらっていい?」
「あぁ。すまん」
グレンは優しくレイナを床におろした。弟と同じように倉庫を見渡すレイナだった。
木製の天井の梁に何か小さなものが飛び乗った
「にゃーん」
「あっ!? 猫ちゃんだよ」
灰色の体毛に黒い縞模様のいわゆる鯖猫が座っていた。レイナは猫に向かって手を振った。グレンは静かに梁に座る猫に目をやりソーラに顔を向け口を開く。
「あれはお前の?」
「そうだよ。おいで」
「にゃーん」
ナーを床に下し猫にソーラが声をかけ手招きをする。呼ばれた猫は返事をして梁から壁際の棚を渡り床へと下りてきた。猫はソーラの足元にいるナーの横へやってきた。ソーラはしゃがんで猫を撫でる。
「よーしよし…… 大丈夫だった? 偉いね」
「ゴロゴロ……」
「ナー!!」
「はいはい。ナーもね」
猫を撫でるソーラにナーが不満そうに声をあげ、ソーラはナーにも手を出し二匹を両手で撫でていた。グレンは笑ってレイナはうらやましそうにソーラの後ろで彼を見ていた。
「頼んでいたことはわかったかい?」
腹を見せ撫でられる猫がソーラに向かって鳴く。
「にゃーん! にゃーん」
「尖塔にグレゴリウスだね…… ウォルフは聖堂から宿舎に移動したのか…… ありがとう」
ソーラはポケットから袋を出し、中から焼いた魚の身をちぎった猫用の餌を猫に与える。ソーラは猫の報酬を渡すようにいくつか餌を常に持っている。趣味の魚釣りは猫の報酬のためである。
「んまんま」
満足そうに咀嚼する猫の横で、ナーの目が鋭く光りソーラを見た。
「ナー!!!!」
「君はダメ! 食べすぎ!」
「フニャアア!!!」
自分にも餌を要求し断られたナーは牙を向き怒りの声をあげるのだった。ソーラは首を横に振り立ち上がりグレンを見た。ソーラの足元でナーは前足で彼のふくらはぎを軽く蹴っていた。
「どうする? グレン?」
「敵の防備を聞いてくれ」
「教えてくれる?」
視線を猫に向け尋ねてソーラは首をかしげた。足元でソーラの足を蹴っていたナーは、機会をうかがっていたレイナがしゃがんで近くに来て撫でられて気持ちよさそうにしていた。
「ニャー! ニャーー! ニャーン! ニャニャニャ!」
猫はソーラは必死に鳴くソーラはうなずいて猫の声を聞いていた。レイナは鳴く猫を見てほほ笑んでいた。
猫が鳴き終わるとソーラは立ち上がりグレンに顔を向け口を開く。
「えっと…… 宿舎に移動したディーアにウォルフが寄り添っているみたい。グレゴリウスには護衛が一人…… 魔族じゃないみたい…… 多分ヴァンパイアじゃないかな?」
話を聞いたグレンはソーラに尋ねる。
「ソーラ…… グレゴリスを頼んで良いか?」
「わかったよー!」
「後…… ウォルフがいる宿舎はどこか聞いてくれ」
「了解! にゃあ?」
返事をしたソーラはナーに尋ねる。ソーラはナーと言葉を交わしてすぐにグレンに返事をする。
「聖女の宿舎は修道院から出て…… 正門側に進んで曲がり角にあるレンガ建物の後ろにあるみたい」
「あぁ。あそこか……」
「じゃあ僕たちは先に行くね」
右手をあげるグレンにソーラも同じように手をあげた。ソーラは奥にある地上へ続く階段を指してナーを呼ぶ。
「ナー! 行くよ! 君はグレンを案内してね」
「ナー!」
「ニャーン」
「あっ!」
レイナに撫でられたナーは立ち上がりソーラの元へ駆けていく。名残り惜しそうにナーの暖かさが残った手を見つめるレイナだった。彼女は起き上がりナーを見送ろうと視線を向けた。
「あれ!? 姿が…… 見えなく……」
「あぁ。きっと猫妖精の魔法だろ…… さっ! 俺達も行くぞ。頼むな」
「ニャーン」
猫が歩き出したレイナとグレンも地上へと続く階段を目指すのだった。
グレンとレイナと別れたソーラはガーラム修道院へと潜入していた。地下倉庫の出入り口はキッチンの奥の廊下にある。キッチンは修道院の正面扉の左側に位置する食堂に併設されている。
ソーラとナーは食堂から出て聖堂の脇の廊下を通り、奥にある尖塔へ続く階段を目指しいた。
「えっと…… わっ!? なんだ」
廊下の角に赤い二つの光が出て来て立ち止まり慌ててナーを抱き抱えた。
「誰だ!?」
「ナーン!」
「なんだ…… 猫かよ」
フードを被り目を赤く光らせた福音派の男が曲がり角から顔をだした。廊下の真ん中に立っている来たナーを見て男は振り返りさっていった。
「ふぅ……」
廊下の天井にソーラが張り付いていて安堵をして息を吐いた。猫妖精であるナーは物を自在に動かすことができる。ナーはソーラと一緒に天井に上がってすぐに床に下りたのだ。
「ナー!」
「下して! あっ! 優しくだ…… うわ!」
天井を向いたナーにソーラが声をかけた。ナーが右前足を上から下に下す仕草をすると、勢いよく天井からソーラが落ちて来て彼は尻もちをついた。
「いてて…… もう…… 優しくって言ったのに……」
立ち上がり尻を押さえナーを睨むソーラだった。ナーはすました顔を座っていた。
「みんなヴァンパイアなんだね…… 福音派は…… でも…… 彼らが少数派に…… ちょっと後で課長に提案してみよう」
曲がり角から覗き込み目を光らせて歩く福音派の男を見つめるソーラだった。
なんとか誰にも見つからずにソーラは尖塔へとやってきた。螺旋階段の中央をナーを抱き抱えたソーラが飛んで行く。ナーは上をみながら前足を漕ぐように上下に動かしている。
「はぁ…… つまんねえな。中のやつを…… 猊下はうるせからな…… それに俺は男は……」
螺旋階段の先には扉があり前に一人のローブを着て、フードを被った福音派の男が立っていた。男は若い青年で口元に牙が出ておりヴァンパイアのようだ。彼の腰には剣と鍵束が見える。扉には鍵がかかっており中にはグレゴリウスが囚われている。
「ナー!」
「わっ!? こら! もうダメだよ!」
声をあげたソーラが螺旋階段の手すりにしがみつき、ナーが福音派の男の数段下に座った。
「誰だ!!! 猫!? お前は!!!」
ナーに気づいた福音派の男は剣に手をかけ、奥に手すりにしがみつくソーラが見えた。福音派の男が前に出ようと階段を
「もういいや! ナー! 食べていいよ」
「ナーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
鳴き声をあげたナーの体が巨大化し尾が七本に別れた。男は巨大化したナーの体の影に覆われ顔を青ざめていく。
「がっ!?」
ナーは前足で福音派の男性を両手で挟むようにして捕まえ押さえつけた。ナーはゆっくりを男を持ち上げ口を開く。
「なっ!? ばっ化け物…… やめろ! やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!」
「ナーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
大きな口が閉じられナーの牙が福音派の男の胸を貫いた。クチャクチャという音がする男はかみちぎられ胸から上がなくなっていた。
「ごめんねぇ。ナーはお腹がすくと捕食モードになるんだ……」
頭がなくなった男に声をかけるソーラだった。
「あっ! ちょっと待って! 鍵!」
「ナー!!!」
「取らないから! 鍵だけ取らして!」
「ナー」
ソーラは頭がなくなった男性の腰から鍵束を外した。ナーはあっという間に男性の残りを平らげたのだった。
「さて…… じゃあ行くよ」
「ナー」
扉を開けソーラとナーは部屋に入った。部屋はひっそりと静まり返り、天蓋のついたベッドの上が盛り上がり目をつむったグレゴリウスが寝ていた。
「噂は本当なんだね…… グルファーブルは男児性愛好家…… 福音派には多いと言うけど……」
寝かされたグレゴリウスを見てつぶやくソーラだった。彼の足元には姿が戻ったナーが歩いている。
ベッドの横にソーラが立ちナーがベッドの脇に飛び乗った。ソーラはグレゴリウスの顔を覗き込み、起こそうと彼の肩に手を伸ばす。
「うがああああああああああああああああああ!!!!!」
「うわあああああああああああ!!!!」
いきなり目を開けたグレゴリウス、彼の目は真っ赤になってソーラを見ると大きな口を開けた。グレゴリウスのには牙が生え糸が引いていた。グルファーブルに尻を噛まれた彼はヴァンパイアへ変貌しようとしていた。手を引っ込めて後ずさりするソーラだった。グレゴリウスが逃がさないように彼に手を伸ばす。
「ナーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
「うがあああああああああああああああ!!!」
鳴き声をあげナーが右手をあげた。布団ごとグレゴリウスの体が浮かび上がりベッドの天蓋に張り付くようになる。
「はあはあ…… ナー。とりあえず保護してくれるかい」
「ナーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
口を大きく開け天蓋を顔を向けたナーの鳴き声が響く。グレゴリウスの体が青白く光って消えた。猫妖精のナーは猫の猫空間と呼ばれる異次元空間を自在に操れる。ちなみにグレン達が利用した猫の抜け道も異次元空間と人間空間をつなげ合わせできている。
「ふぅ…… もっもう吸血症が進んで…… すぐに治療しないと……」
ベッドに座ってソーラは小さく息を吐くのだった。




