第309話 聖女降臨
話は少し戻りグレンがレイナを追いかけ、ツリーローダーを出発した頃。
ガーラム修道院の大聖堂に二百人を超える、蛇十字が描かれた白いローブを身にまとった福音派の信者が集まっていた。奥にある祭壇の中央に蛇十字が描かれた、黒いローブを着たグルファーブルが立っていた。
祭壇の横では信者たちにウォルフが目を光らせている。彼の後ろには大きなパイプオルガンが設置され白いローブを着た演奏者が座っている。
ウォルフの元にガイルがやって来て耳打ちをする。
「そうか…… 餌に食いついたか……」
「はい……」
「あの道具屋は後で始末しておけ」
「はっ!」
ガイルが敬礼して返事をする。ウォルフな満足に笑みを浮かべ話を続ける。
「よろしい。それで結界の拡張は?」
「大丈夫です…… 村への配備は完了しています」
「うむ」
うなずいたウォルフは祭壇にいる、グルファーブルに体を向け膝をつき頭を下げた。
「猊下…… ご準備ができました」
顔をあげウォルフはグルファーブルに声をかけた。グルファーブルはウォルフを見て右手をあげ答えた。彼は一歩前に出た。
「さぁ! 始めましょう」
グルファーブルが信者に向かって声をかけた。すぐに立ち上がったウォルフは振り向いてパイプオルガンの前に座る演奏者の肩を叩いた。
荘厳なオルガンの音が聖堂に響き、信者たちはうつむき静かに祈りを捧げる。ウォルフはグルファーブルに頭を下げすぐに聖堂の扉の前へ移動する。ウォルフはすぐに大きな聖堂の扉が開く。日差しが差し込みウォルフの視界が白くなった。
「ディーア様……」
目が慣れた彼の視界には聖堂に外には、頭に真っ赤なローブを着たディーアが立っている姿が見える。彼女は頭に紫色の宝石が並ぶ黄金のティアラを被り、黄金の腕輪に首には赤い宝石を黄金のネックレスが下がっていた。上品な化粧と装飾品により、可愛らしく幼かったディーアは大人の女性へと変貌していた。
「お美しい……」
変貌したディーアに思わず声を上げるウォルフだった。ディーアは呆然とするウォルフを見てほほ笑む。彼女の瞳はうっすらと赤紫色に光っていた。
「ふふ。ご苦労様です。ウォルフ…… 行きましょう……」
「はっ!」
笑顔でディーアはウォルフに声をかけた。頬を赤くしたウォルフは背筋を伸ばし彼女に返事をした。ウォルフは体を横に向け道を開ける。ディーアは静かにうなずくと前に歩き出した。彼女はウォルフの横を通り聖堂の中へと入った。
聖堂の並ぶベンチの中央をゆっくりと歩くディーアの斜め後ろをウォルフが歩く。
二人の後を巨大な金色に輝く蛇十字を掲げる赤い服を着たシスターが続き。十字架を守るように彼女の後ろをハルバードを持った赤い服のシスター二人が歩いている。
「おぉ……」
「聖女様……」
歩くディーアに向かって信者たちが声をあげていた。ウォルフは信者たちに目を光らせている。ディーアは祭壇の前で止まった。
「さぁ! 聖女様…… こちらへ」
グルファーブルは横にそれて手で祭壇の中央を指した。ゆっくりとうなずいたディーアは祭壇へ上がり十字架とハルバードを持った三人のシスターも続く。ウォルフは振り向いて祭壇の下から周囲に目を配らせている。
ディーアが祭壇の中央に立った。グルファーブルは彼女の横に一歩下がって立って両手を広げた。
「親愛なる信徒たちへ。明日の聖者の復活日の前に聖女ディーア様が訪れた」
視線をディーアに向けグルファーブルは信者一人に一人に語りかけるように穏やかに話す。
「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」
信者たちから歓声が上がる。グルファーブルは満足そうにその様子を見てうなずいた。
「ディーア様…… 信徒たちがあなたのお言葉を待っています。どうか声をかけてください」
グルファーブルに促されたディーアは静かにうなずいた。彼女は前を向いて信者に向かって口を開く。
「信徒よ。妾はディーア! 福音をもたらす聖女としてアーリア様からの導きを受けた者である」
大きくしっかりとした口調で信徒に語り掛けるディーアだった。うっすらと紫に光っていたディーアの目ははっきりと強く光り出す。彼女は大きく両腕を広げさらに声を大きくしていく。
「今日…… 今の時より。聖者の復活を宣言する!!!!」
両手をあげディーアが声をあげた。力強いディーアの声が聖堂を吹き抜けていった。ディーアの目の光は強くなり信者たちを照らしいく。紫の光に照らされた信者たちは、ディーアの声に圧倒されているのが呆然と彼女を見つめていた。信者の様子を見てグルファーブルは満足げにほほ笑んでいる。
「そして……」
間を開けたディーアは信者たちを見渡しゆっくりと口を開いた。
「堕落者により汚された信心を取り戻す!!!! 汚れを払い世界に我らがアーリア様の真の信徒であることを証明するのだ」
両腕をあげ力強く福音派の復権を宣言するディーアだった。警戒をしていたウォルフも顔を横に向けディーアを見て力強くうなずいた。
「激しい堕落者の抵抗は目に見える。多くの穢れなき血が流れるだろう……」
静かな口調になったディーア、信者たちは黙って真剣に静かに彼女の言葉に耳を傾けていた。
「だが、これは女神アーリアに捧げる聖戦である。アーリアの子らよ。恐れるな! 信じた道を進むのだ!!!!!!」
ディーアは力強く右手の拳を握って天へと突き出した。信者たちは彼女の姿を見て目をか輝かせた。
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」
信者たちは一斉にディーアと同じように拳を天へと突きあげ声をあげた。その後拍手と歓声が聖堂を包み込んでいく。
グルファーブルは盛り上がる聖堂を見て笑って拍手をする。ゆっくりと歩いて彼は壇上の前にウォルフの背後に近づく。気配に気づいたウォルフは振り向いた。目が合うと二人はほほ笑んだ。
「さすが聖女様…… 素晴らしいです」
「えぇ…… 彼女こそ我らの救世主です。それで……」
会話の途中で真顔になったグルファーブルは、しゃがみウォルフの耳元に顔を近づけささやく。
「てはずは出来てますよね……」
「はい。先行部隊に異常はありません。この後…… 私が合流します」
「よろしい…… 堕落者は地獄の業火に焼かれるでしょう」
笑顔でうなずいたグルファーブルは立ち上がった。聖堂はまだ熱気に包まれていた。
「「「「「聖女さまああああああああああああああああ!!!!!!」」」」」
信者たちはディーアに向かって声をあげている。ディーアは信者たちに答え手を振っていた。グルファーブルはハッとしてすぐにまたしゃがんでウォルフに顔を向けた。
「おっと…… まず私の元へ連れてきなさい」
「猊下…… わかりました」
「頼みますよ」
あきれた顔をするウォルフにグルファーブルははにかんだ笑顔をするのだった。
聖堂にディーアが現れた日の夕刻のツリーローダーの教会の前。
大きな扉の前にウォルターとルドルフの二人が立ち待っていた。二人はグレゴリウスの屋台で夕食を取る福音派を監視するために教会で待機していた。通りの向こうから一人教会に向かって来るのが見える。
「あれは……」
「ウォルフさん?」
教会に近づいて来たのはウォルフだった。ウォルターが頭を下げ彼に声をかけた。ウォルフはウォルターに右手をあげ答えた。
「今日は…… ご一緒でしたっけ?」
「あぁ…… 猊下から指示があってな。屋台の店主に用があるので同席させてもらう」
「そうですか。じゃあ一緒に行くんですね」
ウォルターに答えるウォルフだった。ウォルターは納得したようにうなずいて笑っていた。ルドルフはウォルターを静かに見つめていた。




