第331話 問答無用
グルファーブルの鎌に弾かれたクレアの大剣は軌道がそれていった。クレアは両腕を突き出した姿勢で視線を横に向けた。グルファーブルは必死な形相で彼女を睨みつけていた。口角があがり彼の長い牙がクレアの視線に入る。
「そうですか。あなたもヴァンパイアですか…… 私の剣を受け止められるわけですね」
「うるさい!!」
眉間にシワを寄せ力を込めてグルファーブルは鎌を押しこんだ。クレアは涼しい顔で大剣を横に動かし彼の鎌を押し返した。
「ぐわ!!!」
クレアの大剣に押し返されたグルファーブルは足を引きずりながら三メートルほど移動した。引きずられた足から砂埃が舞う。転びそうになるのをグルファーブルは必死に踏ん張っていた。グルファーブルは目を大きく見開いた。
「うっ!?!?!?!?!?」
必死に両手で鎌の柄を持って水平に上にあげた。彼の体が一気に下への衝撃に飲み込まれ膝がまわり、全体的に沈み込んでいく。
また瞬時に距離を詰めたクレアが大剣を上から振り下ろした。グルファーブルはなんとかクレアの大剣を受け止めたのだった。
「ググ! クソ!!」
眉間にシワを寄せグルファーブルは全力で両手を全力で押し上げるがクレアの大剣はビクともしない。逆にクレアが腕を押し込むとグルファーブルの鎌は押されていく。
彼の首から下げていた蛇十字のロザリオが光り出したロザリオの中央に赤い小さな石が埋め込まれおり、そこから赤い蛇が飛び出してクレアに噛みつこうと迫って来た。
「ハッ!!!」
クレアが後ろに飛び上がり大剣から左手を離して体を反らす。彼女のそらした体の前を赤い蛇が通り過ぎていく。左手の人さし指を立て指先をクレアへと向けた。細長い光の剣が伸びていき蛇を貫いた。光の剣に貫かれた蛇が消えた。
クレアはグルファーブルから二メートルほど離れた場所に着地し、大剣の剣先を下に向け静かに彼を見て笑う。
「ヴァンパイアのくせに十字架の武器を使うとは…… 節操がありませんね!」
「黙れ!!!」
左手で手招きをしてクレアはグルファーブルを挑発する。怒りながらグルファーブルは鎌で彼女に斬りかかる。クレアは斬りつけてくる鎌を簡単に弾く。グルファーブルとクレアの戦いを十メートル後方でグレン達は見つめていた。
「うん……」
黙ったまま振り向いてグレンは顎でソーラに向かって前にある扉を指した。うなずいたソーラはナーを抱え走り出してグレンを追い越していった。グレンはソーラが走り出すとすぐに横を向いてレイナに左手を伸ばした。
「えっ!? グレン君!?」
「シー! 静かに!」
グレンは獣化で体を大きくし、左腕をレイナの腰に回し抱き寄せた。いきなり抱き寄せられレイナは驚き顔を赤くし声をあげた。グレンはレイナに静かにするように指示し彼女を抱き抱えると走り出した。
キティルの横を通りグレンは扉へ向かって行く。グレンが走ると動揺しキティルが声をあげた。
「えっ!? グレンさん!?」
「あなたもですよ! 行ってください」
グルファーブルの鎌を弾いたクレアが振り向いて、キティルに行けと指示をだした。キティルは慌ててグレンを追って走り出した。
ソーラがまず部屋から飛び出した。グルファーブルがグレン達の動きに気づいた。
「逃がすか!!!!」
逃げ出そうとするグレン達にグルファーブルは右を向けた。彼の左手から赤い蛇が飛び出してグレン達へと向かって行く。
蛇が届く前にグレンが飛び出したキティルが続こうと
「キャッ!!!」
大きな音が部屋に響いた。キティルが部屋を出ようとする直前に扉が勢いよく閉じられた。目の前で扉が閉まり大きな音がしてキティルは声をあげた。
「むぅ! もう邪魔しないでよ」
不機嫌そうな顔でキティルはすぐに小さな扉の方へ向かって行き開けようとした。
「えっ!? 開かない……」
扉を押したり引いたりするキティルだったが、扉はビクともせずに開かない。グルファーブルはキティルを睨んで口を開く。
「悪いが閉じ込めさせてもらったぞ。逃した者はもういい…… ウォルフに任せる」
グルファーブルの言葉にキティルは扉から手を離した。振り向いたクレアとキティルの目が合った。クレアは小さく息を吐いた。
「ふぅ…… しょうがないですね…… 一緒に戦いましょう」
「はい」
キティルは小さくうなずいてグルファーブルに体を向け杖を構える。クレアも彼女に呼応するかのように両手で大剣を持って構え口を開く。
「すぐに皆に追いつきますよ」
「そうですね。すぐにこの人を倒して追いつきましょう!」
「ふふ」
杖の先端をグルファーブルに向けてキティルがクレアに返事をした。クレアは彼女の答えにほほ笑んだ。二人を見てグルファーブルは眉間にシワを寄せた。
「舐めおって…… 正体を現せ! どうせ冒険者ギルドの手の者だろう」
左手でクレアを指してフードを外すように言うクレアだった。クレアはすっと構えをといて左手でフードを外す。クレアを見たグルファーブルは口を開く。
「やはり…… お前はウォルフの……」
クレアはにっこりと微笑み左手を胸の前に持って行き頭を下げる。
「はい。冒険者ギルド冒険者支援課のクレアと申します。教皇グルファーブル…… ツリーローダーを不法に占拠した罪であなたは排除です」
「何を言うか! あれは魔族の仕業だ!」
「誰の仕業かは後で良いんです…… 別にあなたの証言も必要ありません。ただあなたはもうここから生きて出られないということだけを理解してください」
にっこりと微笑みクレアは大剣を構えグルファーブルへ排除を宣告した。
「なっ!? 黙れ! 私は福音派の教皇だぞ! 何かあればオフィーリアが……」
「関係ありません。排除するのみです」
大剣を構えたクレアが一瞬でグルファーブルとの距離を詰める。
「クソオオオオオオオオオオオオ!!!!」
声をあげながら目の前に現れたクレアを鎌で斬りつけるグルファーブルだった。クレアは横から来た鎌の刃を膝を曲げしゃがむようにして体勢を低くして簡単にかわす。
彼女は右腕を引いて剣先をグルファーブルに向けた。
「はっ!」
勢いよくクレアは伸びあがるようにして右腕を突き出した。クレアの大剣がグルファーブルの心臓を狙い鋭く伸びて来る。必死にグルファーブルは体を反らし大剣をかわす。グルファーブルの左胸をクレアの大剣がえぐるようにして切り裂いていく。
「グッアアアアアアアアアア!!!!」
地面に鎌が転がり血が床に垂れていく。クレアの大剣で左脇腹上辺りをえぐられグルファーブルは声をあげ後ずさりする。クレアは大剣を引いて血を払うとグルファーブルを睨みつけると、すぐにまた地面を蹴って彼との距離を詰める。
クレアは攻撃の手を緩めずにグルファーブルの前へ移動してきた。再び大剣がグルファーブルに突き出される。彼は必死に後ずさりしながら大剣をかわす。
「ふぁっ!? クソ!」
足に何かが当たりグルファーブルが視線を後ろに向けた。彼は壁際まで下がっておりヴァンパイアが入っていた容器にぶつかったのだ。クレアは剣を戻すと両手で大剣を横へ持って行き体を後ろへひねる。
クレアは横からグルファーブルを大剣で斬りつける。グルファーブルは視線を上に向けて地面を蹴って飛び上がった。クレアの両手に軽い衝撃が伝わり、ボトという音が聞こえ地面に赤い血が振りまかれた。
表情を一つ変えずにクレアは視線を下に向ける。彼女の視界にグルファーブルの右足が入ったままの派手なブーツの下半分が血だまりに浮かんでいるのが見えたのだった。




