第318話 合流と非常な通達
明け方の森。農場から二十メートルほど浅い森に巨木がひっそりとたたずむ。根元にある土と根の隙間からタワー、クロース、マウラ、ラックスが順に出て来た。土と根の隙間は猫の抜け道の出口だ。ちなみに猫の抜け道は任意の場所につながり一瞬で移動できる。通り抜ける前に猫語で移動先を伝える必要がある。
外に出たマウラが目を輝かせて猫の抜け道を見つめた。
「すごい…… あっという間に村の外に…… これが使えたら材料集めはかどるわ。ふふふ」
「ねっ姉ちゃん!? 変なこと考えてないよな」
「大丈夫よ。ちょっとだけだから……」
マウラは猫の抜け道を使って薬の材料などを収集したいようだ。彼女の言葉を聞いていたタワーは彼女に向かって首を横に振った。
「ダメですよ。これは猫族の秘密通路ですからね。勝手に使うと猫にされちゃいますよ」
「ほら! ダメだよ! 姉ちゃん」
「うぅ…… そんな……」
しょんぼりとするマウラだったが彼女はすぐにハッとして顔をあげた。
「だったらそれなりのお金を払うわ!」
「あっあの…… 猫にお金を渡して喜ぶと思いますか?」
「あっ!? あうぅぅ……」
猫の抜け道の使用料金を払うというマウラにタワーは冷静に答える。マウラはまたしょんぼりとしてラックスは彼女の肩に手を置いて慰める。クロースは二人の横であきれて笑っていた。
クロースの背後から小さな影が近づいてきた。
「にゃーん」
「あら!? 猫さんですわ」
振り向いたクロースに猫が見える。近づいて来たのは農場の猫ロップルだった。タワーはロップルを見て静かにうなずきしゃがみ優しく撫でる。
「にゃーん」
タワーが撫で終わるとロップルは戻って歩き出し、途中で振り向いてタワーに向かって鳴いた。タワーは横を向いて三人に声をかける。
「僕の部下の迎えです。付いて行きましょう」
「はい」
クロースはタワーにうなずいた。マウラとラックスは歩くロップルを不思議な顔を見つめていた。四人はロップルに導かれて農場へと向かうのだった。
農場の客間にグレン達は滞在していた。居間にルドルフとグレンとソーラがおり二つの寝室にクレア、レイナとメルダ、キティルがそれぞれ寝ていた。居間は急遽運び込まれた三つの小さなベッドが並びルドルフとソーラが寝ていグレンはベッドにおらずソファに寝っ転がっている。ソファの足に転がる本が彼が本を読んでいる途中で寝てしまったことを物語っていた。
「皆さん! 起きてください」
「ふわっ!?」
カルロスの声がして目覚めたグレンがソファから転げ落ちそうになっていた。ソーラは体を起こし両手を上げている。ルドルフはすっと体を起こして扉へ開く。
「どうした?」
「はっはい。クロースさんという方がいらして……」
「わかった。グレン! ソーラ! 皆を起こしてくれ」
振り向いてルドルフが二人に指示をだした。グレンとソーラはクレア達が寝る寝室へと向かった。
「タワーさん達は食堂に通しておきますのでお使いください」
「すまんな……」
カルロスはルドルフにタワーたちを食堂に連れて行くことを告げ去っていた。クレア達を起こしたグレン達は急いで食堂へ向かうのだった。
グレン達が食堂に到着した。タワー、クロース、ラックス、マウラの四人は並んで食事をとっていた。逃げて疲れた彼らにカルロスが朝食を用意してくれたようだ。クレアは食事をするクロースの姿を見て安堵の
表情を浮かべ声をかける。
「クロースちゃん…… よかった」
「クレア…… ありがとう」
ほほ笑みクレアに答えるクロースだった。レイナはラックスとマウラに駆け寄って来た。
「マウラさんにラックスさん! 二人も無事だったんですね」
「レイナさん…… はい。おかげさまで」
無事な二人を見て嬉しそうに笑うレイナだった。ソーラはタワーの横へやってきて彼が食べる食事を覗き込む。食事はテーブルの中央に大きな皿に山盛りのパンがあり、各自の前の皿に目玉焼きと焼かれたベーコンに小さな皿にはサラダが置かれていた。
二ヤッとしたソーラはタワーのベーコンに手を伸ばす。
「課長! これ頂戴!」
「えっ!? えっと…… 後であなたの分も来ますよ…… あっ!」
「いいじゃん! あーん」
ベーコンをくれというソーラをタワーは断った。しかし、ソーラは素早く皿からかすめ取り口を開け上を向くソーラだった。
「ダメです。ちゃんと待ってください!」
「チェ!!」
立ち上がってタワーは素早く右手を出し、ベーコンを奪い返し口に運びソーラを叱った。ソーラは不服そうに口を尖らせるのだった。
「ふぅ。とりあえず座ろうぜ」
「そうだな。我々も食事をいただこうか」
グレンとルドルフの言葉で皆席に着いた。カルロスと家族が食事を運んで皆の前に置く。
朝食が終わりクレアはタワーに視線を向ける。
「タワーさん。町の状況とオリビアちゃん達の居場所を教えてください」
「はい」
うなずいたタワーがツリーローダーで収集した情報を皆に始めた。ツリーローダーは魔族に占拠され村人たちは家に閉じこもり廃墟のようになっていること。オリビアとグレゴリウスとウォルターは教会に閉じ込められているという。グレゴリウスのみは料理を作らされるため、すぐにガーラム修道院へと護送される予定だ。皆は真剣にタワーの話に耳を傾けていた。
「ウォルター…… クソ! すぐに助けに行くぞ!」
タワーの話が終わると拳を握って机をたたき悔しそうにしたルドルフだった。タワーは彼の言葉に大きくうなずいた。
「はい。すぐに動きましょう…… でもその前に…… ソーラさん」
「なんだい? 課長」
「結界は崩しておきました。すぐに猫達に情報を集めてもらってください」
「おぉ! 了解! すぐに情報を集めるね。後…… 猫の抜け道もを使ってガーラム修道院の情報も集めるね」
結界が崩れたと聞いてソーラはツリーローダーとガーラム修道院の情報を集めると告げた。タワーは彼に向かって静かにうなずく。
「お願いします……」
「おーい」
ソーラは振り向いて手をあげ誰かを呼んだ。すぐにロップルがソーラの足元へとやって来た。彼はロップルを抱き抱えて膝に乗せた。
「ニャーオ、ニャニャニャ! ニャーオ」
「ニャ! ニャニャニャ?」
「もう…… ニャーオ!」
「ニャー!!!」
勢い良く返事をしたロップルはソーラの膝から飛び下りて食堂から出て行った。
「はぁ…… すぐ報酬を増額するんだから…… まぁ良いけど……」
立ち去るロップルの背中を見てぼやくソーラだった。
タワーはゆっくりとクレアとグレンに顔を向けた。彼は懐から書類をだし席を立って二人の元へ向かう。
「後…… 二人には…… これを」
書類を受け取ったグレンとクレアだった。内容を見て二人は大きくうなずいた。
「いつもの通りにですね……」
「あぁ。ならやりやすいぜ…… でも……」
「ダメですよ」
グレンは眉間にシワを寄せ顔をゆがめてクレアは彼の肩に手を置いて首を横に振った。
二人に渡された書類には福音派のウォルフ、グルファーブルに天使の涙を実行せよという指令が書いてあった。さらにグレンの顔を歪ませるもう一つの指令があった……
クレアは読み終わった書類をタワーへと返却する。慣れた様子でタワーはうなずいて書類を受け取る。この書類は後ほどタワーの手で消去される。
タワーが書類をしまうとクレアがツリーローダー周辺の地図をテーブルに広げ口を開く。
「今からでは護送の前に襲撃するには間に合わないでしょう」
「はい。もしかしたらもうガーラム修道院に護送されているかも知れません」
クレアの言葉にタワーが反応する。グレゴリウスはすでにガーラム修道院へ護送されている可能性がある。
「では、我々は二手に分かれます。グレゴリウスさんを救出する班とオリビアちゃんとウォルターさんを救出する班です」
広げられた地図に描かれている、ツリーローダーの村とガーラム修道院を交互にクレアは指した。




