第333話 しぶとい人
「ぐっぐふううううううううううううううう!!!!」
グルファーブルの声が室内に響く。彼のちぎれた腕が再生していく。クレアは静かに左腕を下す、同時に彼女の光の剣が短くなって消えて行った。
「あら…… 本当にしぶといですね。しかも再生までしますか。やっぱり厄介ですね……」
大剣をひょいっと肩にかつぎクレアは視線を下に向けた。彼女の目に再生された銀色の真新しい腕を持つグルファーブルが映っていた。腕を犠牲にしさらに再生するグルファーブルがしぶとさに、あきれたようにつぶやいたクレアだった。だが、彼を排除するのにやりがいを感じたのか爽やかな表情をして笑顔になる。
「はあはあ…… なっなんだあいつは……」
肩で息をしながら顔をあげ笑うクレアを見つめるグルファーブルだった。笑顔のクレアが不気味に映り、彼の体が恐怖で震えていく。クレアと戦うの不利だと察したグルファーブルは逃亡しようと視線を扉を向けた。グルファーブルに地面でクレアと自分の戦況を見つめるキティルが見える。彼は悔しそうな表情をした。
「だったら…… こっちだ!!!
グルファーブルはキティルに向かって駆け出した。彼は右腕をのばすと手の先に柄の長い鎌が出現する。強力なクレアよりも先にキティルへ標的を変えたようだ。
「あら…… グレン君にあんだけ見栄を切ったんですから…… お願いしますよ」
空からクレアはキティルに向かっていくグルファーブルを見ていた。彼女は小声でキティルにエールを送るのだった。キティルを睨みつけグルファーブルは口を開く。
「貴様を人質にさせてもらおう」
「はっ!!!!」
グルファーブルはキティルに左手を伸ばす。彼女は冷静に地面を蹴って後ろに飛んで距離をとり両手をあげた。
「なっ!?」
後ろに飛んだキティルを捕まえられずにグルファーブルの手は空を切った。着地したキティルは杖を持ったまま右手と左手を交差させ勢いよく下した。彼女はそのまま杖を握りしめ地面を蹴って前に出る。
「クソ!! はっ!?」
影に覆われたグルファーブルが振り向いた。彼の背後にキティルが召喚した炎の魔人が立っていた。
「うがあああああああああああああああああああ!!!!!」
声をあげた炎の魔人が右拳を振り上げグルファーブルに殴りつけた。
「チッ!!」
大きな音がして地面に炎の魔人の拳がたたきつけられた。なんとか反応したグルファーブルは背後に飛んで拳をかわし炎の魔人との距離を取った。しかし、彼の背後からキティルが迫って来ていた。
「チッ!」
「あたなの弱点は…… そこでしょ!!!」
向かって来るキティルはグルファーブルの心臓に視線を向けた。彼女の持つ杖が赤く光り出し、杖の先端から赤い炎の十字の刃が飛び出した。槍のようになった杖を両手で持ったキティルは炎の刃先を心臓に向けた。
「ファイアランスで心臓を燃やしてあげる!」
叫びながらキティルはグルファーブルの心臓に向かって炎の刃を突き出した。眉間にしわを寄せグルファーブルは槍を突き出すキティルを睨んだ。
「舐めるな! ガキが!!!」
「キャッ!」
グルファーブルは横から鎌でキティルの杖を弾いた。キティルは突き出した杖を横に弾かれ声をあげた。グルファーブルは鎌の刃の先端をキティルに向けた。戻すようにしてキティルの頭を狙いグルファーブルは鎌を振り下ろす。尖った鎌の先がキティルのこめかみへと鋭く迫る。
「ガウアアアアアアアアアアア!!!」
「なっ!? クソ!」
「あっありがとう……」
炎の魔人がグルファーブルの背後から鎌の柄に手を伸ばしつかんだ。鎌の刃はキティルの額に届く直前で止まった。
「離せ!!」
「ウガガガガアアアアア!!!!」
叫び声をあげ必死に鎌を押すグルファーブル、炎の魔人は必死に彼の鎌を動かないように押さえていた。炎の魔人は左手をグルファーブルの横から伸ばし下側の柄をつかむ。グルファーブルは鎌と炎の魔人に挟まれ身動きが取れなくなった。
「今度こそ! 終わらせてあげる! はあああああああ!!!!」
一歩下がって体勢をなおしキティルは足をまげ、腰を落とし杖を両手に持って引いた。キティルは再び杖を前に突き出した。炎の刃がうなりをあげグルファーブルの心臓を目掛け伸びていく。
目を大きく見開きグルファーブルは眉間にシワを寄せ大きく鼻から息を吐き出した。
「ふぬーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
「うがああああああああああああああああ!!!」
グルファーブルは体の後ろに送り、鎌をつかむ炎の魔人を腰に乗せるようにして持ち上げた。そのまま体を横にむけ炎の魔人をキティルに向けるように動いた。
「うがああああああああああああああああ!!!」
「わっわ!? ごめん!」
キティルが突き出した炎の刃が炎の魔人の背中を切り裂いた。中心はずれていたが十字の横に突き出た刃が炎の魔人の背中をえぐるようにきりとっていく。苦痛に顔をゆがめて声をあげる炎の魔人に必死に謝るキティルだった。
「うっ…… おりゃああああああああああ!!!」
炎の魔人が鎌を引く力が緩んだ。グルファーブルは左手を鎌から外し背後へと伸ばした。彼は炎の魔人の髪を掴んだ。燃え盛る炎の髪がグルファーブルの手を焦がしたが、彼はかまわず背中に炎の魔人を乗せるようにして左腕を引っ張りして投げた。炎の魔人はグルファーブルの一メートル前に投げ捨てられて大きな音を立てた。
「もう……」
杖を素早く引いたキティルは体勢を戻し、地面を蹴って背後へと飛んでグルファーブルとの距離を取った。炎の魔人を投げたグルファーブルは体を起こしてキティルを睨みつける。
「死ねええええ!!!!!!」
後ろに下がって距離を取っていたキティルにグルファーブルが鎌を構えて飛んでくる。彼女はしゃがんで地面に手を付いた。同時に彼女の周囲が赤く光り出して床からファイアウォールが飛び出し来た。キティルの左右と正面を三メートルほどの高さのファイアウォールが覆っていた。
「チッ!!!!」
大きな音がしてファイアウォールに鎌がぶつかり弾かれた。グルファーブルは舌打ちをして鎌を戻した。視線を左右に動かす、グルファーブルにヴァンパイアの死体が浮かぶケースが見えた。
「こうなったら…… この場所ごと…… 闇に葬ってくれるわ!!!!!!」
グルファーブルは燃え盛る炎の壁に向かって怒鳴りつけると飛び上がって離れていった。
「はぁはぁ……」
膝に手をつき燃え盛るファイアウォールに囲まれ息を整えるキティルだった。
「大丈夫ですか?」
「はっはい…… ありがとうございます」
キティルの背後にすっとクレアが現れた。クレアは鞄からエクスポーションを出してキティルに差し出す。キティルはエクスポーションをクレアから受け取って口に含む。
「なかなか心臓を…… 狙えませんね…… クレアさん! 協力してもらっていいですか?」
「はっはい!? 何かいい作戦があるんですか?」
エクスポーションを飲みながらキティルがクレアに声をかけた。クレアは少し驚いた返事をしたキティルは小さくうなずいて微笑んだ。
クレアに近づいクレアの耳もとで話を始めた。
「私が…… こうして…… こうするんです」
「なるほど! わかりました」
「じゃあ行きますよ!」
笑顔になったキティルは杖を持って地面を軽く叩いた。上からファイアウォールがゆっくりと地面に戻っていった。
「あっ!? あれは……」
ファイアウォールが消えたクレアとキティルは目を大きく見開いて驚くのだった。




