第260話 ツリーローダーで朝食を
柔らかな木漏れ日が部屋に差し込んでいた。クレアは生まれたままの姿で、毛布にくるまってベッドに横になっていた。しずかに寝息を立てる彼女は満足げで幸せな表情を浮かべていた。
「うーん…… グレン君……」
「なに!? あぁ…… 寝言か…… ふふ」
先に目覚め下着姿でベッドに腰かけていた、グレンが彼女の声に反応した。微笑んだ彼はクレアの頭を撫でるのだった。グレンはクレアを起こす前に茶でも淹れようかと立ち上がった。
「グレン氏! クレア氏! 起きるでござるよ」
「起きてくださーい」
扉がノックされジャスミンとキティルの声が二人を呼ぶ。二人はあられもない姿をしておりビクッとするグレンだった。普段の冒険者ギルドの部屋であればジャスミンが部屋を開けているだろう。しかし、ここは宿屋でグレンは扉にはしっかりと鍵をかけていたことを思い出しホッと胸を撫でおろした。
「静かでござるな」
「ですねぇ…… まだ寝てるのかな…… 鍵がかかっている」
ガチャガチャと音がする、どうやらキティルが扉を開けようとノブに手をかけ押しているようだ。
「よし! 突破しましょう! 蹴破るか…… 私がカギを燃やし…… いや扉ごと……」
「そっそんなダメでござるよ!」
「えっ!? だって…… 二人で寝てるなんてとっちめ…… じゃなくてほら! 心配じゃないですか!」
外から物騒な会話が聞こえる。グレンは慌てて返事をした。
「まっ待て! 起きてるぞ。なんの用だ?」
扉の向こうからグレンの声が廊下にいる二人に聞こえた。ジャスミンが声が聞こえ嬉しそうに笑い、キティルはなぜか悔しそうに顔をしかめていた。
「グレゴリウス氏が朝食を用意しているでござる! 一緒に食べるでござるよ」
「あぁ。すぐに行く。先に行っててくれ」
ジャスミンは朝食に呼びに来たようだ。グレンは先に行くように二人に告げる……
「急いでくださいね!!!!」
「えっ!? あっおう…… わかった」
キティルの大きな声が聞こえ、グレンは驚き返事をしながら首をかしげた。二人の気配が消えるとグレンはベッドで寝るクレアに視線を向けた。丸まった姿勢でクレアは穏やかに寝息を立てていた。
「うるさかったのによく寝てるな。いや…… 俺が負担かけすぎたか……」
愛おしそうにグレンはクレアの頭を撫でてから優しく声をかける。
「クレア義姉ちゃん…… 起きて……」
「ムニャムニャ…… グレンくー…… スースー」
グレンの声にクレアは反応したがすぐに寝息を立て始める。人を待たせているグレンは焦り申し訳なさげにグレンは強くゆすって声をかけた。しかし、反応は変わらなかった。
「あぁ! 全然起きねえな……」
「スースー」
グレンは困った顔でクレアに視線を向けた。目をつむりぐっすりと眠りこけているクレアだった。
「ムニャニャ…… もう…… 食べられないですよ……」
舌で唇を舐めなが寝言をつぶやくクレアだった。グレンはふとあるクレアを起こせそうな言葉が頭に浮かんだ。
「まさかな……」
半信半疑でグレンは口に手を当てクレアの耳元で思いついた言葉をささやく
「グレゴリウスが美味しい朝食用意しているってよ。早く起きないと全部オリビアに食われるぞ」
「ハッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
パッと目を開けたクレアが勢いよく起き上がった。起き上がるクレアにぶつかりそうになったグレンだが、なんとか反応し体を引いてかわした。勢いよく起き上がったクレアの体から毛布が滑り落ちた。まっさらなクレアの大きな胸がグレンの前にさらされグレンは頬を真っ赤にする。
「おっ起きたか?」
恥ずかしさをごまかすようにクレアに声をかけ、グレンは床に落ちた毛布を拾いクレアにかけ直し胸を隠して彼女の横に座った。
「えっ!? 朝ご飯は?」
クレアは胸のことなど、どうでも良いと言わんばかりに朝ごはんについて聞いて来る。グレンは呆れた表情でクレアに答える。
「ここにはねえよ。ジャスミンとキティルが迎えに来ているから着替えて行こうぜ……」
「騙しましたね!」
「えっ!? わっ!」
ムッとしたクレアは立グレンの胸に抱き着き押し倒した。クレアはグレンに口づけをし彼を見てほほ笑む。
「もう…… ジャスミンたちを待たせるんだぞ」
「ちょっとだけです……」
そう言うとクレアはグレンの胸の頭を置いた。グレンはクレアの頭に手を伸ばし撫でる。二人は密着したままゆったりとした空気が流れていた。
「うわ!」
「キャッ!!」
部屋の扉が激しく叩かれ大きな音が響き、グレンとクレアが思わず声をあげ体を起こす……
「急いでって!!! 私…… 言いましたよね!!!!!」
低く響くようなキティルの声が扉の向こうから聞こえた。クレアとグレンは扉に顔を向け目を大きく見開いていた。
「キッキティルちゃん?」
「あぁ。そうみたいだな…… なっなんだよ…… もう……」
ドスドスという廊下を歩く音が遠くなっていく。グレンとクレアは立ち上がり準備を始めるのだった。宿の前でジャスミンが待っている。宿の扉が開いてキティルがやってきた。
「忘れ物は大丈夫でござるか?」
「えっ!? えぇ。見つかりました」
キティルはうなずいてすっきりと爽やかな笑顔で、グレン達がいる二階の窓を見つめるのだった。
しばらくしてグレンとクレアが合流し、四人は歩いて村の広場へと向かった。村の外れにある小さな広場に屋台が出来ていた。屋台の前に四人がけのテーブルと椅子が置かれている。椅子とテーブルのセットは二つあり一つにはクロースとメルダがすでに座っていた。
「来たか! 座ってくれ」
屋台の向こうからオリビアが出て来てグレン達に声をかける。彼女は空いているテーブルを指してグレン達に座るようにうながした。
グレン達は空いている方のテーブルの席に座っていく。ジャスミンが座るとキティルがすぐに彼女の対面に座った。
「グレンさん! こちらへどうぞ」
「えっ!? えっと……」
「良いでござるか?」
「あぁ。よろしくな」
キティルがグレンに隣に座るように声をかけた。グレンは迷った後にジャスミンの隣に座る。キティルは残念そうにしてクレアは彼女の隣に座った。全員が席に着くとオリビアが得意げに口を開く。
「グレがドリアーノの実を使った料理を開発したんだ! 食べてみてくれ」
「えぇ!? あれを食うのか? 渋くて食えたもんじゃにぞ」
「ふふふ。グレに任せておけ! なぁ?」
自信ありげオリビア胸を叩いて屋台に向かって顔を向けた。フライパンの前でグレゴリウスが恥ずかしそうに笑っていた。
「楽しみですね」
「そうでござるな……」
クレアが期待した目でグレゴリウスに視線を向け声をあげジャスミンが同意した。グレンはテーブルに両肘をついて料理をするグレゴリウスに目をむけた。
「そういや…… グレゴリウスはなんで…… まだ女装をしているんだ? もう帝国から追われてないんだろ?」
「そういえば…… なんでだろう」
未だにグレゴリウスが女装していることに首をかしげるグレンだった。彼の前に居るクレアも同じように首をかしげる。二人の会話を聞いていたキティルが口を開く。
「砂海から出た後は元に戻したんですよ。でも、シェフギルドの監査が来た時に指摘を受けたんですよ」
「指摘?」
「はい。免許の名前はエミリアで女性ですからね」
「あぁ…… そういうことか!」
シェフギルドが料理人が営業する屋台や店に、ギルドから派遣された覆面監査員が定期的に調査をする。
グレゴリウスはシェフギルドの登録名をエミリアで性別を女性にしていたため、監査員から指摘をうけたようだ。
「なんとかエミリアが男装しているってことで説明して…… それから女装に戻したんです」
「元に戻った…… いや違うか……」
グレンは首をかしげクレアは彼を見て笑っていた。
シェフギルドで発行された免許の登録情報を変更をすることは可能だが、登録したテオドールのシェフギルドに戻りいくつも審査を受ける必要がある。さらに変更審査のために出自を明らかにする必要があり皇子であることが判明するとさらに面倒が増えため、グレゴリウスはこのまま女性登録のままにしている。




