第245話 見逃せない
「ぬっ! フッ……」
気配を感じ視線を背後に向けたルドルフだった。ミストゴブリンの集団の中にいたミストゴブリンマージが前に出て左手に持つ棒をルドルフへと向けていた。何か魔法を使おうとしているようだ。
しかし、ルドルフは口元を緩めすぐに前を向き剣を振り下ろした。ミストゴブリンマージに向かって赤い光が一瞬で移動しているのが見えたのだ。
「ぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」
「きゃあああああああああああああああああ!!!」
悲鳴とミストゴブリンキングの声が響く。ルドルフの剣が振り下ろされミストゴブリンキングの右腕を叩いた。衝撃でミストゴブリンキングはシスターから手を離し、彼女は地面へと横たわった。
「ぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」
集団の中にいたミストゴブリンマージが声をあげた。直後にミストゴブリンマージが持つ左に手棒が青く光った。棒の先端にある骸骨の目の奥が光り出し紫の霧が一筋上へと上っていく。
「おっと! 余計なことはさせないぞ」
「ぎいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」
右腕を引き剣先を前に向け構えたグレンがミストゴブリンマージの前に現れた。彼は淡々と右腕を前に突き出した。剣はミストゴブリンマージの胸を貫通した。ミストゴブリンマージの目から光が消え動かなくなる。グレンは乱暴に右足を上げミストゴブリンマージの腹を蹴ると腕を引き剣を抜いた。支えを失いこと切れた人形のようにミストゴブリンマージはその場に倒れた。
「「ぎいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」」
ゴブリンマージが倒れ周囲にいたミストゴブリンが逃げ出そうとした。しかし、彼らの背後から光の剣が伸びて来て彼らの頭を貫く。
「逃げられるわけないですよ。あなた達は全滅です」
大剣を背中におさめ両手の指を広げ前に向けたクレアが叫ぶのだった。
「歩けるか?」
「はっはい……」
「離れているんだ。すぐに終わらせる」
ルドルフは横たわったシスターの前に立って振り向き声をかけた。彼女はうなずいて起き上がると彼から離れていく。
「ぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」
悔しそうに左手で右腕を押さえ、ミストゴブリンキングがルドルフを睨みつけていた。足元にはミストゴブリンキングが持っていた大剣が置かれていた。ミストゴブリンキングは腕を押さえるために大剣を投げ捨てるように地面に叩きつけて置いたのだ。
ミストゴブリンキングは右腕から手を離し大剣へと伸ばした。再び手にした大剣をミストゴブリンキングは振りかぶった。
「うぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!」
声をあげミストゴブリンキングはルドルフに大剣を振り下ろした。空気を切り裂くような音とともに鋭く大剣がルドルフの頭上へと伸びて来る。
冷静にルドルフは大剣を見てタイミングを見計らい、両手で持った剣を頭の上に水平にした。直後に大きな音がミストゴブリンキングの大剣はルドルフの剣によって阻まれた。ルドルフは目つきを鋭くし両手に力を込め腕を伸ばした。
「はっ!!!」
力を込めた両手を伸ばしルドルフは大剣を押し返して弾いた。左腕をあげた姿勢で後ずさりするミストゴブリンキングだった。
「ふん!!!!」
ルドルフが剣を戻し彼が持つ剣の刀身が白く光り出した。ミストゴブリンキングの顔を刀身の光が白く照らしまぶしそうに顔をしかめた。前に出たルドルフはすれ違いながら、ミストゴブリンキングのふくらはぎを斬りつけた。
「ぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」
赤黒い血がふくらはぎから吹き出し、数滴の血がルドルフの頬に付着した。悲鳴を上げたミストゴブリンキングは膝をついた。
「はあああああああああああああ!!!!!」
ルドルフは突き進みミストゴブリンキング背中へと回り込んだ。彼は振り向くと同時に膝をつきしゃがんでいた、ミストゴブリンキングの背中を斬りつけた。
「ぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
声をあげミストゴブリンキングはのけぞって前に倒れた。ルドルフは左腕を曲げ袖で剣の血を拭うとミストゴブリンキングの頭の前へと立った。ミストゴブリンキングを見下ろしルドルフは剣を逆手に持ちかえた。剣先をミストゴブリンキングの頭へとルドルフが向けた。ミストゴブリンキングが顔をあげる。目じりが下がり悲し気な表情をするミストゴブリンキングの真っ赤な瞳には、自分に向けらえた白い刀身の剣が映っていた。
「ぎっぎい……」
「むっむぅ……」
視線を横に向け小さく鳴くミストゴブリンキングだった。そこには小さな幼体のミストゴブリンが居て怯えた表情を浮かべていた。ルドルフはミストゴブリンキングの視線を追い幼体を見てしまった。
ルドルフは唸るような声をあげ静かに剣を下し鞘に手をかけた。
「これに懲りて二度と悪さをしないことだ…… なっ!?」
振り向いたルドルフは静かに前に歩き出した。しかし、ミストゴブリンキングが右手を伸ばして彼の足をつかんだ。驚いて振り向くルドルフに影が覆った。
「「「ぎやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」
「「「「プギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!」」」」
ルドルフの目の前ではグレンが右腕を伸ばし、ミストゴブリンキングの胸を剣で貫いていた。彼の後ろではクレアが光の剣を伸ばしミストゴブリンの幼体を串刺しにしていた。ミストゴブリンキングの目から光が失われルドルフの足を掴んだ手から力が抜け離れた。
「おっおい……」
「まだだ!!! リーフカッター!!!」
グレンはルドルフの言葉を遮り、振り向いて左手を横に動かした。彼の手の動きに反応するように周囲の木から葉が白く光りだした。光った葉は刃となり一斉に木の枝から飛び出しミストゴブリンに襲い掛かった。
「「「「「ギャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」
ミストゴブリンに刃となった刃が突き刺さり次々に倒れた。あっという間に動くミストゴブリンはいなくなった。ロベルトは倒れたミストゴブリンを見つめ呆然としていた。彼の前で周囲を見渡し、動くミストゴブリンがいないことを確認しグレンは息を吐いた。
「ふぅ!」
「終わりましたね」
クレアが笑顔でグレンに声をかけ、二人は顔を見合せうなずいたのだった。
「グッグレン!!! クレア! 貴様らは!!!」
我に返ったルドルフが二人を怒鳴りつけた。彼は自分が見逃した魔物を問答無用で殲滅した二人に怒っていた。グレンはロベルトが何で怒っているのかわかっているが鼻で笑う。
「ふん…… そいつの手を見てみろよ」
「はっ!? えっ!?」
グレンは剣の先でミストゴブリンキングの手を指した。視線をグレンが指した方へと向けるロベルトだった。
「ポっポイズンミスト…… これで私を……」
ミストゴブリンキングの右手から紫色の煙のような霧が立ち昇っていた。紫色の霧はポイズンミストという毒を持った霧だった。紫色の霧は麻痺毒を含んでおり吸い込めばロベルトは動けなくなっていただろう。
驚愕の表情を浮かべるロベルト、グレンは彼を見つめ静かに剣を軽く振った刀身についていた赤黒い血が拭われ地面を染めていくのだった。




