第334話 氷に輝く太陽
床に赤い血と緑の液体がぶちまけられた、ケースが並ぶ部屋の中央。天井に近い場所に浮かんでいるグルファーブルは両手を上に向けて姿勢で立っていた。
ファイアウォールから出たクレアとキティルを見たグルファーブルは二人を睨みつけた。
「くらえ!!! グレイトグレイシャー!!!!!!!!!」
叫びながらグルファーブルは両腕を振り下ろし前に突き出す姿勢になった。両腕の動きに呼応して部屋に冷たい空気が吹き抜け壁や床が氷に覆われていく。突き出した氷が天井や壁に突き刺さる。
グルファーブルが放ったのはグレイシャー、これは氷の上級魔法で激しい冷気で全てを氷漬けにして破壊する。クレアが前に出て大剣を床に突き刺し、鍔を両手でつかんで振り向いた。
「キティルさん! 私の後ろに隠れて!」
「えっ!? はっはい!」
クレアがキティルに向かって叫んだ。うなずいたキティルはクレアの背後に隠れた。大剣の鍔を力いっぱい握りクレアは体全体に意識を集中し前を見た。彼女の体が白く光り出し、大剣を中心に魔法障壁が展開された。
部屋を破壊しながら迫って来る氷にキティルは目をつむった。二人は魔法障壁ごと氷に飲み込まれていった。激しい衝撃と氷がぶつかりきしむ音がキティルの耳に届く。
「ふぅ…… なんとか間に合いましたね」
クレアの声がしてキティルがゆっくりと目を開く。魔法障壁は尖った氷に覆われ周囲は薄暗らくなっていた。後ろを見るクレアとキティルの目があった。目が合うとクレアは優しくほほ笑んだ。
「私が剣を抜いたら飛んでください。そしたら作戦通りにいきますよ」
「えっ!? はっはい」
うなずいたキティルにクレアは前を向いて両手に力を込めて剣を引き抜く。キティルは彼女の指示通りの飛び上がるのだった。
氷に飲まれた部屋、天井へと伸びて突き刺さった巨大な尖った隙間にグルファーブルは立っていた。視線を下に向け小さく首を横に振った。
「同志たちよ…… これで…… チッ!!!!」
舌打ちをするグルファーブル、彼の斜め下から氷を切り裂かれ崩れるとクレアが飛び出して来た。彼女はグルファーブルとの距離をつめて大剣で横から切りつける。グルファーブルは左手に鎌を出して両手で持って大剣を受け止めた。
「甘いですね!」
「フン!!」
グルファーブルは両手に力を込めて押し返した。クレアとの距離を開くと横から鎌で繰り出すグルファーブルだった。クレアは大剣で鎌を弾いた。グルファーブルとクレアは何度か打ち合う。しかし、クレアの動きが徐々に鈍くなっていく。
振り下ろされた大剣をグルファーブルが頭上で鎌を水平に持って受け止めた。
「かっ体が…… これは……」
腕が重く体が震えるクレアの表情が青ざめていく。グルファーブルは彼女を見てにやりと笑り両手に力を込めた。
「甘いのは貴様だ!!!」
「キャッ!!」
グルファーブルは叫びながら大剣を押し返した。クレアは耐え切れずに押され後ろに下がった。彼女は肩で息をして大剣が持つ手が震えている。
「ふふふ。体が重いだろう? この部屋は氷の世界になった。動けば体温を奪われスタミナは失われる」
「そっそんな……」
愕然とするクレアにグルファーブルが勝ち誇って笑う。鎌をクレアに向けグルファーブルは口を開く。
「降伏しろ! お前みたいな女は役にたつ…… 少し薹が立っているがな」
クレアを見てにやにやと笑うグルファーブルだった。クレアはムッとした顔をしてあと口元緩ませた。
「はっ!!」
左手の指を全て伸ばしてクレアが腕を前に突き出した。グルファーブルへ光の剣が伸びて彼の右肩を貫いた。衝撃でグルファーブルは鎌を落とし氷のぶつかって音を立てる。グルファーブルは光の剣で串刺しにされ左手で光の剣を抜こうと持った。
「いっ!? ばっばかな!? なぜ動ける?」
「私は第一勇者候補だったんですよ? ここより寒いところで戦ったことくらいあります…… だから後二分は動けますね。それに……」
「うわああああああああああああああ!!!!!」
光り剣で串刺しにしたグルファーブルを横に腕を動かし、自分が回転しながら背後へと持って行くクレアだった。
「氷は太陽を当てれば良いんです! キティルちゃん!」
自分の背後にグルファーブルを持って行った。グルファーブルは後ろに振り向くとそこにはキティルが浮かんでいた。彼女は杖の先を斜め上に向け目をつむり集中し口を開く。
「炎の精霊よ! 天に輝く炎の力を我に授けよ! ラインジングリトルサン!」
キティルが目を開けると杖の先端から直径数十センチの小さな太陽が飛び出した。天井の近くにさんさんと太陽が輝く。太陽の熱と光は周囲の氷を溶かしていく。ヴァンパイアの弱点は太陽だ。キティルは太陽を使いグルファーブルを追い詰めようとしたのだ。しかし……
「無駄だ! わたしに太陽など!」
眩しく手で顔を覆うグルファーブルだったが、太陽の光を受けても平然と叫んでいた。太陽光の効果がないと言われたキティルは動揺することなく平然としていた。
「じゃあこうしてあげますよ」
杖を太陽に向けたキティル、彼女の杖から赤い光の線が伸びていった。光の線が太陽にぶつかるとさらに激しく光り出すキティルの小さな太陽。彼女はさらに杖をさげると上空に浮かんでいた太陽がグルファーブルへ向かって下りて行く。
「無駄だと言っている」
グルファーブルは光の大剣を強く持って引き抜こうとした。彼の視界が急に暗くなり手の間隔が無くなっていく。
「いっ!? ウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!! 目が目がアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」
叫び声をあげるグルファーブル、太陽に照らされたグルファーブルは当初は問題なかたが、太陽の熱と光が彼の目玉を焼き顔を溶かしていった。銀色の体が溶けていく。クレアの光の剣が溶けて強度を失ったグルファーブルから抜ける。浮力を失った彼は床へと落ちていった。
「なぜだ!!! 日除けを私は…… 日除けを…… つけたはずなのに……」
地面へ落ちながら叫ぶグルファーブルだった。
ヴァンパイアは太陽光に弱く浴びると体が溶けて消滅する。しかし、昼の世界に進出しようとしたヴァンパイアは日除け薬を開発し人間に紛れるようになったはずだった。
グルファーブルの言葉に左手の指を顎にあてとぼけたように口を開くキティルだった。
「日除け…… もしかしてリファイアクリームですかね…… えっとリファイアクリームでも至近距離の陽ざしに勝てませんよ! 強い日差しはお肌によくないですからね…… そいう時はウォーターバルーンクリームとか…… あっ! ゴッドスキンガード液もいいですね……」
「キティルちゃん!?」
「はっ!? ごめんなさい。つい日焼け止めの話を…… まぁ…… この太陽が出せる魔法使いもなかなかいませんけどねぇ」
キティルは早口で日焼け止めについて語りだした。キティルは日焼けに強いこだわりをもっていた。もちろん年頃で肌を気にしていることが理由だが、彼女にはこだわらなければならない理由がある。それは……
「クソ! おっお前は何者だ?」
「私は炎に愛された魔法使い! 深紅の炎使いキティルよ!!!!」
地面に落ちたグルファーブルは地面に叩きつけられた。仰向けにころがったグルファーブルは溶けた手足や顔を元に戻っては溶けてを繰り返している。
「クソ! 再生が間に合わない。そうだ! 彼の血をもう一度……」
再生能力を使い何とか立ち上がろうとしたが、照り付ける太陽に再生が追いつけずにいた。
視界が戻り消えると繰り返しながら、彼の目にほほ笑むクレアと振り上げられた彼女の大剣が映っては消えていく。
「さぁ終わりですよ」
「まっまて! 僕はもう…… うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
クレアは大剣をグルファーブルの心臓に突き刺した。グルファーブルの断末魔が響いた。彼の瞳から光が消え体からは力が抜け動かなくなった。
「まず一つ……」
グルファーブルを見て小さくうなずくクレアだった。ただ、彼女の表情は険しくどこか異様な空気に包まれていた。下りて来たキティルは異様な雰囲気のクレアに恐る恐る声をかける。
「くっクレアさん?」
「あっごめんなさい! もう扉は開くと思いますのですぐにグレン君たちを追いかけましょう」
二人は部屋から出てグレン達を追いかけるのだった。




