第313話 ニャーと鳴く情報屋
農場にある巨大な厩舎。中には作業の助けるための馬と牛が飼育されている。キメラの襲撃により屋根が崩れ月明りが差し込み床を照らしていた。
クレア、グレン、カルロス、レイナ、キティル、メルダの六人が厩舎へと入り馬房の前へとやって来た。空の馬房の隅で月灯りに照らされた前足と顔の下まで白で、他が茶色の猫が崩れた屋根から空を見上げていた。
「なんか悲しそうですね……」
猫を見たクレアが横を向きカルロスに口を開いた。カルロスは猫を見て悲し気に眉を下げた。
「仲の良かった馬がキメラの襲撃で死んでしまって…… きっと…… 見送っているんだと思います」
「そうですか。賢い猫さんですね…… お名前は?」
「ロップルと言います。雌猫です」
クレアは小さくうなずくとロップルがたたずんでいる馬房へと入った。ロップルとやや距離を取ってしゃがんだクレアは彼女を呼ぶ。
「ロップルちゃーん」
「ニャー!!」
横を向いてロップルはクレアを見た。首を傾げた後にロップルはクレアの元へと駆けて来て彼女の前で止まった。クレアは下からそっとロップルに手を伸ばし、首から顎のあたりを優しく撫でる。ロップルはクレアを見つめながら彼女を手を受け入れ撫でさせる。
「よしよし…… 良い子ですね」
撫でながらロップルに笑顔で声をかけるクレアだった。ロップルは撫でられながら目を細め喉をゴロゴロと鳴らしている。馬房の外でクレアを見て優しくほほ笑むグレン、彼の横でなぜかレイナが不満げに頬を膨らませた。彼女は隣にいるグレンの腕をつかんだ。グレンは驚きレイナは頬を膨らませたまま口を開く。
「ずるい! 私も撫でたい!!!」
「あのなぁ。俺達は仕事で来たんだぞ」
猫を撫でたいとわがままを言うレイナにあきれるグレンだった。グレンの態度にレイナはムッとして口を尖らせる。
「なっなによ! クレアちゃんばっかりずるい! 撫でたい! 撫でたい!」
「あぁ。もうわかったよ。クレア義姉ちゃん。触らしてやってくれ」
子供のようにわがままをいう姉にあきれながらも彼女の要望に応えるグレンだった。
「はーい。じゃあこっちに来てください。静かにですよ」
「わーい。ありがとう。クレアちゃん」
嬉しそうに声をあげてレイナは馬房の中へと入っていくのだった。グレンの後ろに立っていたメルダが吹き出した。
「ぷっ! 本当…… クレアにそっくり…… あんたわかりやすいシスコンね……」
「うっうるせえ!!」
顔を真っ赤にするグレンにメルダはニヤニヤと笑っていた。キティルはクレアと並んで猫を撫でるレイナを見て苦い顔をしていた。ハッと何かを思いついた彼女は笑顔でグレンに近づいた。
「そうですよ。わがままばっかり言う姉より。従順な妹のような存在の方が良いですよね?」
キティルはグレンの横に立って彼の腕をつかんで顔を覗き込んで首をかしげた。潤んだ瞳でグレンをまっすぐに見つめるキティルだった。
「えっ!? いや…… 別に…… 俺は…… 特に気にして……」
「チッ!」
「うん!? どうしたキティル? なにか俺は悪いことしたか……」
「いえ! なっなんでもありません」
舌打ちをして不機嫌そうにグレンの腕を離すキティルだった。いきなり不機嫌になったキティルを心配そうに見つめるグレンだった。メルダは吹き出し笑いそうになるのを必死に耐えるのだった。
「グレンくーん! 来てください! 大丈夫そうですよ」
「あぁ。わかった」
クレアに呼ばれてグレンも馬房の中へと入って行った。
「もう少しあいつ好みの女にならないとあんた勝ち目ないわね」
「ふん!」
「ふふっ! ほら! あたした達もいくわよ」
腕を組んで不満げにそっぽを向くキティルだった。メルダはキティルの態度を見て笑い彼女の手をつかんで馬房の中へと引っ張っていくのだった。
「まずはテオドールにツリーローダーが占拠されたと伝えてください」
「にゃーん……」
手をゆっくりとロップルからはなしクレアは彼女にゆっくりと話しかける。ロップルが一回だけ小さく鳴いて返事をした。ゆっくりと歩いてロップルは天井に開いた穴の真下へとやって来た。
差し込んだ月灯りが円形に照らされたロップルの毛が輝く。手入れされた毛並みが彼女が愛されていることを示している。
「ニャーーーーーーーーーーーーオ! ニャーーーーーーーーーーーーーーオ!」
空に向かって鳴くロップルだった。彼女の鳴き声は農場を越えて遠くへと響いていく。鳴くロップルの横でレイナは首をかしげグレンの袖を引っ張った。
「ねぇ。あの猫さんはなんなの? グレン君」
「うん!? あぁ。こいつらは冒険者ギルドのパートナーなんだ」
「えっ!?」
グレンはにっこりと微笑みレイナに向かって口を開く。
「動物と喋れるソーラってやつが大陸中の猫と情報網を作っているんだよ。俺達は猫を通じてテオドールと連絡が取れるんだ」
「あぁ! だからクレアちゃんは猫を…… 良いなぁ。私も猫さんと喋りたい」
ソーラの話を聞いたレイナはうらやましそうにロップルを見つめていた。鳴き終わったロップルはクレアの元に駆け寄り彼女に向かって鳴いた。
「にゃー!!!」
「ありがとうございます」
撫でられるロップルはどこか得意げに見えた。ロップルを撫でるクレアにキティルが声をかける。
「クレアさん。オリビアちゃん達がどうしているか…… わかりませんか?」
「そうですね……」
クレアはうなずいてロップルに視線を向け口を開く。
「ツリーローダーにいるオリビアちゃん、クロースちゃん、グレゴリウスちゃんの様子を確認出来ますか?」
「ニャー!!!」
威勢よく返事をしたロップルはまた天井の穴の下に移動し顔を上に向けた。
「ニャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーオ!!!!!! ニャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーオ!!!!」
鳴き終わるとロップルはクレアの元へ戻って来る。クレアは撫でながら鞄に手を入れて小さな包みをとりだした。クレアが取り出した包を開ける。中には茹でた鶏肉が入っている。これはロップルへと報酬になる。
「はい。ありがとうね」
「パクパク…… にゃーーーー!!!」
「えっもっとですか? どうしよう?」
振り向いてグレンに助けを求めるクレアだった。グレンがポケットに手を突っ込んで何かを取り出した。彼の手に小さな袋が握られている。袋の中に指を突っ込むグレン、引き出した彼の指に月菜っ葉がつままれている。彼は月菜っ葉を手に乗せロップルに突き出した。
「はいはい。ほらよ。これは酢漬けじゃなく生だからな」
「にゃーーー!!」
グレンの手の上に乗っている月菜っ葉を舐めとるロップルだった。
「ニャアア!!!」
眉間にしわを寄せ鳴くロップルだった。クレアはロップルを見てグレンに顔を向けた。
「不満みたいですね」
「わがままだな。我慢しろよ。後でソーラに言っとくからよ」
「ニャアアア……」
ロップルはしょんぼりとして不服そうに、グレンの手に乗った月菜っ葉を食べるのだった。月菜っ葉を食べたロップルは厩舎に置かれた藁の上に横になり目をつむった。
「これでしばらくしたら情報が入ってくるだろう……」
「えぇ…… じゃあ私がロップルちゃんとここに残りますね…… 皆さんは部屋に戻っていいですよ」
クレアはロップルの側に座り優しく彼女の体を撫でていた。クレアの隣にグレンも腰かけた。
「グレン君……」
「俺も居るよ。気になるしな……」
「じゃあ! 私も!」
「わっ私も!」
レイナに続いてキティルも残るといって馬房に腰かける。
「私は…… 戻るわ…… ふわああ!」
「では私も戻ります。何かあれば母屋に居ますので呼んでください」
「ありがとうございます」
メルダはあくびをして部屋へと戻る。カルロスもクレアに声をかけ馬房から出て行った。




