第304話 大蛇の正体
背後を指すグレンを呆然と見つめる三人だった。真っ先に我に返ったレイナがグレンに向かって口を開く。
「どういうことよ? グレン君!? 後ろに大蛇がいたってこと?」
「違うよ。みんなさっきのキティルだったんじゃねえかってこと」
「えっ!? わっ私!?」
自分を指さして驚くキティルだった。レイナは首をかしげて意味がわからずさらにグレンに尋ねる。
「大蛇は…… 私と同じようにキメラの尻尾を見間違えたってことですか」
「多分な。洞窟は入り口からここまで迷うような複雑な道じゃなかったろ。だったら大蛇とキメラが遭遇するはずだが争った形跡もない」
グレンの言葉にレイナとキティルは唖然としていた。横で話を聞いていたメルダが怒った顔をする。
「なによそれ! 大蛇じゃなくてキメラだっていうの…… 冒険者ギルドもいい加減ね」
ベイリーグランド洞窟に居る魔物は大蛇ではなくキメラだった。キメラの尻尾を見た者が大蛇が洞窟に居ると勘違いし討伐依頼を冒険者ギルドに出したのだ。
冒険者ギルドの情報精査の稚拙さに呆れた顔でグレンを見るメルダだった。グレンは彼女に平然と答える。
「しゃーない。暗い洞窟で尾っぽを見て大蛇だと思ったんだろ。ここはノウレッジじゃねえからな。調査も進まないんだよ」
開発が終わりかけのテオドール周辺と違い、まだまだ未開の地が多い深層の大森林では魔物調査が進んでいない。依頼書の魔物と実際の討伐対象が違うことは珍しくはない。その為魔物討伐情報があいまいな場合はランクを上げて掲示されていたりもする。
「ふん。そんなの職務怠慢の言い訳だわ! キティル! レイナ! 冒険者ギルドに割り増しで報酬を請求するわよ!」
「おい! メルダ!」
二人を炊きつけてようとするメルダを止めようとするグレンだった。メルダはきつい目をしてグレンの顔を覗き込む。
「大蛇とキメラじゃ討伐料金も適正ランクも違うでしょ。当たり前!」
「うっ……」
苦い顔をするグレンだった。キメラはノウレッジで発見された魔物の中で、中上位に位置する魔物であり討伐依頼を行う場合はB1ランクが適正である。今回の依頼は適正ランクがB2とされておりミスマッチしている。メルダの割り増し料金をもらうという主張は当然なのだ。
助けを求めるような目でグレンは視線をキティルへ向けた。
「そうですよね。大蛇とキメラじゃ依頼料を増やしてもらわないと!」
「キティルまで……」
グレンの視線に気づくことなく、キティルはメルダの主張に同意する。レイナは二人の言葉に大きくうなずいた。
「そうよね。それなら当然だよ! グレン君! 報酬を増やして!」
「レイナ姉ちゃん! もう……」
三人がグレンに向かって報酬を上げるように要求してきた。
「わかった。わかった。キメラ討伐の分金を増やせば良いんだろ?」
グレンは首を横に振ると、三人をなだめるように腕を曲げ両手を前に出し前後に動かす。
「やった!」
「三倍くらいにする? メルダちゃん!」
「いや四倍くらいで良いわよね」
報酬を四倍にしようという三人にグレンが声をあげる。
「キメラは七千ペルだ。それ以上は出ないぞ」
「「「えぇ!?」」」
三人が同時に不満げに声をあげた。レイナがグレンに向かって詰め寄る。
「なんでよ! 間違えたのはそっちじゃん!」
「そうか。報酬が気に入らないなら依頼から降りてもらっていいぞ。他に頼むからな」
「クっ……」
毅然とした態度でグレンは報酬が気に入らないなら仕事をキャンセルして良いと告げた。悔しそうにレイナは彼を睨むのだった。睨まれたグレンは首を横に振って疲れた表情をするのだった。
「ほら! 戻ってキメラを倒そうぜ」
来た道を指しグレンが三人に声をかけた。四人は来た道を戻ってキメラの討伐に向かうのだった。すぐに四人はキメラが居る洞窟の広い場所へと戻って来た。
歩きながらグレンはキティルに声をかける。
「さて…… どうする? キメラなら俺も参加しようか?」
「うーん…… 大丈夫です。任せてください。ただ…… 何かあったらグレンさんの判断で参加してください」
「わかった」
グレンはキティルに向かって笑顔でうなずく。顔を真っ赤にしてうつむくキティルだった。キメラが寝る岩の手前二十メートルほどでキティルは振り向いた。
「じゃあグレンさんはそこに! レイナさん。行きますよ」
「うっうん……」
キティルに呼ばれてレイナが前に出た。不安そうに彼女は後ろを向いて何度もチラチラとグレンを見る。レイナの様子を見たメルダが声をかける。
「大丈夫。何かあったら助けてくれるわよ。グレンが!」
「おい。冒険者には相互安全義務があるんだからな。違反すると排除だぞ」
依頼をこなす冒険者同士は助け合うというルールがある。ちなみにこのルールはグレンがダイアとレオンによって裏切られたことによって出来たルールである。
「相互安全義務は冒険者ギルドの職員にも適用されますよ。つまりグレンさんにも適用されるんです。だから大丈夫ですよ」
「そうなの!? じゃあグレン君! よろしくね! いざとなったらお姉ちゃんを助けてねぇ!」
目を輝かせてグレンに向かってレイナは手を振った。
冒険者ギルドにとって冒険者は財産だ。職員であるグレンには冒険者と同様に互いに助け合う義務が負わされ、場合によってその身を盾に冒険者を守らなければならない。
「えっ!? あっ!? 誰だ余計なこと教えたの……」
「クロースちゃんですよ。彼女は冒険者ギルドのルールの本を熟読してますよ」
「うっ…… クソ……」
悔しがるグレンだった。真面目なクロースはほとんどの冒険者が無視する、冒険者ギルドの細かいルールをきっちりと勉強していた。
「これで安心して行けるわね」
「うん。行こう!」
大きくうなずいたレイナはキティルとメルダと一緒にキメラへと向かって行く。キメラが寝る壁の五メートルほど前まで三人はやって来た。壁は天井から大小様々な段差があり、地上から五メートルほど高さの大きな段差にキメラが寝ていた。
三人はメルダ、キティル、レイナの順で横に並んだ。中央に立つキティルが横を向きメルダに声をかける。
「どうする?」
「まずは暗いわね…… キティル! 明るくしてあげて…… ついでにあの偉そうな鬣を燃やしてやりなさい」
「わかったわ」
周囲を見渡したメルダ、目は慣れて来たといえ薄暗く戦闘に向かない。彼女はまず周囲を照らすようにキティルに指示をだした。
指示を受けたキティルは杖を前に出して目をつむる。彼女が手に持つ杖の先端が赤く光り出す。
「炎の精霊よ! 天に輝く炎の力を我に授けよ! ラインジングリトルサン!」
キティルの杖の先端が激しく赤く光り出した。激しい光にメルダとレイナの顔を赤く照らす。メルダは顔を背けレイナは顔を手で覆う。
直後にキティルの杖の先端から直径一メートルほどの炎の球が勢いよく飛び出して行った。
「あっ熱い…… それに眩しい」
手で顔を覆いながらレイナがキティルが出した炎の球を見つめている。炎の球は強烈に光輝き離れた場所にいてもじりじりと熱さが伝わって来る。杖から放たれたのはただの炎の球ではなく小さな太陽だった。
薄暗かった洞窟内は太陽に照らされ真昼間のような明るさになった。
「ガウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
熱と光にされたされキメラは目を覚まし声をあげた。キティルはキメラを見てニヤリと笑う。
「まだ起きるのには早いですよ!」
キティルが杖の先端をキメラに向けた。太陽から巨大な炎が噴き出しうねりをあげキメラへと向かって行くのだった。




