第253話 横に居たいのに
すっと右手を伸ばしグレンは地面に突き刺さった月樹大剣をつかんで引き抜いた。右肩に大剣を担いで周囲に目を向けるグレンだった。小さくうなずいた彼は視線を横に動かし背後を見た。
「来るぞ! 構えろ!」
「はっはい!」
うなずいたキティルは杖を構えた。
一匹のドリアーノキラーズマンティスが木に止まったまま、翅を広げビーンという不快な音を立てた。周囲にいた多数のドリアーノキラーズマンティスも同様に翅を広げ共鳴した羽ばたく音が大きくなっていく。
ドリアーノキラーズマンティスは広場を囲む木々に二十匹が止まっていた。ドリアーノキラーズマンティスのぎょっとした目にグレン達が映っていく。
「キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
グレン達を取り囲んでいた二十匹のドリアーノキラーズマンティスが一斉に飛んだ。大きな羽音を立てグレン達に襲い掛かる。
「あっ!!」
横に居たグレンが消えた。彼は地面を蹴って高速で飛び上がり飛んで来たドリアーノキラーズマンティスへと向かって行った。大剣を横に持って行き構えグレンは、迫るドリアーノキラーズマンティスは前肢を振り下す。左手の指を立て横にわずかに動かすグレンだった。彼に向かって鋭く前肢が迫る。
「キイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!?????」
ドリアーノキラーズマンティスが悲鳴のような声をあげた。黄緑のドリアーノキラーズマンティスの前足が、グレンの前をスッと下へと落ちていった。グレンは当然と言った顔で前へと進む。
地面から伸びた大量の草がドリアーノキラーズマンティスの足に絡まり後ろに引っ張られていた。
「悪いな…… 森は俺の領域なんだよ!」
にやりと笑ったグレンはドリアーノキラーズマンティスの顎の下まで飛んで来た。
「おりゃああああああああああああああああああああああ!!!!」
顎の下からグレンは勢いよく大剣が振り上げた。ドリアーノキラーズマンティスの顎の斜め下から後頭部を大剣は切り落とした。声をあげることなく頭を落とされたドリアーノキラーズマンティスは地面へと落ちていった。
「お前らもだよ!!!!」
グレンが叫びながら手を横に振った。周辺に居たドリアーノキラーズマンティスに枝や草が伸びいって拘束する。グレンの特殊能力の一つ”森のソムリエ”で彼は自在に植物を操り木属性魔法の威力が増すのである。
「さっさと片付けてやるよ」
右肩に大剣を担いでグレンはドリアーノキラーズマンティスに向かって飛んで行った。彼の背後の地上で杖を構えていたキティルが不満げに口を尖らせた。
「私を守るつもりなんですね…… そうやっていつも私を隣に居させてくれないですよね。もう…… グレンさんの…… バカ!」
グレンの背中に向かって舌を出しすと、キティルは空を見上げ地面を蹴った。彼女は一瞬で木よりもはるか高くへ浮かび上がった。
「ふぅ」
上空で止まったキティルは視線を下に向けた。彼女は森の木から数十メートル上空に立って居た。巨大なドリアーノキラーズマンティスが指くらいの長さに見えている。
「クロースちゃんとクレアさんは…… 心配しなくて良い」
地上を見ながら静かにうなずくキティルだった。白く点滅する数匹のドリアーノキラーズマンティスが、見えた直後に真っ黒になって地面に転がってた。すぐ近くで黄金の光がいくつも動き次々にドリアーノキラーズマンティスが真っ二つに切り裂かれていった。
「メルダも相手が特殊能力を持ってないし…… クロースちゃんも近くにいるしなんとかなるわね……」
クロースの近くでメルダが動きながらドリアーノキラーズマンティスに矢を放っていた。彼女の矢はドリアーノキラーズマンティスに突き刺さると破裂して黄色の煙が上げる。メルダの矢に毒の筒が仕込んでありドリアーノキラーズマンティスの動きが鈍くなっているのだ。
「なら……」
キティルは視線を広場の中央へと向けた。彼女の視線に四方八方からくるドリアーノキラーズマンティスをメイスで叩きグレゴリウスを守るオリビアの姿が映った。
メイスがドリアーノキラーズマンティスの頭を叩き潰した。倒れるドリアーノキラーズマンティスメイスの前にオリビアは着地した。彼女のメイスには緑の液体が飛んで付着する。
「オッちゃん!」
「大丈夫だ!」
心配そうに声をかけるオリビアの彼女の左手に先から血が地面に落ちていく。グレゴリウスをかばいながら多数の敵を相手にするのはさすがのオリビアでもきついようだ。
「キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
「わっ!?」
「グレ!!!」
「キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
「チッ!」
ドリアーノキラーズマンティスがグレゴリウスに向かって来た。慌てて彼の元へ向かおうとするオリビアの背後から別のドリアーノキラーズマンティスが彼女を襲った。オリビアを捉えようと背中にドリアーノキラーズマンティスの前肢が迫って来ていた。彼女は反応し振り向くと前肢をメイスで叩き落とし、すぐにグレゴリウスの元へと向かおうとした。
「えっ!?」
上空からグレゴリウスの前に木の杖が下りて来た。地面に突き刺さるとグレゴリウスの周囲の赤く光りだした。直後に炎の壁が地面からせり上がりあっという間のグレゴリウスを囲んだ。
「わっ!? わっ!?」
「キイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!!」
グレゴリウスの前に落とされた根元が燃え焦げた、ドリアーノキラーズマンティスの前肢が転がって彼は驚きの声をあげた。
地面からせり上がった炎の壁がドリアーノキラーズマンティスの前肢を焼き切ったのだ。
「キイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!」
「炎が……」
オリビアの背後からドリアーノキラーズマンティスの悲鳴が聞こえた。振り向いたオリビアの目に映ったのは頭が燃えるドリアーノキラーズマンティスだった。
呆然とするオリビアにキティルの声が聞こえる。
「オリビアちゃん。これでグレゴリウスちゃんは大丈夫よ」
振り向いて視線を上に向けるオリビア、炎の壁の斜め前にキティルが浮かんでいる。彼女の左手を炎の壁に向け右手をドリアーノキラーズマンティスに向けていた。彼女の右手から一筋に煙が立ち昇っている。
「おう! ありがとう。キティル!」
左手を上げ笑顔をキティルに向けるオリビアだった。視線を前に戻しメイスを構えるオリビアだった。彼女の前に一匹のドリアーノキラーズマンティスが翅を羽ばたかせ浮かんでいる。
「キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
「えっ!? 行ったぞ! キティル!」
ドリアーノキラーズマンティスがオリビアを迂回してキティルの元へと飛んで行く。キティルは飛んでい来るドリアーノキラーズマンティスを見て顔をしかめる。
「なるほど…… 武器を持たない私を狙うのね…… 舐められたわね」
不服そうに飛んでくるドリアーノキラーズマンティスを見つめるキティルだった。彼女は右手の人さし指を立てドリアーノキラーズマンティスに向けた。
「ライバルと似た魔法は使いたくないですけど…… ねっ!!!!」
顔をしかめたキティルの指先が赤く光りだした。
「キイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!!!」
キティルの指先から赤い光線の細長い炎が伸びて行きドリアーノキラーズマンティスの胸を貫いた。指先を左右に動かすと炎がドリアーノキラーズマンティスを切り裂いた。切り裂かれたドリアーノキラーズマンティスから傷口から炎が噴き出し全身に燃え広がった。彼女が使ったのは炎の剣で敵を切り裂くヒートブレイドという魔法だ。クレアの光の剣と同様に術者の能力により巨大なものから小さいものまで自在に具現化できる。
燃え上がるドリアーノキラーズマンティスを見てオリビアが声をあげる。
「おぉ! すごい! クレアみたいだな」
「キッ!!!!!」
「なっなんだ…… どうした?」
キティルはクレアみたいと言われオリビアを眉間にシワを寄せ睨みつけた。いきなり睨まれたオリビアはわけがわからず首をかしげるのだった。




