第322話 教会は処刑会場
教会の前は開けた広場のようになっており、中央に円形の木製の舞台が築かれていた。舞台の周囲には三百名を超える魔族たちが押し寄せていた。築かれた舞台の上には拘束され、膝をつかされたオリビアと彼女の横にはガイルが立っていた。舞台にはもう一人、オリビアの斜め後ろに魔族が立ち彼女を拘束している縄を持っている。
ガイルは右手に大きな刃の広い三日月型のサーベルを握られている。
「見ろ!!!!!! お前に向けられる敵意を!! ここに居るやつらは…… お前に恨みがある奴らばかりだ!!!!!!」
ガイルが魔族の群衆を指してオリビアに向かって告げた。彼の言葉に周囲の魔族たちが反応した。
「「「「「殺せえええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!」」」」」
大量の魔族たちが声を上げた。ツリーローダーの魔族の声が村に響き渡る。自分に悪意を向ける魔族たちを一瞥したオリビアは口元を緩ませガイルに口を開く。
「ふん。それはこちらも一緒だ…… お前たちの腕で殺した人間にも家族はいるんだ……」
「黙れ!!!」
「グハ!」
オリビアの顔をガイルが横から蹴った。声をあげ倒れるオリビアだった。彼女の後ろにいる魔族がすぐに髪を掴み強引に立ち上がらせる。
口の端から血を流しオリビアはガイルを睨みつける。ガイルは睨み返し口を開く。
「なにが家族か! 我らの戦いの傷で子を孕めないそうじゃないか? 勇者様は?」
「クッ…… だからなんだというのだ! 私には家族がいる! グレゴリウスというな…… プッ!!」
「貴様!」
「がはっ!!!」
ガイルは今度はオリビアの腹を蹴りあげた。苦しそうにうずくまるオリビアの頭にガイルは足を乗せ踏みつける。
「まぁ…… 今頃…… お前の旦那はグルファーブルの餌食になっているだろうけどな……」
「なっ!? なんだと! グレをどうするつもりだ!!」
「ふははは! あいつは変態野郎だからな! 最初からお前の旦那の尻を狙ってたんだよ」
「うっ…… 嘘だ…… グレ……」
足を外したガイルは驚いているオリビアを見て笑っていた。
「さて…… おい! 本当に孕めないのか試してやれ! 誰か!!」
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」」」」」
壇上に魔族が殺到し我先に上がろうとして争いだした。オリビアはグレゴリウスがグルファーブルの毒牙にかかっているというガイルの言葉に、ショックで呆然として争う魔族を見つめていた。
舞台正面の広場を囲む青い屋根の三階建ての建物に、クロース、メルダ、ルドルフ、ジャスミンの四人がいた。
「クズだな…… 所詮は魔族か…… いや…… 人間も変わらん。敗者を蹂躙し搾取する…… クソだ」
ルドルフは拳を握りしめ壇上に立つガイルと周囲の魔族を睨んでいた。彼の横に居るジャスミンが口を開く。
「オリビアさんはなんか弱弱しくないでござるか? あんな魔族の拘束なんか勇者ならすぐに外せそうでござる」
ジャスミンの言葉にすぐにクロースが反応する。
「空腹にされているんですわね」
「えっ!?」
「オリビアは食べれば食べるほど強くなりますわ。でも逆に食事を与えなければ弱体化するんです」
「なっなんと…… そういことでござったか!」
空腹でオリビアが弱るとクロースが説明するとジャスミンは驚いていた。クロースはポケットに手を突んですぐに取り出した。彼女の手の上に直径数センチの黒い丸薬が置かれていた。
「でも、大丈夫ですわ…… これを食べさせれば」
「なっなんだござるか? それは……」
「魔法丸ですわ。魔法使いの携帯食ですのよ」
「しかも! 満腹感倍増されているのよ…… まずさもだけど……」
クロースの手を背後から覗き込み苦い顔をするメルダだった。自信ありげなクロースとメルダにルドルフが問いかける。
「でも…… どうやってオリビアに届けるんだ?」
「メルダの矢で届ければいいですわ…… ねぇ!?」
後ろを向いてクロース微笑んだ。メルダは面倒そうな顔をする。二人を見たルドルフがさらに尋ねる。
「でっ出来るのかそんなこと?」
ルドルフの問いかけをメルダは鼻で笑った。
「ふっ愚問ね…… あたしが勇者を狙って外すと思う? まあ手元が来るって心臓に命中したら諦めてちょうだい……」
「なっ!? 貴様! やはり魔族か」
弓を出してオリビアを見つめるメルダだった。ルドルフは怖い顔で彼女を睨んでいた。しかし、クロースは平然と彼女に魔法丸を差し出した。
「えぇ。そうですわ…… じゃあよろしくお願いしますわ」
「えっ!? クロース氏!? よろしいですか?」
「そうだ! こいつが……」
黙ってメルダは魔法丸をクロースから受け取った。二人の行動にジャスミンとルドルフが慌ててクロースに確認するが彼女は特に気にすることなく舞台に周りにいる魔族たちを指した。
「ルドルフさん、ジャスミンさん。わたくしたちは魔族の気を引きますわよ」
メルダをフォローしろというクロースを呆然と見つめるジャスミンとルドルフだった。クロースは二人を見てほほ笑んでいた。すぐに彼女はハッとして何かを思い出しタワーからもらったフードを取り外しメルダへ差し出した。
「あっ! 忘れてましたわ! これを!」
「なにこれ?」
「タワーさんからもらった”溶け込みフード”ですわ。これであなたは気づかれません」
存在が気にされなく溶け込みフードをメルダはクロースから受け取った。クロースはルドルフとジャスミンの前に来てまた広場を指した。
「じゃあ。行きますわよ。ルドルフさん、ジャスミンさん」
「あっあぁ……」
「わかったでござる」
二人は静かに返事をしてクロースに付いて行くのだった。メルダはフードを被ると飛んでオリビアの左斜め前にある屋根へと飛んで移動する。
クロース達は屋根を移動し建物の左端にあるヘリへと歩いて向かう。歩いていたジャスミンが振り向いてすぐに前を向きクロースに口を開く。
「メルダ氏は物騒なこと言ってござったけど…… 大丈夫でござるか」
「そうだ…… 今は仲間とはいえあいつも魔族…… 勇者に恨みがあるのは変わらない」
「大丈夫ですわよ。彼女は…… 信頼できる仲間ですから!」
振り向いてジャスミンに向かって微笑むクロースだった。三人は屋根のヘリへと移動した。舞台の周りではオリビアを辱めようとする魔族たちの争いが激化し大きな喧嘩となっていた。騒ぎが大きく屋根の上のクロース達に気づく魔族らはいなかった。
「さて…… ジャスミンさん…… あなたも本気でやりなさいね。あなたも仲間ですからね」
「なっなにを……」
「私の耳は欺けませんわよ」
クロースが耳になる蒼眼の発掘人を触りながらジャスミンに顔を向けた。彼女の手の中で蒼眼の発掘人の青い球が震えている。ジャスミンは口元を緩ませ眼鏡に手をかけた。
「そうでござるか…… ならしょうがないでござるね。クロース氏! ルドルフ氏! 行きますわよ!」
ジャスミンは眼鏡を勢いよく眼鏡を外した。彼女は前に出て屋根から飛び下りた。
「おっおい! 行くぞ!」
「えぇ」
慌ててルドルフは剣を手にかけ屋根を蹴ってジャスミンに続く。うなずいたクロースが彼に続いて屋根から飛び下りた。
「開演!!!」
飛び下りながらジャスミンは両手を広げて叫んだ。彼女の背後にあるリュックの口から一本のオールの柄が突き出して来た。
背中に手を回しオールがつかむジャスミン、彼女の目の前に紫色の魔族の頭が迫る。




