第321話 猫に付いていけ
森を進むタワー、ルドルフ、クロース、ジャスミン、メルダの五人は森を進む。前を歩く小さなリュックを背負ったジャスミンを見てメルダが口を開く。ジャスミンのリュックは農場で借りたもので食料とマウラからもらったポーションが入っている。
「ジャスミン…… ゴンドラはどうしたの? 農場に置いて来たの?」
メルダはふとルドルフとジャスミンが逃げる際に乗っていたゴンドラの所在が気になってジャスミンにたずねた。
「えっ!? あぁここにあるでござるよ」
振り向いたジャスミンは背負ったリュックをメルダに見せてから、ベルトを肩から外して開けて中へ手を突っ込んだ。彼女はリュックを広げて中身を見せた。
「なっなにこれ? ゴンドラを小さくしたの?」
「はい。フォレストモデリングで小さくしたでござるよ。こうしておけばオールとゴンドラを持ち運べるでござる」
リュックの中には小さくなったゴンドラが入っていた。ゴンドラの上にはオールが乗っている。メルダはリュックの中にゴンドラを興味深く見つめていた。
「へぇ…… あれ…… なんかオール多くない?」
ゴンドラの周りは小さくなったオールが十本以上入っていた。ジャスミンは胸をはり得意げにメルダに答える。
「農場にある魔導ゴンドラのオールを全部借りて来たでござるよ。万が一折られてもこれなら大丈夫でござる」
「はぁ……」
ジャスミンは笑顔でリュックの口を閉じてまた背負う。メルダは不思議そうに彼女を見つめていた。
魔導ゴンドラは深層の大森林の主要な移動手段であり、施設にオールの予備が置いてあることは珍しくない。
五人が森に入ってしばらくすると河原へ出た。タワーは川原に転がる倒木を指して振り返った。
「あそこです」
タワーはそういうと倒木の前へやって来た。倒木は十メートルほどで直径は一メートルほどで幹に空洞が出来ている。タワーは空洞の前に向かって口を開いた。
「ニャーオ!」
タワーは倒木の前で猫の鳴き真似をした。すると倒木がうっすらとかすかに青く光り出す。タワーはしゃがんで振り向いて、後ろに立つ四人に声をかける。
「じゃあ僕が先に……」
前を向いてしゃがんで空洞へ入ろうとするタワー、クロースがしゃがんで彼に続こうとした。ルドルフは倒木を見て声をあげる。
「こっここを通るのか?」
「はい。猫の抜け道と言って今はツリーローダーの教会の裏へつながってます」
「そっそうか」
タワーはそういうと一人で中へ入って行った。クロースは彼に続かずに立ち上がり体を横にして心配そうにルドルフを見ていた。ルドルフは返事をし倒木に視線を向けた。彼は猫の抜け道が初めてて不安になっているようだ。
「なーに? もしかしてあんた怖いの? でかい図体しているくせに……」
「ダメですわよ。怖いものは誰でも怖いんです」
「なっ?! だっ大丈夫だ!」
眉間にシワを寄せルドルフはクロースを押しのけるようにして彼女の横を通りしゃがんで倒木の中へと入って行った。ルドルフの行動にクロースとジャスミンとメルダは顔を見合わせて笑うのだった。
倒木の空洞に入ったルドルフの視界が暗くなりすぐに明るくなった。そこは木の建物が並ぶツリーローダーだった。彼の背後には木の家と家のわずかな隙間が青白く光っていた。
「へっ!? なっなんだ!!!」
「しまっ…… えっ!?」
横から声が聞こえてルドルフが顔を向けた。一メートルほど先に魔族が立っていた。慌てて右手を剣へと伸ばした。
「がっ……」
魔族が小さな声をあげ、呆然とするルドルフは剣に手をかけたまま固まっている。彼の目の前にいた魔族の喉元が切り裂かれ直後にこめかみに穴が開いた。
目を大きく見開いて魔族はゆっくりと背後へと倒れていった。倒れた魔族の脇にタワーが静かに佇んでいる。彼の視線は冷たく魔族を見つめている。
「ふぅ…… 僕だって先に出てたのに…… うぅ……」
「どっどうした?」
「なんでもないです!」
倒れた魔族を睨みつけるタワーにルドルフが声をかける。慌てた様子でタワーは首を横に振った。ルドルフに続いてクロース、メルダ、ジャスミンが猫の抜け道から出て来る。
「ルドルフさん。タワーさん。大丈夫ですか?」
「大丈夫だ」
クロースが倒れた魔族を見て二人に声をかけルドルフが答えた。
「来ましたね……」
魔族の傍らに立つタワーが視線を失せに向けた。彼の視線の先には青い屋根へと向けられていた。
「ニャー! ニャー! ニャー!」
「わかりました……」
屋根の上に白い猫が座っていてタワーに向かって鳴いていた。タワーは鳴き声を聞いてうなずいた。
「彼に付いて行ってください…… 僕は先行して来ます」
「きっ消えた……」
タワーの姿がルドルフの視界から消えた。驚くルドルフの横にスッとタワーが現れた彼は口を尖らせ不満げな表情をしている。ルドルフは気づいてないのか愕然としたままタワーが居た場所を見つめている。
「いますよ!!」
「うわ!!!」
横から声をかけられ驚くルドルフだった。タワーはルドルフを軽く睨んで消えて行った。
「なんだったんだ……」
「さぁ。わかりませんね。とりあえずタワーさんの言う通りにしましょう」
クロースはほほ笑み視線を上に向けた。青い屋根には白い猫がまだ座ってクロース達を見ていた。
「にゃーん!」
青い猫はクロースと目が合うと屋根の上を歩き出した。屋根の縁まで来ると振り向いて鳴いた。
「付いて来いってことでござるな」
「えぇ。行くわよ。クロース」
「そうですね」
四人は猫に付いて歩き出す。猫は屋根伝いに進んでいく。猫が歩き始めて数分で屋根越しに尖塔の上に立つ十字架が見えて来る。
猫は立ち止まりクロース達を見た。
「ナーナー」
か細い声で鳴く猫を見つめるクロース達だった。腕を組んでルドルフが難しい顔をして口を開く。
「動かないな」
「うーん…… どうしたのかしらね。タワーが付いて行けって言ってたのに……」
「謎でござるな……」
立ち止まった猫に首を傾げて困った様子の四人、少し考えてクロースがハッとした。
「もしかして…… 屋根に上がれってことじゃ」
「なるほど! そうでござるな」
「じゃあ行くわよ」
猫はクロース達に屋根に上がれと言っているようだ。四人は顔を見合わせてうなずいた。メルダはルドルフに向かって尋ねる。
「あんた飛べるの?」
「魔法の心得はある」
「そう。じゃあ行くわよ。ジャスミン! 失敗しないでね」
「まっ任せるでござるよ」
地面を蹴って四人は猫がいる屋根に向かって飛び上がった。クロース、ルドルフ、メルダが屋根に着地する。最後にジャスミンが飛んで来た。メルダは目を鋭くして身構えた。
「おわっと!」
「ハッ!」
着地したジャスミンがバランスを崩して落ちそうになった。メルダはわかっていたかのようにすぐに右手を伸ばし彼女の腕をつかんで自分に引き寄せ左手で腰を支える。
「何度も同じことしないでよ」
「めっ面目ない……」
メルダに注意され顔を真っ赤にして恥ずかしそうにするジャスミンだった。クロースとロベルトは笑っていた。
「ナーン」
猫が鳴き皆が一斉に視線を向けた。屋根の一番上で猫が立って顔をクロース達に向けていた。四人は慎重に屋根を上っていく。四人の視界に屋根の向こう側が見えて来る。そこは教会の広場で紫や緑色の魔族たちが集まっているのが見えてくる。
「あれは…… オリビア!」
屋根の一番上に上がり広場を見たクロースが声をあげたのだった。




