第299話 回り込まれてしまった
キティルの視線に映るレイナは満面の笑みを浮かべている。レイナの唇がわずかに動くのがキティルに見えた。
「それに一番のクレアちゃんの魅力は……」
「えっ!? まっまだ何か……」
力を溜めるように間を開け、レイナはキティルの肩から手をはなし胸を張った。わずかに開いた間に真剣なキティルの喉元がごくりと唾を飲んだ。
「私にそっくりだからね!」
「はぁ!? なんですかそれ?」
笑いながら胸をはるレイナをキティルはあきれはてた声をあげ、目を細めて冷たい目で見つめるのだった。
「なっなによ? グレンはお姉ちゃんが大好きなの! だから私に似てるって言うのはすごいアドバンテージでしょうが!!!!」
「はぁ…… なんかもういいです……」
「えっ!? ちょっとキティルちゃん!?」
首を横に振ったキティルは失望した顔をしてメルダの元へ早足で行ってしまった。置いて行かれたレイナは驚いて引き止めようるようにキティルへ手を伸ばすのだった。
メルダは横に並んだキティルに視線を向けた。彼女の瞳には涙がにじんでいた。
「もう何よ。わかってたことでしょうに……」
「ベッ別に泣いてないもん…… グス!」
目をこすって涙を拭うキティルに、メルダは優しく頭を撫でる。
「まぁ無理よね…… グレンはシスコンなのに…… あんたに姉属性ないもんねぇ」
「なっ!? なによ! メルダも嫌い!」
「ふふふ」
キティルはメルダを睨みつけた。メルダは舌を出して笑う。
「もう絶対にあきらめないんだから! 頑張ってグレンさんを私に振り向かせてやる!」
右拳を握り胸の前に持って行って決意を新たにするキティルだった。
「俺がどうかしたのか?」
「えっええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!」
「なっなんだ!? どうした?」
少し先の道の脇に立つ木にグレンが立っており、キティルに向かって手を上げていた。驚いて悲鳴のような声をあげるキティルに困惑するグレンだった。飛べないレイナを気遣って歩いて来た三人を、飛んで来たグレンは追い越してしまい待っていたようだ。
「あら? グレンじゃない」
「わーーい。グレン君だ」
驚いて声をあげるキティルと置いてメルダとレイナはグレンの元へと近づく。グレンは首を横に向けキティルを心配そうに見つめている。
「キティルはどうしたんだ?」
「なっなんでもないわよ。トイレでも我慢してるんでしょ」
「あぁ! そうか! 我慢は体によくないぞ。俺は目を背けているからそこらへんでしてこい」
「メルダ!!!!」
適当に答えるメルダに納得したようにうなずくグレンだった。キティルは眉間にしわを寄せメルダを睨みつけていた。レイナはグレンの前に立つと首をかしげた。
「どうしたの? やっぱりお姉ちゃんが心配で?」
「ちげえよ。俺は仕事。近くの農場周辺の魔物調査に来たんだ」
「そうなんだ」
グレンの言葉に嬉しそうにほほ笑むレイナだった。グレンは気まずそうに右手を後頭部に持って行き口を開く。
「それでさ。ベイリーグランド洞窟にも調査に行かなきゃいけなんだ…… 一緒に行っていいか?」
「もちろんよ。良いわよね? キティル! レイナ!」
「はい! グレンさんが一緒なら心強いです」
同行と申し出たグレンにメルダとキティルはすぐに了承した。だが、なぜかレイナは口を尖らせ不満げなん表情をして腕を組んだ。そして彼女は眉間にしわをよせ厳しい顔をグレンに向けた。
「ダメ!」
「えっ!? まさかさっき仕事を却下したのまだ怒ってんのかよ」
「違うよ!」
首を大きく振ったレイナはグレンの前に立った。
「行っていいじゃなくて! お姉ちゃんと一緒に行きたいよぉ! でしょ!」
「はあぁぁぁぁ!?」
グレンを指さし胸を張って堂々と話すレイナだった。グレンは顔をしかめ心底あきれた顔をし声をあげた。レイナは鼻息をフンと荒くし勝ち誇った顔で胸を張っている。
「おい! もういいや。行こうぜ」
「そうね」
「はい!」
道の先を指してキティルとメルダに行こうと声をかけるグレンだった。二人は小走りでグレンの元へと合流しそのまま三人はレイナを置いて歩き出す。
「えぇ!? ちょっと! みんな! 待ってよ!」
置いていかれたレイナは慌てて走って三人を追いかけるのだった。
「むぅ…… グレン君め……」
三人が仲良さげに歩く少し後ろでレイナは、グレンの背中を睨み恨みがましくつぶやくのだった。
川沿いの道を四人は南へと進み、しばらくすると開けた場所へと出た。川沿いの森を開き開墾された広い円形の土地に柵で区画に分けられた畑が広がっている。中央にある建物も大きく三階建ての青い屋根の平たい家の隣に納屋や厩舎がエル字に並んでいる。畑は建物を中心に円形に作られ、畑の間を放射状の道が伸びていた。
「ここが…… グロウスター農場だな」
「ベイリーグランド洞窟はここを越えた先ですね」
キティルが農場を先を指さした。グレン達が歩いていた道は畑の真ん中を突っ切るように南北に伸びていた。四人は農場を突っ切る道を歩いていた。
グレンとキティルとメルダという順で並んで歩き少し後ろをレイナが続く。四人は森の真ん中に現れた畑を見ながら四人は中央にある建物に近づいた。
「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
四人の前方から悲鳴が聞こえた。グレン達は一斉に前を向いた。彼らの前方二十メートルに農場の建物が見える。
「なっなに!? なにがあったの」
「えっえぇ!? ちょっと! レイナさん!」
動揺してグレンの横にかけてきたレイナが彼の腕を組んだ。間に割り込むようにして入って来たレイナにキティルは驚きさらに腕を組む彼女を睨む。
「あれだ!」
真顔でグレンは冷静に前方にある巨大な建物を指した。厩舎の中央から太く大きな蛇の体と頭が出ている光景が見える。
「あれが大蛇?」
「違う…… あれは…… とにかく助けに行かないとな!」
「えぇ。行くわよ。キティル」
「うん」
メルダとキティルが飛び上がりグレンも続こうとする。飛ぼうとしたグレンの腕を引っ張ってレイナが止める。
「まっ待って私は……」
「あぁそうだったな! よっと!」
「グっグレン君!?」
振り向いたグレンにレイナは気まずそうにしていた。彼女は飛べないのだ。グレンはすぐにそれを思い出し笑うと彼女の肩に手を回し膝に手を伸ばした。レイナを抱き抱えたグレンは地面を蹴って飛ぶ。
「よっよかった…… また木に巻かれるのかと思ったよ」
「ははっ! 今日は頼りになるのが居るからな」
グレンは前を向き先を飛ぶキティルとメルダを見るのだった。グレンの顔を見てレイナは優しくほほ笑むのだった。
「いいなぁ……」
横目で抱きかかえられて飛ぶレイナを見てつぶやくキティルだった。横からメルダの手が彼女の肩に伸びてきた。
「キティル! よそみしてんじゃないわよ!」
「えっ!? キャッ!!」
声が聞こえた直後にキティルは突き飛ばされた。直後に激しい音をたてながら二人の間を青白い閃光が上空へと伸びて行った。
「はぁはぁ…… 稲妻…… あれって…… 山羊……」
飛んで行った青い光線を見つめつぶやくキティルだった。メルダとキティルの間に飛んで来たのは稲妻だった。キティルは地面へと下に向けた。
そこには……
「ガウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
口の端から血を滴らせながら、獅子が上空に浮かぶキティルに向かって吠えていた。




