第310話 押しかけ義姉
キメラを討伐したグレン達は農場へと戻って来た。日は傾き夕刻が迫って来ていた。農場の入り口でカルロスが待っていて、街道を歩く四人にかけて来た。
「はぁはぁ…… お帰りなさい! さっきの魔物は?」
四人の前に来たカルロスが尋ねる。先頭を歩いてたキティルとメルダは顔を見合わせて笑った。
「問題ない。倒したわ」
「はい」
「おぉ! さすが皆さん! 信じておりました」
キメラの討伐を知ったカルロスはメルダの手をつかんで強く握り、すぐに隣のキティルにも同じように両手を握った。
「今日は我がカルロス農場にお泊りください! ささやかですがお礼にもてなしをさせてください」
「わーい! やったね。メルダ」
「えぇ!」
「うん。ねぇグレン君も来るでしょ?」
泊まってもてなしをさせてくれというカルロスに三人は喜んだ。レイナは横にいるグレンに顔を向けた。
「えっ!? いや…… 俺はすぐに帰るぞ。冒険者ギルドに報告をしないといけないからな……」
「そんなぁ……」
首を横に振ってグレンはもてなしの誘いを断った。残念そうにしょんぼりとするレイナだった。しかし、カルロスはすぐにグレンに笑顔を向け答える。
「大丈夫ですよ。冒険者ギルドにはわたくしどもから使いを出しますよ! 皆さまがここに滞在することは知らせます」
冒険者ギルドへの報告を代わりに行うというカルロスだった。彼の言葉にレイナの表情がぱあっと明るくなりグレンの腕をつかんで彼の顔を覗き込む。
「じゃあいいわね。グレン君!」
「でっでも…… 俺は……」
「なーに? もしかしてクレアちゃんがいないと寂しくて寝られないとか?」
「なっ!? 違うよ!!!」
にやにやと笑うレイナにグレンは顔を真っ赤にして叫んだ。キティルはムッとして振り向いてグレンに向かって口を開く。
「いいじゃないですか! 今日はここに泊まりましょうよ」
「キティルまで…… わっわかったよ……」
グレンは渋々宿泊することを了承した。なお、グレンはレイナの言う通りクレアが居ないと寂しくて眠りにつけない。世界でトップレベルに強いグレンではあるが、過去のトラウマで夜一人で寝ることはできないのだ。ちなみにクレアが出張で不在の時は彼女の匂いが付いた寝巻を抱いて寝ている。
「じゃあ夕食の準備が出来るまでこちらの部屋をご自由にお使いください」
「はーい!」
四人はカルロスに先導され、昼間滞在していた農場の客間へと連れて来られた。
「ふふふ…… 楽しみだねぇ」
「あぁ」
レイナは昼間滞在していた時と同じように、茶を淹れながらグレンに声をかけた。グレンは小さな声で力なく返事をするのだった。
グレン達は各自くつろいで過ごしていた。昼間と同じようにソファに足を投げ本を読んでいた、グレンはふと周囲を見渡してハッと目を大きく見開いた。
「あれ!? メルダは?」
「えっ!? 本当だ? どこ行ったんだろ?」
いつの間にかメルダの姿が見えななっており、グレンはキティルに尋ねた。キティルもグレンに言われ始めてメルダがいないことに気づき周囲を見渡す。直後に扉が勢い開かれメルダが姿を現した。
「ねえ! カルロスがお風呂を用意してくれたんですって! 夕食の前に入りましょう」
「本当? 行こう! レイナさんも!」
「うん! もちろん」
カルロスがグレン達のために風呂を用意してくれたようだ。メルダの話を聞いたキティルは嬉しそうに笑顔でレイナも一緒にと誘った。レイナは嬉しそうに笑ってうなずくのだった。
グレンは盛り上がる三人を静かに見つめていた。自分には関係ない話だと思った彼はメルダが戻って来たのを見て視線を本へと戻した。
「うん!?」
気配を感じて視線をまた上げたグレンだった。彼が横たわるソファの前にレイナが立っていた。にんまりと微笑んで彼女は首をかしげて弟の顔を覗き込んだ。
「グレン君も一緒に入る?」
「はぁ!? 無理に決まっているだろ」
「ちょっと! レイナ!」
一緒に入ろうというレイナにあきれた様子で断るグレンだった。慌てて顔を真っ赤にしてレイナに向かって叫ぶメルダだった。横のキティルは顔を真っ赤にしてうつむいていた。恥じらうメルダにレイナは不服そうに口を尖らせる。
「えぇ!? いいじゃん! グレン君と私は姉弟なんだし」
「だったらあんた達二人で入りなさいよ。わたしはこいつと姉弟じゃないわよ」
「そうだ! それに…… 二人でも俺が嫌だよ!」
「ぶぅぅぅぅ!」
レイナは口を尖らせ不服そうにグレンとメルダの二人を交互を睨むのだった。
「グレンさんと…… グレンさんと…… 一緒に…… お風呂…… 裸で」
「キティル! しっかりして!」
真っ赤な顔でぶつぶつとつぶやくキティルに、メルダは彼女の肩を掴んで声をかけていた。
「もう! ほら行くわよ! レイナ! グレンと一緒に入りたいなら私達の後で入ってね!」
「あっ! 待ってよー! 私も行くー!」
メルダはキティルの手を掴んで引っ張って風呂へ行った。レイナは慌てて二人を追いかけていった。
「ふぅ…… まったく…… なんだったんだ……」
閉まった扉を見てグレンは小さく息を吐く。本をまた読みだすグレンだった、先ほどまで騒がしかった客間は彼一人になり静寂に包まれたのだった。
しばらくして…… 風呂を終えたメルダ達三人は客間へと戻って来ていた。夕食の準備が出来たカルロスが客間へと訪れる。
「皆さん! 用意が出来ました! こちらへ」
カルロスに連れられ四人は建物の外へと出た。建物の前にテーブルがいくつも並べられ上には料理がいくつも乗っている。テーブルは中央には火を囲むように並べられ、火の上には丸やきにされた豚が見える。
テーブルにはたくさんの人が付いてグレン達を見ると歓声を拍手が上がる。カルロスの農場は大規模で従業員も多く三十人近い人が食卓を囲っている。ちなみに従業員のほとんどはカルロスの親族だ。
「おぉ…… これは」
「やったわね」
「わああああああああああ!!! すごい。見てグレン君! お料理いっぱいだよ」
テーブルの料理を見たキティル、メルダ、レイナが声をあげていた。グレン達はカルロスに案内され席に着く。テーブルを見渡せる正面の上座に四人は並んで座る。メルダ、キティル、レイナの順で座り最後にグレンが席に着こうと椅子を引いた。
「うん!? 誰か…… 来る……」
「どうしたの?」
席に着こうとしたグレンが空を見上げた。何かが近づく気配を感じたようだ。グレンの様子に心配そうにレイナが彼を見上げていた。
「わっ!?」
音がして空から女性が一人下りて来て丸焼きにされた豚の前に着地した。グレンは下り立った彼女を見て声をあげる。
「クレア…… 義姉ちゃん……」
空から下りて来たのはクレアだった。彼女はグレンを見るとニコッとほほ笑みかけてきた。
「えへへ。来ちゃいました」
「来たって……」
テーブルの横をすり抜け座ろうとしたグレンの前に来て笑顔で話すクレアだった。レイナとメルダはクレアを見て笑い、キティルは目を細め冷めた目で睨みつけていた。
「うん…… だって」
恥ずかしそうに頬を赤くし上目遣いでグレンを見るクレアだった。彼女の目は輝き涙で潤みグレンが映っている。しかし、クレアは振り向いてすぐに並ぶテーブルを指した。
「グレン君だけこんな美味しいそうな料理を食べるのずるいです!!!」
「はぁ!? そんな理由かよ!」
クレアの回答に心底あきれたように叫び声をあげるグレンだった。彼は首を横に振って近くにいたカルロスに口を開く。
「はぁ…… カルロスさん! 彼女は俺の義姉なんだ。一緒に食事していいよな?」
「えっ!? えぇ。かまいませんよ。すぐに料理を増やしますね」
「ゆっくりで大丈夫だ」
料理を増やすと言うグレンは首を振った。彼は引いた椅子をクレアに向かって指した。
「ほら…… 座りな。俺は後で……」
グレンに促されてクレアは笑顔で座った。椅子に座ったクレアは横に移動しグレンに向かって椅子を指した。
「うん!?」
「こうすれば半分で座れますよ」
「あぁ。そうだな」
うなずいてグレンは椅子に腰かける。二人は椅子に半分ずつ座った。
二人が席につくと宴が始まった。クレアはグレンの前に置かれたサラダに手を伸ばしがっつく。レイナがクレアに顔を近づけ口を開く。
「クレアちゃん…… ありがとうね…… グレン君のこと心配で来てくれたんでしょう?」
「ふふふ。もぐもぐ」
レイナに笑顔を向けサラダを頬張るクレアをだった。レイナは口いっぱいに膨らませるクレアを笑顔で見つめていた。クレアの後ろでグレンは優しい目をしている。レイナの後ろのキティルだけ苦い顔をしていたのだった。




