第323話 静かに怒る稲妻
ふわりとそよぐ風がジャスミンの頬を撫でる。眼下に見せる魔族の頭が徐々に大きくなる。ジャスミンはつかんだオールを引き抜くと同時に振り下ろす。
「はああああああああああああああああああああああああ!!!!」
空気を切り裂く音がした直後にドフっという鈍い音が教会の広場に響いた。ジャスミンのオールは立っていた魔族の頭へとたたきつけられた。硬く重い感触がジャスミンの右手に伝わる。振り下ろされたオールは魔族の頭へとめり込み叩き潰した。落としたトマトのように魔族の頭は破裂し、周囲に肉片と血をばらまいた。ジャスミンの頬に魔族の血と肉が撫でていく。ジャスミンが地面に着地すると同時に魔族は膝をつき前へと倒れた。
「なっなんだ!? お前は?! ウギャ!!!!!!!!!!」
「えっ!? どっどうした!? グギャアアアアアアアア!!!!!」
周囲に魔族がジャスミンと魔族に気づき騒然となった。直後に上から魔族の後頭部に剣が突き刺さり、隣にいた魔族の頭からハルバードが振り下ろされ真っ二つに引き裂かれた。
ジャスミンの左右にクロースとルドルフが着地した。魔族たちは三人をから離れて遠巻きにする。
「さて…… どうします? えっ!?」
「おっおい!」
黙ってクロースがハルバードを構えて走り出し動揺し固まっている魔族たちに斬りかかった。
「はああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
「「「「「グギャ!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」
魔族の集団に横からハルバードを繰り出したクロース、魔族の胸や腕や腹を彼女のハルバードが切り裂いていく。腕や血が肉が地面に飛び散って魔族たちは声をあげて倒れる。ハルバードを振り抜いた姿勢ですぐにクロースは振り向き二人に向かって声をあげた。
「何をしてますの? 今のうちに出来るだけ数を減らすんのですわ!!!」
「えっ!? あぁ」
「はっはい!」
クロースの言葉に我に返ったように二人は魔族たちに襲いかかった。相手が動揺し動けない間に手を緩めずに出来る限り戦力を減らそうというクロースだった。
「うわああああああああ!!! ウギャ!!!」
「クソ!! ウギャアアアアアアア!!!!」
不意をつかれた魔族は三人に次々と倒されていく。特にクロースの勢いはすさまじく、魔族をなぎ倒しながら舞台へと迫って行く。
「前に出すぎですよ」
「そうだ!」
「あなたたちが遅いのですわ!」
一人で前に出たことを指摘されたクロースが振り向いて二人に遅いと叫んだ。彼女の横から一人の魔族が迫って来たことに気づかなった。
「クソオオオオオオオオオオオオ!!!!」
手斧を持った魔族がクロースに向かって切りかかって来た。
「はっ!? しまった」
「死ねエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!!!!!!」
接近に気づかずに不意をつかれクロースは動けずに驚き青ざめた表情をする。手斧を振り下ろす魔族は青ざめた表情のクロースに勝ちを確信し笑った……
「ふふ…… なーんて…… 残念でしたわね! そこはもう…… わたくしの領域ですわ!!!」
ハルバードを持つ左手を開いた。直後に彼女を中心に地面から青白く光りの線が放射状に伸びていく。
「「「「ウギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」」」」
放射状の光に照らされた魔族たちに地面から稲妻が伸びて行く。彼女の周囲に魔族数十人が一瞬で黒焦げになり地面に倒れた。ジャスミンとルドルフは足を止め真っ黒になり地面に転がる魔族たちを見て驚愕の表情を浮かべる。クロースは満足げにうなずき右手一つでハルバードを持って先を舞台に向けた。
「さぁ! オリビアを返しなさい! 魔族ども!!!」
広場にクロースの声が響き渡る。周囲の魔族の視線が一斉に彼女に集中する。舞台の上に居るガイルとオリビアがハルバードを向けるクロースへ視線を向ける。
「何者だ?」
「わたくしはクロース! そこのアホンダラの仲間ですわ」
叫んだクロースはハルバードを振り上げ勢いよく振り下ろし構えた。ガイルを睨みながら彼女は右手に持つハルバードに力を込めた。
ガイルはクロースを鼻で笑う。
「ふん…… お前は馬鹿か? こっちには人質が居るんだぞ?」
持っていたサーベルをガイルはオリビアの首筋に当てた。冷たい金属の感触がオリビアの背筋を凍らせる。ただ、百戦錬磨のオリビアはこの程度では動じない。冷静にクロースに向かって叫ぶ。
「クロース! 逃げろ! 私は……」
「黙れ」
「グッ!!!」
叫びながらサーベルをオリビアの首からはなし、ガイルは彼女の腹を蹴り上げた。口から血を吐き出しオリビアはうずくまった。オリビアは顔を横に向けガイルを睨む、ガイルは笑って今度は彼女首の上にサーベルを置いた。
「少しでも動いてみろ! こいつの喉を掻っ切ってやる!!!」
左手でクロースを指してガイルが怒鳴りつける。クロースと後ろにいるルドルフとジャスミンの三人の動きが止まる。
「女が二人か…… 男も頑丈で楽しめそうだ…… はははっ!」
ガイルが舐めるようにクロースとジャスミンを見て舌なめずりをして笑うのだった。
「クッ! 早くしなさいな……」
視線を上げクロースは舞台の上を睨みつけるように見つめるのだった。
クロースと舞台を挟んで向かい側。広場の左手にある建物の屋根にメルダが膝をついて矢を持っていた。彼女は魔法丸を矢の先端に刺し足元に予備なのか、もう一本の矢がすぐに射れるように置いてある。
「はいはい。さっさとやれば良いんでしょ。よっと!」
舞台の向こうから感じるクロースの視線にメルダは面倒そうに返事を返す。彼女は矢をつがえ弦を引き構える。わずかに音がして矢が発射された。矢は勢いよく舞台へと向かって飛んで行く。彼女の放った矢は背後からカイルの首筋を目掛けて飛んで行く。
「無駄だ!!!!」
矢がガイルに届く直前に振り向いた。そのまま彼はサーベルと上へと振り上げた。サーベルは矢を真っ二つに折った。矢の後ろ半分は舞台の床に転がり、先端は上空へと回転しながら飛んで行った。
「お前らの浅知恵ごときで裏をかけると思うなよ。愚か者め!!!」
屋根の上に立つメルダへサーベルの先端を向けるガイルだった。彼はメルダの存在に気づいていたようだ。矢を叩き落とされルドルフとジャスミンの顔が青ざめる。クロースは真顔でジッと舞台の上を見つめていた。
「ふふふ。無駄なのはあんたよ……」
ニヤリを笑ったメルダは右手を足元に置いて矢へと伸ばした。矢を素早く掴んで構えるともう一度矢を放つ。空気を切り裂きながら矢は舞台へと飛んで行く。
「無駄だと言ったであろう!」
向かって来る矢に向かって叫びガイルはサーベルを持つ手に力を込めた。
「なっ!?」
彼女が放った矢がガイルへ…… とはいかずに回転しながら空中を飛ぶ折れた矢の先端へ向かっていった。舞台の上で乾いた音がした。メルダが放った矢は折れた矢に命中し勢いよく弾いた。
「うぎゃあ!」
メルダが放った矢は軌道がそれ飛んで行き近くの魔族の腕に突き刺さった。
「はい…… 召し上がれ!」
弾かれた折れた矢は舞台の床へ向かって飛んで行く。うずくまるオリビアの髪をかすめて彼女の口の前へと突き刺さる。矢の先端にあった魔法丸は床に突き刺さった衝撃で半分に割れ、放物線を描き飛んで行く。魔法丸の半分がオリビアの口へと飛び込んだ。




