第305話 光を消す雲
炎は勢いを増してキメラへと迫ってく。真っ赤に染まったキメラの獅子の顔は炎を見つめ眉間にしわを寄せた。
「ガウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
吠えながら前に出たキメラは迫って来た炎と壁の隙間をすり抜け飛び下りた。鬣を炎に焦がされながら壁を下って地面へと下りていった。
キメラが動き出す前に素早く走り出したメルダは壁際へ移動していた。しゃがんだ彼女は矢をつがえて弓を構えた。壁からキメラが着地する。キメラの獅子の頭の鬣の先端が焦げ黒くなっていた。
「良い姿になったじゃない!」
キメラが着地する同時にメルダが矢を放った。矢はキメラの体へと向かって鋭く向かって行く。
「メエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!!!!!!」
矢に反応しキメラの山羊の頭が目を光らせ声をあげた。頭を下げ角を向かって来る矢に向けた。矢は直後にキメラへと届いた。しかし、山羊の頭の前で矢は止まって地面へと落ちた。サンダーシールドの透明の六角形の青白い光の壁が見える。
「効かないか…… でも良いの。これが今の私の役目だからね」
光の壁に阻まれ地面へと落ちた矢を見てメルダは笑った。彼女は再度矢をつがえて弓を構えた。矢が放たれ光の壁に当たって落ちる。メルダは素早くを放ち続ける。獅子の頭が眉間にしわを寄せメルダを睨みつけた。
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
正面からキティルが召喚した炎の魔人が迫って来た。炎の魔人は両手を伸ばしキメラの獅子の頭につかみかかった。炎の魔人は鬣をつかんでひねり倒そうとするがキメラは踏ん張っている。
「ウガガガガガガガガガガアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
顔をきつくし炎の魔人は両手に力を込めた、炎の魔人の両足が硬い地面にめり込み小刻みに体が震える。踏ん張っていたキメラの体が徐々に浮かび上がっていく。
「メエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!」
「シャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
炎の魔人の右手側に居た山羊の頭が天に向かって吠えとると、天井に小さな雷雲が現れから稲妻が落ちて来た。
「ウガアアアアア!!!」
稲妻が炎の魔人のせ中に直撃し声をあげる。さらに左手側から尾っぽの蛇が肩に噛みついた。苦痛に顔をゆがめる炎の魔人だった。噛みついいた蛇の牙の脇から血が溢れるように地面へと垂れていく。
「ウグググググ!! うがあああああああああああああ!!!」
鬣から右手をはなし炎の魔人は蛇の首をつかんだ。強引に上から蛇の頭をわしづかみにし炎の魔人は左右から顎を締め付けるようにして引きはがす。炎の魔人は引きはがされた蛇を投げ捨てるように手からはなした。炎の魔人は蛇を投げ捨てると拳を握った。
「メエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!」
右手に握った拳を横へ振り抜き、炎の魔人は山羊の頭を殴りつけた。激しい衝突音が聞こえ山羊が悲鳴をあげた。
「ガウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「ウガアア!!!」
キメラは前に出た獅子が頭を下げ炎の魔人に体当たりした。獅子の頭が勢いよく炎の魔人の胸に激突する。激しい衝撃に炎の魔人は吹き飛ばされ尻もちをついて後ずさりする。砂埃が舞い上がり天井からの赤い光に照らされキラキラと光っている。
尻もちをついた炎の魔人は地面に手を付いて立ち上がった。
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
拳を強く握って天井に向かっ声をあげる炎の魔人、左手にはつかんだまま吹き飛ばされたキメラの鬣が二本ほど残り風になびいている。激しい怒りのこもった炎の魔人の叫び声が洞窟に響いていた。
「大丈夫なの? 押されてるわよ」
「平気ですよ。今の炎の魔人さんは力の源がありますから」
「えっ!?」
レイナが叫び声をあげる炎の魔人を見て心配になり、横にいるキティルに顔を向け口を開いた。キティルは冷静に天井を指さして笑っている。レイナは天井を向いて首をかしげていた。天井にはキティルが打ち上げた小さな太陽がサンサンと輝いていた。
「環境操作…… もうそこまで…… キティルはもうすっかりベテランの特殊能力者だな」
キティルとレイナの後方五メートルほどに立つ、グレンが天井を見ながらつぶやいた。炎の魔人は火が力の源であり太陽が近くにあれば傷は癒えて体力が落ちることはない。炎の魔人の左肩に開いた穴は徐々に塞がっていく。また、特殊能力深紅の炎使いを持つキティルの魔力も強くなる。
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
「メエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!」
声をあげキメラへと向かう炎の魔人、同時にキメラの山羊の目が青く光って天井へと伸びていった。驚いた様子で炎の魔人は立ち止まり天井へ視線を向けた。
「まぁ…… 相手はそうでるわな。どうする? 深紅の炎使いとその仲間たちは……」
青い光が当たった天井から真っ黒な雷雲が、もくもくと吹き出してあっという間に天井を黒い雲に覆われてしまった。キティルが出した小さな太陽は雲に隠され周囲は真っ暗になった。
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「ウギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
暗闇の向こうからキメラの獅子の鳴き声と炎の魔人の声が響く。太陽を隠したキメラが炎の魔人に襲いかかったようだ。
「もう…… えっ!?」
天井を覆う黒い雲の隙間に青白い光が見えた。雷雲から雷がキティル達に向かって落ちて来た。
「動かないでレイナさん!!」
「えっ!?」
キティルは杖の先を地面に付けた。直後にレイナとキティルの周囲の地面から炎を纏った、鉄格子が伸びて来て二人は覆われた。炎を守った鉄格子はキティルの魔法ファイアウォールだ。雷はファイアウォールにぶつかりかき消される。
「チッ! 太陽を隠す雲…… 邪魔ね」
メルダはキメラを警戒しながら壁際から離れキティルに向かって叫ぶ。
「キティル! あんたの炎で吹き飛ばしなさい」
「わかったわ」
返事をしたキティルが両腕を横に広げた。二人を覆っていたファイアウォールの天井から割れていき天井を覆う雲が覗く。
「えっ!? 雨……」
ファイアウォールが開かれた天井から、雲を見ていたレイナの頬にポツリと雨粒が落ちて来た。風も出てきてキティルのスカートがはためく、彼女は雨風にかまわずに右手に持った杖を天井の雲に向けた。
「ファイアボール!!」
キティルが叫ぶと炎の球が飛び出してうねりをあげて天井の雲へと向かって行った。メルダとキティルは火の魔法ファイアボールで天井の雲を焼き払うつもりだ。激しい音がしてファイアボールが爆発した。
「あっ!? あれ……」
ファイアボールを見ていたキティルが間の抜けた声をあげた。ファイアボールは雲に届き爆発したがすぐにおさまって雲は悠然と天井を覆っていた。
「雲に届く前に雨で弱らされているわね…… キティル!」
叫んだメルダは矢筒に手を伸ばし、矢を一本を取り出すとキティルに向かって投げた。矢は鉄格子の間をすり抜けてキティルの足元に突き刺さる。
「私が射るわ! 炎を矢に込めなさい」
「わかった」
キティルが右手に持った杖をわずかに上に動かす。矢が緑に光りキティルの前へと浮かび上がった。
「炎精霊よ。我が刃に猛きその力を宿せ!」
自分の前に浮かんだ矢の上にキティルは自分の杖をかざし横に動かす。矢は白く光り出し真っ赤な色に変わっていく。




