第332話 銀色の教皇
視線を上に向けるクレアに血が降りかかり、彼女は迷惑そうに左手で顔を拭った。彼女から四メートルほど上空に切り落とされたグルファーブルが浮かんでいた。苦痛に顔を歪ませてグルファーブルが視線を下に向けた。自らの足が切り落とされ血だまりに浮かぶ光景を見た彼は肩を震わせる。
「うわああああああああ!!!! 足があああああああああああ!!!!」
声をあげたグルファーブルは足を押さえた。クレアは表情一つ変えずに飛び上がり、右腕を引きグルファーブルに剣先を向け突き出した。
「ヒッ!!!!!!!」
悲鳴をあげるグルファーブルは迫る大剣に両手を出す。グルファーブルの左手を大剣が貫き、手の上半分が引き裂かれていった。クレアの大剣の軌道がずれわずかにずれ速度が落ちた。いきおいは落ちたがクレアの大剣はグルファーブルへと向かって行く。
「クソ!!!」
「チッ!!」
舌打ちをするクレアだった。彼女の大剣が届く直前にグルファーブルの体は蝙蝠に変身した。浮かび上がる蝙蝠となったグルファーブル標的が、小さくなり狙いがずれたクレアの大剣は空を貫いたのだった。
「手を囮に使いましたか……」
着地したクレアは飛び去る蝙蝠を悔しげな顔で見つめていた。彼女の横にキティルが駆け寄って来た。
「ふぅ…… ヴァンパイアは心臓に一撃をいれないと排除できないから厄介ですね」
小さく息を吐いてつぶやく振り返り、心配そうに見つめるキティルにほほ笑むクレアだった。彼女は足元に転がったグルファーブルの手を蹴って転がし、左肩を軽く回し視線を飛び去る蝙蝠へ向けた。
「まぁ…… 手足を吹き飛ばして完全に動けなくして排除するだけですけど」
「ははっ…… あっ! そうだ……」
「どうしたました?」
「なっなんでもないです」
首をかしげるクレアにごまかすように首を横に振るキティルだった。何かを彼女が企んでいるのが分かったクレアだったが今は戦闘中なのですぐに切り替える。大剣を持つ右手に力を込め飛び去ったグルファーブルを探すように視線を動かす。
クレアの二十メートルほど後方にグルファーブルは浮かんでいた。蝙蝠から左手の半分と右足の先が切り落とされた姿に戻った、彼は懐に右手を突っ込む。
「はあはあ…… これは使いたくなかったが…… クソが!!」
グルファーブルを見つけたクレアが彼の前へと飛んで来た。彼女の後からキティルが飛んで来た彼女の後ろに着地する。クレアとグルファーブルは三メートルほど距離で対峙する。
懐から小さな赤い液体が入った小瓶を取り出した、グルファーブルは瓶を口で雑に開けた。
「プッ! 絶対に…… 絶対に許さん!!!」
グルファーブルは口に蓋を吐き出し、クレアを睨みつけながら瓶の液体を飲み干した。
「イプラージですか……」
瓶の液体を飲むグルファーブルを見てクレアは口を開いた。グルファーブルが飲んでいたのはゴールド司教が使ったイプラージだった。グルファーブルの体から白い煙が天井へと上っていく。
つい先ほどまで苦痛で歪んでいた、グルファーブルは穏やかな表情になりクレアにほほ笑む。
「それは…… 教会名だな。こちらではブラッドラベルという…… 我らが先祖がつくりし秘術だ!」
白い煙が濃く強くなっていき、グルファーブルは右手に持っていた拳を握って砕いて声を上げる。
「来た!! 来たぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」
グルファーブルの体が頭を残し銀色になり巨大化していく。身長は二メートルを超え筋肉は膨れあがり服は破かれ上半身は裸になりズボンは裾が破かれ腰回りだけ残った状態になっていた。
「素晴らしい…… 血がたぎる!」
左手を顔の近くへとあげた。彼の左手が再生されており手を握ったり開いたりを繰り返す、同時に足も再生されていた。グルファーブルはクレアを見てニヤリと笑った。クレアは眉一つ動かさずに大剣を構えた。
淡々とするクレアにグルファーブルはムッとした表情をする。
伸ばしたグルファーブルの右手に黒い柄の巨大な鎌が現れ、彼は両手で鎌を構えるとクレアを睨みつけ鼻息を荒くする。
「フン! いつまで涼しい顔をしていられるかな」
「残念ですね…… 私は一度あなたのような人と戦った経験があるんですよ」
「黙れ!!!!」
叫びながらグルファーブルは前に出ていた。クレアも前に出てグルファーブルに向かって行く。大剣を持った両手を大きく振り上げたクレアはグルファーブルの頭に向け振り下ろした。
「なっ!?」
目を見開き驚いた顔をするクレアだった。彼女が振り下ろした大剣は湾曲した鎌の刃に当たり、滑りながら横へとそれていった。グルファーブルはニヤリと笑い鎌を横に動かし腕を伸ばし横から鎌の刃を彼女の頭の後ろへ持って行く。
後は鎌を引き無防備な彼女の頸を切り落とすだけだった。
「はっ!?」
鎌が触れる寸前でクレアはしゃがんでかわした。鋭い視線をグルファーブルへと向け、クレアは左手を大剣から離し指を二本立てた。クレアは指先をグルファーブルへ向けた直後に光の剣が伸びていった。
二つの光の剣がグルファーブルの胸へ伸びいく。クレアは意図的に二つの剣を伸ばす速度を変えていた。一つがかわされても軌道をかえもう一つで心臓を貫くためだ。グルファーブルは鎌から手をはなし体をそらし二つの剣に両手を伸ばす。
「ウギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」
グルファーブルは体をそらし一つ目の光の剣を右肩に当てた。次に左手で光の剣を掴んだしかし光の剣を止めることはできなかった。彼は強引につかんだ光の剣を自分の右の肩に刺して声をあげたのだった。
「強引に外しましたか…… でもこのままあなたの心臓を引き裂いてあげますね」
「うぐぐぐ!!!! やめ!! クソ!!」
クレアは二つの指先をゆっくりと閉じていく。光の剣は静かにグルファーブルの心臓を目掛けて移動を始める。硬いグルファーブルを切り裂きながらゆっくりと胸の中心へと迫る。グルファーブルは必死の形相で左手を上げ、両手で光の剣をつかみ強引に止めようとした。光の剣の速度は遅くなり、金属の擦れるように音がして光の剣がグルファーブルの指に食い込んでいく。
「ぐぐぐ…… ぐはああああああああああああああ!!!!」
音がしてグルファーブルの指が光の剣に切り裂かれた。バラバラと地面へ彼の指が落ちていく。ヴァンパイアの弱点の心臓へ左右から光の剣が迫る。グルファーブルの頬が光の剣に照らされる。意を決したグルファーブルは顔を歪ませ眉間にシワを寄せた。
「グッ!!!!!! グゾオオオオオオオオオ大オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!」
怒りの声をあげながらグルファーブルは体を強引に地面に向けて降下させた。グルファーブルの顔を苦痛に歪む。彼に突き刺さっていたクレアの光の剣は、胸から肩へ突き抜けてく同時にグルファーブルの腕は両肩の根元から引きちぎられた。落ちていく途中で彼の腕はメリという音がしてちちぎれた。クレアの光の剣が空を斬って交差した。
グルファーブルは両腕を失った状態で着地し浮かんでいるクレアを睨みつけた。
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
声を上げるグルファーブルをクレアは静かに見下ろすのだった。




