第314話 テオドールからの援軍
深夜が迫る農場の馬房。毛布にくるまった壁を背に眠るグレン、彼の膝にはロップルが乗っている。両脇にはキティルとレイナが毛布にくるまり彼の肩を枕にしている。クレアはキティルの横で壁を背に毛布にくるまっている。
かすかにロップルの耳が横に揺れた。同時にグレンが目を開け視線を馬房の外へ向けた。馬房の外は灯りが消され真っ暗で、天井の穴から差し込んだ月明りがヘリから数十センチほどがわずかに見えるだけだった。
グレンは暗がりを見つめたまま、優しくキティルとレイナの頭をどかして口を開く。
「来たか…… なんだよ」
「もてるねぇ…… グレンは!」
現れたのはテオドール冒険者ギルド情報課のソーラだった。彼はキティルとレイナに挟まれ寝ているグレンを見てニヤニヤと笑ってからかって来る。グレンはソーラを見て鼻で笑った。
「そうだろう? ほら! 言葉の通じないのにお前より懐いているだろ」
「ニャー」
自分の膝の上で丸くなっている、ロップルを得意げに撫でるグレンだった。
「後でセントイリアンヌ川のよく釣れる場所を教えてもらうんだ」
「なっ!? なんだと…… ずるいぞ! 僕にも教えてよ」
目を見開いて自分を指すソーラだった。
「はははっ。冗談だよ。ほら!」
グレンは笑いロップルの尻を優しくポンポンと押した。彼女はグレンの膝から飛び下りてソーラの足元へ駆けていく。ソーラは不服そうに口を尖らせしゃがんでロップルの頭を撫でる。
そっとグレンはレイナとキティルを起こさないように立ち上がる。
「しっかし…… さっきまでテオドールに居たんだろ? 早いな……」
ロップルを撫でるソーラに声をかけるグレンだった。そうソーラは数時間前までテオドールにおり、ロップルから連絡を受け大陸の中ほどにある遠く離れた農場へとやって来たのだ。
「ふふふ。猫の抜け道はどこへ行くのも楽だよ。君達にも使わせてあげようか?」
グレンの顔見て得意げに答えるソーラだった。ソーラは特殊能力動物語翻訳で動物と話せる。猫の王様である猫妖精と交渉できる彼は猫が大陸移動に使う秘密の通路猫の抜け道の使用許可をもらっている。猫の抜け道は木の根元などにある転送装置のようなもので大陸中に一瞬で移動できる。
「いらねえ…… 移動時間でさぼれなくなるだろ」
「そうだね。僕も臨時の時しか使いたくないんだけど…… キーセン神父が急げってさ」
笑いながらグレンに答えたソーラ、彼の表情は急に真面目に変わった。
「後…… タワー課長も来てツリーローダーで動いているから!」
「あいつが…… なんかまずいことがあるのか?」
「うん。ツリーローダーとガーラム修道院にいる猫達からの連絡が取れないんだ…… 今までこんなことなかったのにな……」
猫たちから連絡が取れなくなったとりうソーラだった。不安を消すようにソーラはロップルを撫でる。グレンは真面目な表情で小さくうなずいた。
「そうか…… フォレストワールはどうだ?」
「あぁ…… それがちょっとこっちもまずいんだ…… 今からみんなに話すからクレアを起こしてくれるかい」
「わかった」
返事をしたグレンはクレアをゆすって起こす。クレアはすぐに目を開けグレンを見てほほ笑んだ。
「おはよう。グレン君? どうしたました?」
「ソーラが来た。話があるから部屋に行こう」
「わかりました。二人を起こしてください」
グレンはクレアにうなずいた。キティルとレイナを起こしてソーラと一緒に農場の部屋へと移動するのだった。
農場の部屋へと戻って来たグレン達、寝ていたメルダ、ジャスミン、ルドルフを起こしカルロスから食堂を拝借して集合した。
テーブルにグレン、クレア、レイナ、ジャスミン、向かいにキティル、メルダ、ルドルフが座る。テーブルの前にはソーラが立っていた。彼は初対面のレイナを見て自己紹介をする。
「えっと…… あなたがレイナさんだね。僕はソーラ。グレン達の同僚だよ」
「レイナです。いつもグレン君がお世話になっています」
「ははっ。お姉さんはグレンと違って丁寧な人だね」
「うるせえ。さっさと始めろ」
「グレン君! こら! お友達に失礼なこと言わないの!」
レイナに注意をされ首を横に振るグレンにソーラはニヤニヤと笑っていた。
「現在ツリーローダーは福音派によって門は全部閉鎖され外部との接触はできない状態なんだ」
「あいつら……」
拳を握ってグレンは悔しそうにつぶやく。ソーラは話を続ける。
「ツリーローダーに異変の連絡はそろそろディープスグランに到着すると思う。明日には深層の大森林は大騒ぎだろうね」
「でしょうね…… オフィーリア様はどうするつもりでしょう」
話を聞いていたクレアがソーラに尋ねる。ソーラはクレアの質問に難しい表情をした。
「うーん…… それがね。さっきガーラム修道院のグルファーブルからオフィーリア様へ通達が来たんだ」
「通達ですか?」
「うん。ツリーローダーが魔族に占拠された。福音派は魔族駆逐の為に明日ガーラム修道院から討伐隊を派遣するってさ」
ソーラによると福音派は魔族を討伐部隊をツリーローダーへ派遣するという。話を聞いたルドルフが眉間にしわを寄せソーラに怒鳴る。
「なっ!? 自分達で占拠したんだろうが!!!」
「うわ!?」
机をたたいて悔しそうにするルドルフにソーラは驚いていた。
「僕に怒らないでよ……」
「すっすまん……」
ハッとしてルドルフは気まずそうに謝っていた。レイナは笑って彼の背中を優しく撫でていた。ルドルフは撫でられ顔を真っ赤にするのだった。
顎に手を置いて難しい顔でグレンは横を向いてクレアに口を開く。
「クレア義姉ちゃん…… どういうことだ?」
腕を組んでクレアは少し考えてから口を開く。
「うーん。後二日で聖者の復活日ですよね」
「それがなにか?」
首をかしげるグレンにクレアは話を続ける。
「彼らの目的は聖者の復活日に聖女を降臨させ…… 主流派へ返り咲くこと…… ならツリーローダーを解放する意味は……」
「あぁ。そいうことか」
クレアの言葉にグレンが大きくうなずいた。向かいに座るキティルは首をかしげ横にいるメルダに確認する。
「どういうこと? メルダ? 分かる?」
「自作自演ってことよ。聖女が魔族からツリーローダーを解放することでまだ何者でもない聖女を一気に救世主にするつもりなのよ」
「えぇ!?」
福音派は魔族を使いツリーローダーを占拠し、聖女に解放させることで彼女を救世主として宣伝するつもりなのだ。
「オフィーリア達が魔族を倒して人心をつかんだから…… 自分達もってこと…… 胸糞が悪いわ」
悔しそうにつぶやくメルダを心配そうに見つめるキティルだった。
「オリビア達の消息はわからないのか?」
「うん。さっきも言ったけど…… 猫との連絡が取れないんだ。多分…… まだツリーローダーにいると思う。今タワー課長が潜入して探っている。もう少しでここに来るよ」
ルドルフがイライラした様子で腕を組んで口を開く。
「グレン! クレア! あいつらより先に乗り込んで村を解放するぞ」
「そうよ! あいつらの思い通りにしてたまるもんですか!」
メルダがルドルフに続いた。クレアは冷静な表情で首の横に振った。
「ダメです。敵の数も村人の状況が分からないのに突撃するのは無謀です。まずはタワーさんを待ちましょう。いいですね!」
「わっわかった」
「ふん。しょうがないわね」
クレアの言葉にグレンはうなずいた。ソーラとキティルとレイナは小さくうなずく。ルドルフとメルダの二人は不服そうに渋々と了承するのだった。




