第30話 冒険者を守れ
メルダの数十センチ前に磨き上げられ神々しく光る、刀身が白い大剣が突き刺さっている。三人は呆然と突如現れた大剣を見つめていた。
大剣はキラーブルーをめがけて飛んで来たが、彼女は上から飛んでくる大剣をかわして背後に飛び五メートルほど離れたところで剣を下ろした姿勢で佇んでいた。
「気づかれましたね」
エリィ達三人の斜め後ろの空にグレンとクレアが浮かんでいた。地面に突き刺さった大剣を見てクレアは少し悔しそうな表情をうかべる。
「あぁ。しかし、なんなんだ。あいつ…… 義姉ちゃんの剣をかわすなんて……」
キラーブルーを見ながらグレンがつぶやいた。白い大剣はエフォールでクレアが投げたものだ。もちろん彼女はキラーブルーをきちんと仕留めにいっていた。
「まぁいいです。グレンくんはすぐに三人のところへ行ってください」
「わかった」
「気をつけてください。彼女は強いです」
静かにうなずいてグレンは三人の前へと下りて行った。心配そうにグレンの背中をクレアは見つめている。
「グレンさん!?」
「もう大丈夫だから下がってろよ」
グレンは大剣の前に立ったグレンを見て嬉しそうにするキティル。振り返って少し緊張したような、笑顔をグレンはキティルに向けた。
剣にをかけたグレンをキラーブルーはジッと真顔で見つめている。わずかにキラーブルーの視線が上に向かってすぐ前に戻った。
「侵入者ノ援軍…… 併セテ排除シマス」
グレンは素早く右手で剣を抜き構えたキラーブルーは膝を曲げて体制を低くする。
グッと足を踏み込んだキラーブルーは猛スピードでグレンへと迫ってきた。グレンの目が赤く光り彼の体から目と同じ色のオーラが湧き出て来る。グレンはキラーブルーの行動を見極めて、剣を持った右手に力を込めて迫ってくるキラーブルーにタイミングを合わせ斬りつけようと……
「えっ!?」
グレンの手前二メートルほどでキラーブルーが飛び上がった。彼女は右手の剣を左肩まで上げた姿勢で、構えたまま一直線にクレアに向かっていく。
「義姉ちゃんに向かって…… そうか……」
振り返ってクレアに向かっていくキラーブルーを見つめるグレン。クレアは向かってくるキラーブルーに両手を広げた。
「そうですか…… 三人をかばって戦うグレンくんより。武器を持たない私の方がくみしやすいと判断しましたね。良い判断です…… でも」
感心したようにつぶやいた、クレアの両手が白く光った。彼女は両手を体の前で合わせると、光が伸びていき瞬時の白い光の大剣へと変わった。
両手を右肩まで上げて、光の剣の刀身を背中まで振り上げたクレアが鋭い瞳でキラーブルーを見た。直後にクレアは勢いよく光の大剣をキラーブルーに向けて振り下ろした。鋭く力強く空気を切り裂きながら、白く光る刀身がキラーブルーに向かっていく。キラーブルーの頬をクレアの光の大剣で照らされた。
大きな音が響く。とっさに体を横に向け、キラーブルーは両手に持ったサーベルをクロスさせて光の剣を受け止めた。
「はあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」
両手に力を込めてクレアは光の大剣を振り抜く。キラーブルーは必死に耐えようとしたが、耐えきれずに地面へと落下していった。
「私は立派なグレン君のお姉ちゃんですからね。丸腰だからって簡単には負けないんですよ」
落ちていくキラーブルーを見て少し得意げな表情をするクレアだった。キラーブルーはグレン達の横の数メートルの場所に地面に叩きつけられた。大きな音がして砂埃が舞ってグレン達の周囲の視界が悪くなる。
背中から叩きつけられたキラーブルーは、浮かび上がるように垂直に立ち上がるとすぐに腰を落として体制を低くして走り出した。キラーブルは砂埃にまぎれてグレン達に近づこうとしていた。
「グレン君! そっちに!」
「あぁ! 任せろ!」
グレンがキラーブルーが落ちた場所へ、体を向けてキティルたちをかばうように前に出た。
砂埃の中に二つの多い光がグレンが見えた、直後に二本の鋭い銀色に光るキラーブルーのサーベルが左右からグレンの首を狙う。
「速い……」
とっさにグレンは一歩後退して体をそらしていく。彼の視線のわずか上を二つのサーベルが通過していく。
必死に体をそらしたグレンは上半身が地面と水平近くなり、背後に倒れそうになったが左手に持ったシャイニーアンバーを地面に突き刺して肘をまげ反動で体制を戻しその勢いで同時に剣を地面から引き抜く。キラーブルーは両手のサーベルを空振るとすぐに腕を引いて剣先を前に向けた。体制を戻したグレンに向かって同時にサーベルを突き出した。
「調子に乗るな」
グレンが右手に持った剣を振り上げた。グレンの剣はキラーブルーが両手のサーベルを同時に弾く。下からサーベルを持った手を弾かれキラーブルーは腕を垂直に上げてバンザイをしてるようなになった。
素早く左腕をひき手に持った地面と水平にしたグレンは、キラーブルーの胸に向け剣を突き出す。
「緊急回避行動……」
振り下ろしされる剣を見たキラーブルーは淡々と口調でつぶやき右足を引いて体をそらした。
グレンの剣はわずかにキラーブルーの胸をかすめて斬りつけた。彼女の白くぴっちりとした服は胸の部分が斜めに切り裂かれ、胸は大部分が露出し十センチほど切り裂かれた皮膚からじんわりと血が漏れていた。彼女の血は赤紫色をしている。
わずかによろめきながら数歩下がって倒れそうになるキラーブルー、踏ん張ってなんとか倒れずに彼女は体を起こした。両手にサーベルを持ち剣先を下に向け真顔でジッとグレンを見つめていた。
「軽傷…… 行動ニ支障ハアリマセン。排除ヲ継続シマス」
視線を下に向けキラーブルーは真顔でつぶやき、また剣を構え膝を曲げて体勢を低くした。
「あいつ…… 痛がるそぶりもない…… チッ!」
グレンが驚き舌打ちをしてキラーブルーを見つめていた。胸に傷を負ったキラーブルはまったく痛がることもなく淡々と次の行動へと移行したのだ。また、服が破れ乳房の大部分があらわになっているのだが、キラーブルは恥じらうこともなかった。キラーブルーは足を踏み込み、グレンとの距離を瞬時に詰めてきた。体勢を低くして右腕を引いてサーベルの剣先をグレンに向けた。
「無駄だ! レッドムーンディレイ!」
目を赤く強く光らせたレイン、彼の瞳の奥に三日月が輝き視界に映っていたキラーブルーの動きが鈍くなっていく。これは月魔法”レッドムーンディレイ”の力だ。レッドムーンディレイは重力を操り周囲の人間の動きを一秒の間だけ遅くすることができる。
金属と金属が激突した甲高い音がした。グレンは冷静に突き出されたキラーブルーのサーベルを右手の剣を振り上げ弾いた。
「(うん!? これは)」
サーベルを弾いた後にグレンは不思議な顔をする。
キラーブルーの攻撃に鋭さがなく彼は即座に右腕を下しながら肘を曲げ、切っ先をキラーブルーに向け追撃をしようとしていた。だが…… 視界の端にわずかに青い二つの光が見えた。キラーブルーの目が光って光線を出したのだ。
「チッ!」
発射された光線をとっさに屈み体を低くしてかわしたグレン、目から放たれた光線は彼の頭上を超えて空へと向かっていき爆発した。
「排除……」
しゃがんだグレンに向かって左手に持った。サーベルを振り上げてキラーブルーが向かってきた。
「クソが!」
足を伸ばしてグレンは立ち上がりながら、右足を引いて体を半身にしてサーベルをかわした。目の前をキラーブルーのサーベルが通過していく。グレンが身にまとうオーラがサーベルの動きに同調して揺れながら上へとなびいていく。グレンは剣を握る右手に力を込めた。
「もらった!!!!」
叫びながらグレンが剣を振り上げた。勢いよく上に向かっていった剣はキラーブルーの左腕の肩のやや下辺りを切り裂いた。
腕は真っ二つに斬られて、サーベルを握ったまま宙を舞って地面に突き刺さった。グレンはキラーブルーと体を入れ替えるようにして背後に抜けた。
左腕を失いバランスを崩した、キラーブルーは地面に倒れ込んだ。同時に右手に持ったサーベルから手を離して地面にサーベルが転がった。
キラーブルーは地面にうずくまるようにして動かないでいる。グレンは止めを刺そうと彼女の背後から近づき右手に持った剣を強く握る。
「えっ!?」
グレンが驚きの声をあげた。キラーブルーは何事もなかったかのように立ち上がった。
「あいつ…… 腕を切り落とされても…… 平気なのか」
通常であれば激痛で叫び声をあげるような状態だが、キラーブルーはグレンに背中に向けて静かに歩いて、サーベルを持ったまま地面に突き刺さっている自分の左腕へと歩く。
彼女の異様な行動に、その場にいた全員が唖然として固まっていた。キラーブルーはサーベルから自分の腕を外した。
「自己再生中…… 魔力エネルギー残量低下。排除行動ニ支障アリ……」
右手に左腕を持ち斬られた場所を肩に当て淡々としゃべるキラーブルー、目を青く光らせて彼女は静かにつぶやいていた。
グレンはキラーブルーの異様な行動に驚き固まっていた。すぐに腕の血は止まり斬られた箇所が無数の銀色の触手がへと変化して絡みあう。
「うっ腕が…… くっついていくだと!?」
触手は絡み合いながら徐々に短くなっていき、気づくと腕はきれいにくっついていた。感触を確かめるように左腕を回しながらキラーブルーはグレンを見た。
「現状デハ戦力不足…… 撤退シマス」
感情がこもってない淡々とした声で、つぶやいたキラーブルーのスカートの裾から勢いよく白い煙が吹き出した。
煙はキラーブルーの体を包み込んで姿を見えなくした。
「うわ!? なんだこれ!? クソ! 逃がすかよ」
グレンが煙に向かって突っ込もうと足を踏み出した。
「えっ!? 消えた……」
煙はすぐに消えてそこにキラーブルーの姿はなかった。グレンは驚いたまま呆然と立ち尽くすのだった。