第243話 やっぱり似ている
ジャスミンとシスターが集落へ到着する少し前…… 細長い寂れた山道をルドルフが一人歩いていた。彼は瞳の奥に小さな白く小さな光が灯っていた。
ルドルフは視線を街道の地面へと向けている。彼の視界には街道には小さな足跡と人間を引きずったような跡が白い光り浮かび上がっていた。足跡はミストゴブリンのもので引きずられた痕はシスターとジャスミンのものだった。ルドルフの目の光はトゥルーイルミネーションという魔法だ。聖なる光が隠された真実を見せてくれる。
「はぁはぁ! 待って下さい! 早いですよ」
「!!!」
声が聞こえたルドルフは目を大きく見開き驚いた顔で振り向いた。そこには息を切らして膝に手を付いて肩で息をするレイナが居た。
「れっレイナさん!? なんであなたが?」
「えっ!? だって追いつけって言ってじゃないですか?」
「いや…… そっそれはグレンに……」
「えぇ!? そうなの!?」
わざとらしく驚くふりをして笑うレイナだった。ルドルフは悪びれる様子もない彼女を見て頭を抱える。
「そうか…… あいつの姉だったな…… クソ」
「どうしたんです?」
「いっいえ…… なんでもありません」
レイナに向かってルドルフは大きく首を横に振った。務めて冷静にルドルフはレイナの背後を指して口を開く。
「危険ですから戻ってください」
「えぇ!? 今から一人で帰った方が危ないじゃない!!」
後ろを見て薄暗い寂れた街道を見た、レイナは口を尖らせ不満げに戻るのを拒否したのだった。ルドルフを見つめたレイナはいやらしく笑う。
「それに…… 騎士様がか弱い淑女を置いて先に行って良いんですか? 後で教会言いつけちゃおうかな?」
「うっ…… クソ!」
悔しそうにするドルフを見てにやにやした顔をするレイナだった。ルドルフはレイナの顔をみて諦めた表情をする。
「はぁ……」
ため息をつくルドルフにレイナは真面目な表情になり頭を下げた。
「お願いします。連れて行かれた人がいるんですよね? だったら助けないと! 人手は多い方がいいですよね? 大丈夫ですよ。迷惑はかけませんから!」
顔をあげまっすぐにルドルフを見つめるレイナだった。
「やっぱり…… あいつの姉だな。不快だが…… 人を想う気持ちだけは正直だ……」
ルドルフは目の前で力強い瞳に決意に満ちた顔をするレイナとグレンの面影を重ねていた。
「あぁ。わかった。一緒に行こう。その代わりに私から離れるなよ。君を怪我させたらうるさいのが居るんだ」
「はい!」
嬉しそうにレイナは歯を見せニコッと笑ってうなずく。ルドルフは彼女の笑顔を見て頬を赤くするのだった。
ルドルフとレイナは一緒にシスターを助けに行くことになった。ルドルフが先導しレイナは後に続く。しばらくすると街道の先に集落の門と柵が見えて来た。
ふとルドルフが立ち止まりレイナは不思議そうに首を傾げた。
「来たか……」
振り向いたルドルフが視線を上に向けた。背の高い木の上に二つの人影が見えた。人影はグレンとクレアでルドルフは二人を見て笑った。向こうもルドルフを見つけたようで彼の元へと下りて来た。
「ルドルフさん…… えっ!?」
「レッレイナ姉ちゃん? なっなんで……」
二人はルドルフと一緒に居るレイナに気づいた。グレンはルドルフに顔を向けた。
「おい。なんでここにレイナ姉ちゃんがいるんだ?」
「知らんよ。彼女が勝手について来たんだ」
「だからってお前……」
グレンは不服そうにルドルフを見た。慌ててレイナがグレンに口を開く。
「そうよ。ルドルフさんは悪くないわ。私が自分の意思で来たのよ」
「いや…… でも…… 危ないし……」
「えぇ!? グレン君も今から一人で帰れって言うの?」
「クソ!」
寂しそうな顔でレイナは首をかしげた。弱ったフリだけグレンはそんな姉に強く言えるほど強い弟でない。首を振って諦めて左手の親指で自分の背中を指す。
「あぁ。もうわかったよ。俺から離れるなよ」
「えぇ!? どうしよう。さっきルドルフさんからも同じこと言われちゃったの!」
両手を前に組んで得意げな顔をするレイナだった。顔をしかめたグレンはあきれた口調で話す。
「好きにしろ…… いやルドルフ頼む」
「なっ!? お前の姉だろう! お前がなんとかしろ!」
「最初にそばに居ろって言ったのはお前だ。お前がなんとかしろ」
グレンはルドルフにレイナを押し付けようしたが、彼は即座に否定したのだった。しかし、グレンは負け時さらに言い返し二人はレイナの押し付けあいを始めた。二人を見てレイナは口を尖らせ不服そうにして間に割り込む。
「ちょっ!? なんでなすりつけあうのよ! そこは俺がっていうところでしょ!」
「「はぁ!?」」
首を横に振りレイナはルドルフとグレンを見た。二人はレイナにあきれた顔を向けていた。二人の態度にプクっとレイナは頬を膨らませ口を尖らせ腕を組む。
「はぁ…… もういいです。レイナさんは私の側にいてください」
「うぅ…… ありがとうクレアさん。べー!! 二人共嫌いだよ」
「はあああ」
醜い争いを見かねたクレアが仲裁に入った。クレアに礼を言ったレイナは眉間にシワを寄せグレンとルドルフに向かって交互に舌をだし悪態をついていた。
レイナの子供のような行動にルドルフは顔をしかめていたが、グレンは姉が義姉と似たような行動をとるのがおかしく吹き出しそうになっていた。
「さて…… 行きますか。グレン君、ルドルフさん。こっちで良いですか」
「えっ!? あぁ。この道に入ってからは沿って奥へ進んでいる」
「わかりました」
うなずいたクレアはグレンに向かって道の先を黙って指す、彼はうなずいて右手をあげると前へと出た。
「行きますよ。離れずに付いて来てください。ルドルフさんはレイナさんの後ろをお願いします」
「あぁ。わかった」
クレアはグレンが動くと振り向いてレイナとルドルフに指示を出した。ルドルフは真顔でうなずいた。レイナは複雑な表情をしていた。クレアとグレンが互いに仕草だけで意思の疎通をしていたのが、うらやましく少しだけ寂しかったのだ。
グレンを先頭にクレア、レイナ、ルドルフの順で四人は山道を進む。
「うん!? 止まれ! 霧が……」
振り向いて三人を止めるグレン、道の先に霧が立ち込めて先が見えなくなっていた。
「この先は…… 確か……」
クレアはポケットから水晶を取り出し、胸から下げている職員証を水晶にかざす。白い光が水晶から伸びて地図を表示した。
「霧の向こうに廃棄された製材所がありますね……」
地図を見ながらクレアがつぶやく霧が立ち込めている道の先は、ジャスミンたちが連れて行かれた集落となっていた。
「ならそこがあいつらの巣で隠しているのか……」
「えぇ。連れ去られたのは女性三人…… 何が行われているかは想像できます」
クレアとグレンが顔を見合せてうなずく。ミストゴブリンが女性をどのように扱うか二人はわかっていた。グレンは右手をクレアの前に指し出した。
「なら急がないとな…… クレア義姉ちゃん…… やすらぎの枝を……」
「いえ…… ここは」
にっこりと微笑みクレアは視線をレイナへと向けた。急にクレアに見られたレイナは驚く自分を指して声をあげる。
「ふぇ!? わっわたし?」
「はい。力を貸してください」
「えぇ!?」
驚くレイナにクレアはほほ笑んだままうなずいたのだった。レイナはさらに驚いていた。クレアの視線が彼女が持つ鞄へと下りていくのだった。




