第329話 全てを排除する
鉄格子を開いたグレン達は慎重に地下遺跡の通路を進んだ。円筒状の通路がまっすぐと伸びて先がみえない。先頭を行くクレアがふと天井を見て口を開く。
「ちょうどこの辺りが”ガエロの怒りの断崖”ですね……」
クレアの言葉に最後尾のグレンが同じように天井を見てから口を開く。
「なんで地下に作ったんだろうな…… 古代人の力なら上に橋でもかけられるだろ」
「そうですねぇ」
天井を見ながらクレアは首をかしげていた。グレンの言う通りで古代人文明の力なら地下通路ではなく、断崖に橋を架けることも可能であろう。二人の言葉を聞いたソーラが明るい口調で口を開く。
「古代人は地底人だったのかもよ!」
「わっ私の先祖は地底人だったんですか!?」
ソーラの話を聞いたキティルが自分を指した。ソーラは視線を彼女に向けた。
「そうだねぇ…… キティルは地底人だねぇ」
「へっ!?」
地底人と言われ驚くキティル、ソーラはニヤリと笑って抱えているナーの頭を撫でた。
「だってよく部屋に籠って本ばかり読んでたんだよね…… ずっと部屋に居るのを両親が心配してたまにエリィに外に連れ出してもらってたんだよねぇ」
「なっなんでそんなこと知っているんですか!?」
「僕達はノウレッジの情報課だから。ねえ? ナー?」
「ナー!」
笑顔でソーラはナーに同意を求め、ナーは鳴きながら同意したというような鳴き声をあげた。ソーラの情報網は大陸外にも及んでおり、事前にノウレッジに来る移民の情報を集めることもある。
調子乗ったソーラは徐々に余計なことをしゃべり出す。
「そうそう。後キティルの日記には…… いつか素敵な王子様が……」
「えっ!? ちょっと! やめて!」
「ソーラさん! やめなさい!」
キティルの日記も暴露しようとしたソーラをクレアが止めた。ソーラはキティルに顔を向け笑った。
「はははっ。冗談だよ。猫のほとんどは人の文字はわからないからね。君の日記を見て何もわからないよ」
「ほっ…… うん!? じゃあ見たのは本当……」
ハッっとして青い顔をするキティルだったが、ソーラは彼女にかまわずに話を続ける。
「多分ね。地下にしか作れなかったんじゃないかな。地上だとすぐ壊されるとかね」
「コールドニアや砂塵回廊もそんな感じなのか……」
「だろうね。僕も仕事が落ち着いたら古代文明の謎とか解明してみたいなぁ」
ソーラはナーの頭を撫でながら目を輝かせ通路の壁や天井を見つめていた。彼は振り向いて後ろにいるグレンに声をかける。
「その時はグレンに護衛を頼もうかな?」
ニコニコと笑って首をかしげるソーラにグレンは顔をしかめて首を横に振る。
「嫌だよ。面倒くせえ」
「ケチー!」
「だいたい俺はもう冒険者じゃねえんだからな。そういうのは冒険者に頼め」
グレンはソーラに向け右手を払うように動かす、彼の言葉にクレアが反応した。
「実はまだ…… 冒険者なんですよ。グレン君も私も」
「へっ!? そうなの?」
「はい。登録は残ってますよ。ミレイユに言えばいつでも冒険者に戻れます」
冒険者からギルドの職員となったグレンとクレアの二人だが、冒険者としての登録は残っておりいつでも復帰は可能だという。
レイナが振り向いてグレンに向かって右手を上げた。
「じゃあ! 今度グレン君と冒険者の仕事する!」
「わっ私も!」
グレンと仕事がしたいというレイナにキティルが続く。二人はグレンの前で彼の顔を覗き込んだ。瞬時に断ると判断したグレンだが断ると実姉が面倒だということにすぐに気づく。
「あぁ。気が向いたらな」
「えへへ。約束だよ」
「約束です」
レイナとキティルは振り向いて歩いていってしまった。二人はクレアを追い越し先に行く。二人にソーラが続く。残されたクレアとグレンは顔を見合わせて笑った。
「なんだあれ……」
「うーん…… いきなり上位クラスの人と仕事は大変ですよ。まずは私と一緒にリハビリしてからにしましょう」
「へっ!?」
「決定です!」
すっとグレンと手を握りクレアは前を指し二人は手をつないで歩き出した。彼女の言葉を聞いたキティルとレイナは振り向いた。手をつないで歩く二人を見たレイナとキティルは眉間にしわを寄せる。
「ずるい! クレアちゃん!」
「そうですよ!!」
「べー!」
自分達の横を手をつないで歩くクレアとグレンに二人はずるいと叫ぶ。クレアは勝ち誇った顔で舌を出して笑うのだった。グレンは恥ずかしそうにうつむき、四人を見ながらソーラは笑っていた。呆れたようなナーの声が通路に響くのだった。
通路の先に巨大な金属の扉が現れた。城門のような重厚な扉の中に小さな扉がある。五人は小さな扉から中へ入った。
「ここは……」
扉の向こうは横幅は二十メートルほどで奥は見えないほど長い長方形の空間で、天井は高く壁際に砂塵回廊で見たような透明で緑の液体の入った円筒形のケースが並んでいた。中には目をつむった人間が入っている。中に入っている人間には牙の先端が口から覗いていた。
クレアたちは左右の壁際に別れ中に入っている人間達を見ていた。ケースを見ていたグレンが口を開く。
「なぁ…… クレア義姉ちゃん。この中にいるのって……」
「えぇ。ヴァンパイですね。寝床にしているようです」
「えっ!? 寝床ってこいつら古代人だろ……」
「あれを見てください」
右腕を伸ばして一つのケースを指すクレアだった。彼女が指したケースは空で緑の液体だけが入っている。
「液体が垂れてますよね? つまりヴァンパイアが出入りしているんですよ。ここは彼らの寝床なんでしょう」
クレアの言う通り透明なケースは上から液体が垂れ水滴がついていた。これはつい最近に人が出入りしたことを示していた。グレンはクレアに向かって口を開く。
「なんでガーラム修道院の地下にヴァンパイアの寝床があるんだよ」
「さぁわかりません。ただ…… ガーラム修道院にあるのなら福音派はヴァンパイアが紛れ…… いいえ牛耳られていんでしょう」
「なっ!? 本当かよ……」
黙ってうなずきクレアは厳しい表情をする。ケースに入った人間達はヴァンパイアだった。彼女は並ぶケースを見て背負った大剣に手を伸ばした。
「なっなにするの? クレアちゃん?」
「目標の障害なりそうなものは全て排除するだけです。皆! 動かないで」
大剣エフォールを引き抜いた彼女は右手一本で剣先を床につけ立てるように持ち、左手を開いて天井へと伸ばす。
「光の精霊よ。輝くその魂で我が道を照らし漆黒の闇を払いたまえ!!! ライトソードレイン!!!」
クレアが伸ばした左手の先に白く光輝く球体が現れた。球体は天井の手前に浮かび直径五メートルはあろうかという巨大な物だった。球体から無数の光の刃が飛び出してケースへと向かって飛んで行く。
「「「ウギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」
光の刃はケースを貫通して中で寝ているヴァンパイアたちの心臓に突き刺さった。目を覚ましたヴァンパイアたちの断末魔が空間に響いていた。穴が開いたケースからヴァンパイアの血と液体が混じりながら流れていく。
クレアが放ったのは光の魔法ライトソードレインだ。魔法で作り出した光の刃を雨のように降らす光の最上級の攻撃魔法だ。ケースにいるヴァンパイアは光の刃で心臓を貫かれ全滅した。
「ヒッ!」
足にヴァンパイアの血と緑の液体が混じった物が流れて来てレイナが悲鳴をあげたのだった。




