第300話 農場を救え
上空を飛ぶキティルとメルダの目に、厩舎の前に二つの頭を持つ巨大な魔物が立っているのが映る。魔物は獅子の上半身に山羊の下半身を持ち尾が蛇で背中に蝙蝠のような巨大な翼をもっていた。魔物の足元には今日の食事だったであろう牛や馬の足や体が転がっている。
獅子と山羊の頭がキティルとメルダを睨みつけるように見つめていた。
「あっあれは…… キメラ……」
キティルがつぶやいた。厩舎の前に立つ魔物はキメラだ。獅子が強靭な肉体を駆使し、山羊は魔族の魔力を受け継ぎ蛇は毒を操り蝙蝠の翼で空を飛ぶ。いくつもの生物の特徴を合わせもつ強力な魔物だ。
「来るわよ! 準備をしなさい」
「へっへっ!?」
背負った弓に手を回しメルダがキティルに声をかける。慌てて杖を構えようとするキティルだった。キメラは地面を蹴って飛び上がった。
「ガウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
キメラのライオンの頭が鳴き声を上げながらキティルに迫って来る。彼女は両手で杖を持って
「はああああ!!! ファイボール!!!」
キティルの杖の先端から炎の球が飛び出した。うなりを上げたながら火の球はキメラへと向かって飛んで行く。
「ふぅ!!! ガウアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
息を吸い込んだキメラの獅子の頭は炎の球を吐き出した。キティルが放った火の球とキメラの火の玉がぶつかる。
「キャッ!!!」
「がうあ!!!」
衝撃と爆風がキメラとキティルを襲う。キティルに飛び掛かろうとしていたキメラの動きが止まり、地上へ落ちそうになるのを翼を動かし必死に耐えていた。腕を前にだし顔を覆うキティルの周囲に黒煙が立ち込めていた。
「今よ!!」
横からメルダが弓を構えて矢を放つ。連続で放たれた二本の矢がキメラへと向かって飛んで行く。
「メエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!!!!!!」
山羊の角が光り出して上空から青白い稲妻が落ちて来た。
「なっ!? 矢を雷で落とした……」
稲妻はメルダが放った二本の矢をへし折った。折れた二本の矢が力なく地面へと落ちて行った。キメラは翼をはためかすと薄くなった黒煙をかき分け再度キティルへと向かって飛んで行く。
「ガウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
薄い黒煙越しにキティルの目に口を開けた獅子の頭が見える。キティルは両手で持った杖を握る手に力を込める。彼女の杖が赤く光り出し炎の剣が伸びて行く。
「はっ!!!!」
「メエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!」
向かって来るキメラに向かって、横からキティルは杖から伸びた炎の剣で斬りつける。山羊が頭を横に出して角をキティルの炎の剣に向けてきた。大きな音が農場の空に響く。
「イギギギギギ!!!!!!」
「サンダーシールド……」
山羊の頭の前に透けた六角形の青白い光の壁が現れ、キティルの炎の剣を防いでいた。光の壁はサンダーシールドという雷の魔法で光の壁で敵の攻撃を防ぐ。
「はっ!!? しまった!」
「キシャアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
キティルの横から蛇の尻尾が彼女に食いつこうと口を開け迫って来ていた。蛇の口に生えた長い二本の長い牙が糸を引きながらキティルに迫って来る。
「キティル!!!」
叫んだメルダはとっさに弓を構え矢を放つ、彼女の目がわずかに紫に光っていた。間一髪矢はキティルに噛みつこう口を閉じようとしていた蛇の目の横をかすめた。
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
目を上を矢で斬られバランスを崩した蛇の頭がわずかに揺れた。キティルの頭をとらえようとしていた蛇の牙がそれていく。
「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
蛇の牙はキティルの右前腕をかすめた。キティルの服と装備を牙が切り裂き先端が彼女の皮膚と肉をえぐった。悲鳴を上げバランスを崩すキティルだった。
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
「クッ!」
バランスを崩したキティルに向かってキメラが前足を振り下す。鋭い獅子の爪が彼女の頸へと伸びていく。キティルは目をつむった…… 大きな人影がキティルとキメラへと一瞬で距離を詰めてきた
「ウギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
キメラの悲鳴が響き大きな音が響いた。体をくの字を曲げた状態でキメラは地面へと落ちていった。衝撃で地面から砂埃が舞いキメラの姿を隠す。
キティルがゆっくりと目をあけるとそこには……
「グっグレンさん……」
赤いオーラを纏って巨大化したグレンが、キティルの前で大剣を振り下ろした姿勢で立っていた。声をかけられたグレンは静かに大剣を下し振り向いてキティルに声をかける。
「無事か?」
「はっはい。ありがとうございます…… あっ!」
「チッ!」
キティルが地面を指してグレンが舌打ちをする。起き上がったキメラが走って逃げていった。
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
大きな泣き声が響き川に沿った道を駆けていきキメラは見えなくなった。追いかけようとグレンは大剣を強く握りしめた。
「あっ!?」
「おっと!」
声がして振り返ったグレン、キティルがふらついて倒れそうになっていた。グレンは慌てて左手を伸ばして彼女を捕まえた。
「ちょっとこっち来い」
「えっえぇ!? あぁ……」
キティルを引き寄せてしっかりと捕まえてグレンは地上へと下りて行く。力強く引き寄せられたキティルはグレンの胸に頭をつけるようになり、回された彼の左手に腰を抱えられた彼女は恥ずかしそうに顔を真っ赤になっていた。メルダはその様子を見てニヤニヤと笑っていた。
グレンは地上に着くと抱き寄せていた、キティルを優しく地面へと下ろした。キティルは名残惜しそうに先ほどまで頭をつけていたグレンの胸を見つめていた。
「どうした? 顔が赤いけど…… 怪我したか?」
「いえ! 元気です!」
「えぇ!? 本当? きっと心が……」
「メルダ!!」
グレンとキティルの会話に地上へ下りてきたメルダが割り込んできた。キティルは振り向いてメルダを睨みつけて叫んだ。キティルは腕を組んで不満げに口を尖らせた。
「まったく…… そういえば…… レイナさんは……」
「あぁ。あそこだ。首を突っ込まれると面倒だからな」
「えっ!? あれは…… ちょっとかわいそうです」
親指を立て背後を指すグレンだった。キティルは彼が指した方を見て顔をしかめる。
「もう…… グレン君! 嫌い!」
畑の上で腰を枝に巻き付かれた姿勢でレイナは浮かんでいた。足をばたつかせてレイナは不満げに口をとがらせるのだった。
メルダとキティルはレイナを見ると互いに顔を見合わせ苦笑いをしていた。
「逃げた方角って…… ベイリーグランド洞窟がある方だな……」
難しそうな顔でグレンはキメラが逃亡に使った、川に沿った道を見つめたつぶやく。キティルは彼のを顔を見て首をかしげた。
「どうしたんですか?」
「なんでもない。とりあえずは…… レイナ姉ちゃんを……」
グレンの言葉を鼻で笑うメルダだった。グレンは気まずく話を終わらせさっさとキメラを追うために礼なの拘束を解こうと振り向いた。
「体がしびれて…… クッ苦しい……」
「えっ!? キティル!!!」
メルダの声が声をあげた。隣に立っていたキティルが苦しみだして倒れたのだ。
「キティル! キティル!」
「うっううう……」
倒れたキティルを抱き抱えメルダが必死に彼女の名前を呼んでいる。キティルは青い顔でうめき声をあげる。彼女の右手からは血が流れ、血に青の液体が混じっていた。
「あれは…… まずいな! レイナ姉ちゃん!」
キティルを見たグレンは手を振って大声でレイナを呼ぶのだった。




