第326話 すっかり慣れたようです
眉間にシワを寄せ必死の形相で耐えるガイル、向かい合うオリビアも同様に眉間にしわを寄せ必死にメイスを押し込む。
「ぬわああああああああああああああ!!!」
耐えていたガイルは右手の拳を握りオリビアに向け繰り出した。オリビアの視線が横に動きガイルの拳に反応した。体を前に出してひねりガイルの拳をかわすオリビアだった。
彼女の肩をかすめながらガイルの拳が通り過ぎて行った。オリビアはメイスを引きながら前にでる、力を込めて横からガイルの背中を目掛けて振り抜く。
「がっ!!」
とっさに振り向きガイルは両腕をクロスさせオリビアのメイスを受け止めた。激しい衝撃がガイルを襲い、オリビアの両手は思い感触にしびれる。
「ドオオオオオオオオリャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
「ぐううううううううううう!!!」
力任せにメイスを振り抜くオリビアに必死に足を踏ん張ってガイルだった。ガイルは腕をクロスしたまま足を地面にこすりながら後ろへと引きずられていく。地面と彼の足がすれて煙をあげながらガイルは十メートルほど後方へ移動した。オリビアは左手をメイスから外しゆっくりと引き体を起こす。
「ふぅ…… みんな大丈夫か?」
メイスの先を斜めしたに向け右腕にはわせるように持ち、オリビアはクロースたちに声をかける
「わたくしは大丈夫ですわ。ジャスミンさん?」
「平気です……」
ガイルに飛ばされたクロースは立ち上がりオリビアに手をあげ答える。彼女は横を向きジャスミンに声をかけた。ジャスミンは立ち上がり左腕を押さえながら答える。
「私も大丈夫だ!」
大きな声で答えルドルフは立ち上がり、近くに転がった自分の剣に手を伸ばす。オリビアは皆を見てうなずいた。横に移動をしながらガイルをジッと睨むようにオリビアは見つめていた。
「さて…… そろそろ終わりにするか?」
「黙れ! 勇者アアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」
口元を緩ませガイルに声をかけるオリビアだった。ガイルは激高しオリビアに向かって叫んだ。彼は右手を開いて伸ばした。オリビアがすっと体を横に向けた。
オリビアの背後の舞台に転がっていた、幅広のサーベルが飛んで来てオリビアの横を通り過ぎていった。サーベルはそのままガイルの右手におさまった。
サーベルを両手に持ったガイルはオリビアに向かって駆け出した。オリビアはジッと静かに向かって来るガイルを見つめていた。
「おりゃアアアアアアア!!!」
オリビアは振り下ろされるサーベルを右手で持ったメイスを振り上げた。大きな音が響いてオリビアのメイスがガイルのサーベルを弾いた。
「クソがああああああああ!!」
ガイルはすぐにサーベルを戻してオリビアに斬りかかる。オリビアはまたメイスがガイルのサーベルを弾く。同じような光景が何度か繰り返す。ガイルはなんどもオリビアに斬りかかりそのたびにオリビアが簡単にサーベルを弾いていた。
オリビアとガイルが対峙している後方、建物の屋上でメルダが下の戦況を見ていた。彼女は矢を取り出し弓につがえていた。
「銀色の体…… 厄介ね。なら私が…… オリビア…… もう少し…… 押さえなさい! 助けてあげるから!」
膝をついた姿勢で矢をつがえた弓を強く握り弦を引き構える。彼女の視線の先は必死にオリビアに剣を振るうガイルが見えた。
「ふん…… 生意気ね……」
視界に見えるオリビアが左腕を曲げ指を前に向ける仕草をする。彼女の仕草を見たメルダは不満げな表情を浮かべる。
「クソが! 死ねエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!!!!!」
ガイルが大きくサーベルを振り上げた。メルダはガイルの頭に弓の狙いを定めた。
「終わり…… えっ!?」
いきなり目の前にガイルのサーベルが飛んで来た。なんとか反応したメルダは体を弓を下し、必死に体を倒してサーベルをかわす。必死に体を後ろにそらしサーベルをかわそうとするメルダ、彼女が被った”溶け込みフード”をサーベルがかすめ布が斬られた。
「ふぅ……」
天井の上に寝転がるようになった彼女の目の前をサーベルが飛んで行った。直後にサーベルは屋根に突き刺さり大きな音を立てる。
「なっ!?」
体を起こしてメルダの前にガイルが飛んで来ていた。ガイルは自分を狙うメルダの存在に気づいていたようだ。
「はははっ! お前の存在くらい知っておるわ! こざかしい真似をしおって!!!」
右手を開いてメルダに向けるガイルだった。彼の右手に赤い光が集約し小さな炎が現れた。
「どこへ行くつもりだ?」
ガイルの耳元でオリビアがささやく声が聞こえた。ハッと目を大きく見開いていきおいよくガイルが振り向いた。そこにはメイスを構えるオリビアがいた。
「いっ!? お前は飛べないはず……」
「あぁ。飛べない。だから地面を蹴って追って来た!」
オリビアはガイルが飛んだ直後に彼を追いかけて地面を蹴って飛び上がった。飛行魔法を使えない彼女だが建物四階程度であれば跳躍できる。
驚いた顔をするガイルにオリビアは、ほほ笑みながら両手に持ったメイスを横から振り抜いた。
「えっ!? うわああああああああああああああああああああ!!!!」
鈍い音がして横から飛んで来たオリビアのメイスがガイルに命中した。体を横に曲げたまま彼は吹っ飛んで行った。ガイルは一直線に飛んで行って教会の壁に激突した。教会の壁にガイルがめり込み砂埃が舞っていた。
オリビアはメルダの前に着地した。起き上がろうとした姿勢のままオリビアを見つめるメルダだった。
「大丈夫か?」
「えぇ…… でも…… まだよ」
「わかっている……」
メルダが厳しい顔で教会に視線を向けた。砂埃が薄くなり壁が円形にへこんで埋め込まれたガイルが見えた。うなずいたオリビアだったどこか寂しそうな表情を浮かべていた。
「なに? あぁ。お腹空いたの? はい」
あきれた顔でメルダはポケットに手を突っ込み、魔法丸を取り出しオリビアに向かってを投げた。オリビアは飛んで来た魔法丸を受け取った。手を上に向け魔法丸を黙ってオリビアが見つめている。
「どうしたの? 早く食べなさいよ」
「いや…… これまずくて…… 他にないか?」
顔をしかめるまずいと文句を言う、オリビアにメルダは眉間にシワを寄せ怒りの表情を向けた。
「贅沢言うんじゃないわよ! さっさと食べて行きなさいよ!!!」
「はぁ…… 段々クロースに似て来たな」
「うるさい!!! さっさと食え!!」
渋い顔でオリビアは魔法丸を飲み込むと屋根を蹴って教会に向かって行った。
「そりゃあ…… 似るでしょ。仲間なんだから…… ふふ……」
飛んで行くオリビアの背中を見てメルダはほほ笑むのだった。横から壁にめり込んでいたガイルが悔しそうに目を開ける。彼の目にメイスを持って飛んでくるオリビアが映る。
「クソ…… 私がなぜ…… イプラージは…… クソオオオオオオオオオ!!!!!」
叫び声をあげたガイルは拳を握って翼を大きく広げた。彼は飛んでくるオリビアを見つけると飛んで行く。ガイルが勢いよく開くと銀色の鋭い爪が伸びた。爪を大きく振りかぶりオリビアへと迫るガイルだった。彼女の前に来るとガイルは勢いよく腕を振り下ろす。オリビアは静かに持っていたメイスを素早く後ろに引いた、彼女は視線を動かし向かって来るガイルの爪を見てタイミングを計る。
「死ねエエエエエエエエエエエエエエ!!」
「はっ!!!」
「うっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
オリビアはメイルを前に突き出した。高速で一瞬で鋭く伸びたメイスは、ガイルの腹へと突き刺さるように突いた。めり込んでいくメイスがガイルの銀色の肉と内臓を押しひねり上げ骨を砕いていく。
ガイルの体はくの字に曲がった口の端から血が垂れていく。オリビアはゆっくりとメイスを引いたガイルの体からメイスが離れいった。気を失っているかガイルの背中の翼を広げたままゆっくりと地面へと落ちていき地面に叩きつけられた。
仰向けに大の字に倒れたガイルの側にオリビアが下り立った。ガイルの体から白い煙のようなものが出て彼は悔しそうにオリビアを見た。
「クソオオオオオオオオ!!!!!!!!」
オリビアを睨み激しい声をあげるガイルだった。オリビアは彼を見つめ静かに立っている。
「お前は…… 何もかも私達から奪うのか!!! 王も! そして…… わが命も! グギャ!!!!」
表情を一つ変えずにオリビアはガイルの頭にメイスを叩きつけた。彼の頭はグチャッと音を立ててつぶれ肉片と血を周囲にまき散らした。
「奪う? 最初に私から家族を奪ったのはお前らだ! 全部私のせいか? 違うだろ!!! 死に際だけ同情を誘うな! クソ野郎ども!!!」
ガイルを睨みつけ嫌悪感丸出しでオリビアは叫んだ。クロースたちは心配そうに彼女を見つめていた。オリビアは淡々とメイスを戻すと肩に担ぎガイルに背中を向けたのだった。
教会にはツリーローダーへと送り込まれた魔族の大半が集まっていた。オリビアたちは教会に閉じ込められていたウォルターを救い出した。
その後、オリビアは朝までにツリーローダーを解放した。五年ぶりに勇者が魔族の手から町を救ったのだった。




