第320話 今度はみんなで
準備を整えたグレン達は農場を出た。朝もやが残る早朝の道をクレア、ルドルフ、ジャスミン、レイナ、キティル、メルダ、クロース、グレンの順で並んで進む。
ソーラとタワーは猫の抜け道を使用して先行しツリーローダーの状況を探っている。
「あら!?」
「おっと! クレア義姉ちゃん! ちょっと待って」
クロースがふらついて倒れそうになった。グレンは異変に気付いて倒れそうになる彼女を抱きとめた。
「もっ申し訳ありません。グレンさん……」
抱きとめられたクロースはグレンのたくましい腕に包まれ彼の胸に頭を置かれいた。クロースは頬は熱くなり赤くなる。グレンはクロースの顔を上から覗き込み優しく声をかける。
「大丈夫か? 寝てないんだろ? もう俺達に任せて戻って休んでな」
ツリーローダーが襲われた昨夜以降クロースは休憩なく夜通し行動しており疲労がたまっている。グレンは後を自分達に任せ無理せずに休むように彼女に促す。
「うふふ。お優しいんですね…… でも大丈夫です」
頬を赤くしたままクロースはグレンに優しくほほ笑み彼の腕を優しく外して自分の足で立とうとする。グレンはクロースの傍らに立ち心配そうに見つめていた。一人で立った彼女にグレンはまた声をかける。
「本当に大丈夫か?」
「はい。これをいただきましたから」
クロースはグレンに答え服のポケットから小さな小瓶を取り出す。彼女の持った瓶には琥珀色の液体が入っている。
「それって…… ”ユーロンの力”か」
ユーロンの力とは滋養強壮ポーションの名前である。滋養強壮ポーションは傷や病を治す効果はないが、疲労を除去しスタミナを回復できる。ユーロンとは材料であるユーロンの木になる実のことだ。ユーロンの実は無尽蔵のスタミナで昼夜問わず、魔界と人間界を守り続けた神馬アーレータークの主食だったと言われている。
クロースは小瓶を開けて一気にユーロンの力を飲み干した。
「かーーーーーーーーー!!! まずい!!! やっぱこれだべ!!!!」
渋い顔をして叫び声をあげるクロースだった。
ちなみにユーロンの力はものすごく辛く苦くてまずい。これは成長途上の子供が誤って飲むと目が冴え夜眠れずに行動し続けてしまうため子供が飲めない味にされている。
スタミナが回復し元気になった、クロースはグレンに向かって両手を広げて自分を見せる。
「ほれ! これで大丈夫だべ…… はっ! しっ失礼しました……」
嬉しくて興奮し北国訛のまま喋り恥ずかしそうにするクロースだった。グレンは優しくほほ笑み彼女の頭にポンと手を置いた。
「よかった……」
「えっ…… もっもう…… やめてくださいまし……」
ポンポンと優しく頭を叩くグレンにクロースは頬を真っ赤にしていた。二人のやり取りを冷めた目でクレアとキティルが見つめていた。キティルとクレアを見てメルダはニヤニヤと笑って口を開く。
「あんたより向こうの方がライバル認定されているわね……」
「くっクロースちゃん…… 裏切り者!」
眉間にシワを寄せクロースを睨みつけるキティルだった。睨まれたクロースは驚いて声をあげる。
「なっなんですの? キティル…… わたくしはあなたに何か悪いこと」
「別に!!!」
腕を組んでそっぽを向くキティルに、クロースはなぜ自分が怒られているのかわからず混乱していた。メルダはクロースの前で笑って手を横に振った。
「いいのよ。たいしたことじゃないから気にしないで!」
「はっはぁ……」
「ぶぅぅぅぅ!!!」
「ほら! 行くわよ! グレン! クロースを見ててあげてね」
メルダはキティルの両肩を押して連れて行く。グレンはメルダに右手をあげて答えた。グレン達は再び歩き出すのだった。
農場から森へ入ってしばらくして道の先に木の脇にソーラとタワーが待っていた。二人の足元に手足の先と口元と腹のみ白い毛の黒い猫が居た。二人はグレン達に気づくと近づいてくる。猫はソーラが抱き抱えた
「あっ!」
「ナーン!!!」
クレアは猫を見て駆け出した。彼女はソーラに抱きかかえられた猫を見て優しく声をかける。
「ナーちゃん!」
「ナーン」
ソーラが連れて来た猫は猫妖精のナーだった。クレアに声をかけられたナーは鳴いて答える。クレアはナーを優しく撫でていると彼女の背後にレイナが近寄って来た。
「かっかわいい……」
「レイナさんも撫でますか?」
「えっ!? いいの?」
クレアは体を横に向けレイナに場所を譲った。レイナは確認するようにソーラの顔を見た。彼は静かにうなずいた。
「うん。喜ぶからお願い」
「わーい」
「ナーン…… ゴロゴロ」
喜んでレイナはナーを優しく撫でる。ナーは満足げに喉を鳴らしていた。
「ナーちゃんは猫妖精なんですよ」
「へぇ。君は優秀ですねぇ」
「ナーン!」
レイナの声にナーはちょっと得意げに鳴くのだった。三人の横でタワーにルドルフとグレンが近づいてきた。タワーにルドルフが尋ねる。
「ツリーローダーの状況はどうなっている?」
「はい。やっぱりグレゴリウスさんは護送されてしまいました」
すでにグレゴリウスがガーラム修道院へ移されたという。グレンはタワーの話を聞いてうなずいた。
「わかった。じゃあ…… 俺達はガーラム修道院へ……」
グレンの言葉にタワーはすぐに反応する。
「はっはい。後…… 急いだほうが良いです」
「どうした?」
「オッオリビアさんがグレゴリウスさんを護送する時に暴れたようで…… すぐに彼女を処刑するようです」
「なっなんだって? 義姉ちゃん! すぐに移動するぞ」
クレアはグレンの言葉にうなずいた。タワーは森に視線を向ける。
「猫の抜け道を使えば処刑会場の側に行けます」
「わかった。ルドルフ…… 行け! タワー! 案内を頼む」
「はい。付いて来てください」
タワーが森の奥を指してルドルフに声をかける。二人は森の中へと入っていきクロースが後に続く。話を聞いていたキティルが心配そうにつぶやく。
「オリビアちゃんが……」
「まったく…… 魔族に一番恨まれてるの自覚がなさすぎよ…… あんのバカさ!!」
「メルダ…… オリビアちゃんを助けて!」
横を向いてメルダの両手をつかみオリビアの救出を依頼するキティルだった。オリビアを助けてと言われたメルダは驚いた顔をした。
「えっ!? わかったわ…… あんたもエリィを助けるのよ!」
「うん。約束だよ。また五人…… 今度は六人で旅をするんだよ!」
「えぇ」
メルダは右手をあげてルドルフ達を追いかけて森へ中へと入って行った。
「ふふ…… まさかオリビアの救助を依頼されるなんてね……」
森を歩きながらメルダはほほ笑むのだった。魔族の仇敵である勇者オリビアを魔王の娘である自分が救出に向かう状況が変で面白かった。ただ、どこか彼女はこの状況に心地よさも感じていた。
「さて…… 俺達はガーラム修道院だな。グレゴリウスはどこにいる?」
ルドルフ達が森の中へ消えるとグレンが口を開きソーラに尋ねる。
「修道院の中央の塔に連れて行かれたみたい……」
「あぁ…… あいつは飛べないからな」
福音派はグレゴリウスを塔に監禁するようだ。話を聞いていたキティルが口を開く。
「えっエリィは? エリィはどこに?」
「えっと…… 聖堂に居るみたいだね。聖堂の守護はウォルフが担当している…… ただ……」
「なにかあったんですか?」
顔をしかめるソーラにキティルが問いかける。ソーラは少し間を開けて言いづらそうにして口を開く。
「うんとね…… エリィは福音派の聖女として振る舞っている。堂々と福音派の復権を宣言したみたいだよ」
「えっ…… そうですか……」
ソーラの言葉にキティルはうつむいて落ち込んでしまった。レイナが彼女の肩に手を置いてなぐさめる。グレンはクレアに顔を向けた。
「義姉ちゃん。どうする?」
「まずはグレゴリウスさんを救出します…… その後…… 聖堂を襲いウォルフとグルファーブルを排除して…… エリィさんを助けましょう……」
「わかった。ソーラ…… 案内してくれ」
「うん」
うなずいたソーラは先導し森の中へと入っていく。グレン達は彼に続くのだった。




