第312話 いきなりの訪問者
ツリーローダーの近郊にある農場では祝宴が終わりを迎えようとしていた。
テーブルの上に並んだ皿の上に乗った料理は残り少なく。皿へと伸びる手は止まり歓談は途切れ周囲に静寂が訪れることが多くなっていった。
ただ一人を除いてだが……
「おかわりをお願いします!」
空になった皿を自分とグレンの間に積み上げられた皿の上に乗せるクレアだった。すぐに笑顔でカルロスが追加の皿を持ってやって来る。
「どうぞ!」
「ありがとうございます」
カルロスが厚切りのステーキが乗った皿をクレアの前に置いた。礼を言ったクレアはナイフとフォークを使って肉を切って口に運んだ。
「美味しいです…… もぐもぐ」
口いっぱいに肉を頬張るクレアを笑顔で見つめるグレンだった。ちなみに二人はまだ一緒の椅子に半分ずつ腰かけ座っていた。
「ふふ。よく食うな」
「えへへ。これ美味しいですよ。はい!」
「あぁ。うまい……」
「よかった」
横を向いたクレアは切った肉をフォークに乗せグレンの口元に差し出した。当たり前のようにグレンは口を開ける。クレアはグレンの口に肉を運んだ。
「ふふふ」
二人の様子をにこやかに眺めるレイナの横でどす黒い感情のようなオーラが渦巻きオーラの横でメルダがめんどくさそうに渋い顔をしていた。
さらに肉を頬張るクレアの口元にごく小さな肉がついていた。
「もう…… 肉のカスがついてるぞ」
グレンはクレアの口元に手を伸ばし小さな肉をつまむと自分の口に運ぶ。クレアに指摘したグレンだったが、彼の口元にも彼女と同じように肉がついていた。
「あっありがとう…… グレン君もですよ」
「えっ!?」
にっこり微笑みクレアは手を伸ばし、優しくグレンの口元についていた肉のカスをつまんで自分の口へ運ぶ。
「パク! ふふふ。一緒ですね」
「あぁ」
互いに顔を見合わせて優しくほほ笑むグレンとクレアだった。レイナは小刻みにうなずき優しく見守っている。彼女の横で肘をついて不満げな顔をして言葉を吐き捨てるキティルだった。
「なにあれ…… チッ!」
「はいはい。負け戦にこだわると大怪我をするわよ。あたしたちみたいね。さっさと諦めて前向きなさい」
「まっまだ! 負けてないもん!」
メルダにたしなめられ口を尖らせ必死にまだ負けてないと言い張るキティルだった。肩をすぼめるメルダだった。彼女を見てキティルは肘をついてままグレン達から目をそむけた。
「だいたいクレアさん…… 何もしてないじゃん…… なんであんなに楽しそうに…… しかもグレンさんと一緒に座って……」
「はぁ…… こりゃあ勝てないわ」
「べえええ!!!」
ぶつくさとクレアに文句をつぶやくキティルを見てメルダはあきれていた。キティルはメルダを見て舌を出し不満そうに腕を組んでそっぽを向いたのだった。
クレアが肉を平らげるとカルロスが周囲を見て立ち上がった。
「そろそろお開きとしましょうか」
カルロスが皆に声をかけた。グレンは首を横に振った。
「もう十分食ったろ? あきらめろ」
「わかってます!」
寂し気に皿を見つめるクレアを見てあきれた顔をするグレンだった。クレアは口を尖らせは不満げに答えるのだった。
直後に激しい音がして何かが上空から落ちて来た。宴会場の中央にあった火が消された焚火の上に巨大な物体が落ちて灰が舞い上がって真っ白な煙に包まれている。
「クレア義姉ちゃん」
「うん」
グレンとクレアは立ち上がりテーブルを乗り越えて前に出た。
「キティル! メルダ! みんなを頼む」
「はっはい!」
腰にさした剣に手をかけたグレンは振り向いてキティル達に指示をだした。ゆっくりと煙が晴れていく煙の先から魔導ゴンドラの船首が覗いている。さらに白い煙の向こうにゴンドラの上にオールを持った人の影が見える。
「ジャスミンさん」
「はっはい」
クレアが影に声をかけると返事をした。ゴンドラにはジャスミンが乗っていた。グレンはホッと安堵の表情を浮かべ剣から手を離した。
「みんな! すまない。魔導ゴンドラだ」
振り向いてグレンが皆に声をかけた。さらに煙が生えジャスミンの前に誰かが、座っているのがグレンに見える。
「ルドルフ…… なにがあったのか?」
魔導ゴンドラにルドルフが座っていた。グレンは二人にツリーローダーで何が起こったのか尋ねる。二人は怪我をしているのか服や鎧には血がつきさらにジャスミンが持つオールにも血がべっとりと付着していた。二人の姿からツリーローダーで何かが起こったことが容易に想像できた。
「福音派が蜂起した…… ツリーローダーは奴らに占領された」
「なっなに!? オリビア達は?」
眉間にしわを寄せたルドルフが答える。周囲が騒然としていた。クレアは右手を彼の前にだして制した。
「グレン君…… 話は後です。先に二人の治療を……」
「あぁ。そうだな。レイナ姉ちゃん! 手伝ってくれ」
振り向いてグレンはレイナを呼ぶのだった。グレン達はルドルフとジャスミンの治療を始めた。
一時間ほど後。大きな傷がなかった二人の治療はすぐに終わり、農場の居間にグレン達は食堂に集まっていた。農場には従業員や客や食事をとるようの食堂があり四人がけテーブルが並んでいる。
グレン、クレア、ジャスミン、ルドルフが同じテーブルに座り隣にはキティル、メルダ、レイナ、カルロスが座っている。
「ご協力に感謝します」
「いえ…… 我々にも重要なことですから……」
席に着いて話を始める前にクレアがカルロスに声をかけた。カルロスは右手をあげ答える。
「それで…… 何があったのか教えてください」
「あぁ……」
クレアに促されてルドルフがツリーローダーで起きたことを話しだした。食事のために屋台に訪れた福音派の信者たちが魔族に変わったこと、彼らがツリーローダーを襲い占領したことをグレン達に説明する。
皆、真剣な表情でルドルフの話を聞いていた。
「なるほどな…… 魔族に姿を……」
話を聞いていたキティルがメルダに顔を向け口を開く。
「ねぇ? メルダはわからなかったの? ツリーローダーに福音派の人たちはいっぱい居たでしょ?」
「えっ!? 気づかなかったわ…… なにか私の目を妨げるものを身に着けてたのかしら……」
キティルはガイルの母親が魔族であると見抜いたメルダが、ツリーローダーの信者たちの変装を見抜けなかったのが不思議でたずねた。メルダは首をかしげて悔しそうにしていた。
「魔族は各ギルドや教会を一斉に襲ったでござる。不意をつかれた町はそう崩れでござった。拙者は助けに来てくれたルドルフ殿と協力して逃げ出したでござる」
ルドルフに続いてジャスミンが話を始めた。食事を終えた魔族たちは少人数のグループに別れて村の核施設を同時に襲撃したという。
「逃げのびた冒険者とギルドの職員はフォレストワールへ向かうように指示した。我々は君達に知らせるためにここへ飛んで来たのだ」
二人の話が終わった。メルダとキティルとレイナはうつむき深刻な表情を浮かべていた。クレアは顎に手を置いたまま考え込んでいた。少しして彼女は顎に手を置いたままつぶやく。
「しかし…… ウォルフはなぜ屋台に…… ツリーローダーを占拠するだけなら屋台に行く必要はないはず」
視線をクレアに向けたルドルフが彼女のつぶやきに反応する。
「グレゴリウスだ…… 明日の復活日に使う料理を彼に作らせるつもりだ」
「そうですか…… 確かに彼の料理の腕は一流ですからね」
ルドルフの言葉にクレアは小さくうなずいた。
「クレア義姉ちゃん…… どうする?」
「まずはオリビアちゃん達の安否を確認する必要があります。カルロスさん! こちらの農場に猫さんはいますか?」
「へっ!? 猫…… はい! 倉庫にネズミ退治用に猫が……」
「わかりました。後で会わせてください」
ほほ笑んでうなずくクレアだった。猫に合わせろと言われたカルロスは、意味がわからずに首をかしげるのだった。




