第240話 似た者姉弟
グレン達から数十メートル先…… 霧の中をうごめく数十体の小型の魔物がうごめいていた。
彼らは醜い顔をし手には手斧や粗末な石の剣を持ち、人間の子供くらいの大きさの赤い目に白い肌を持つゴブリンだった。この白いゴブリンはミストゴブリンという。森に生息しシャーマンであるミストゴブリンマージをリーダーに持つ。ミストゴブリンマージが魔術で霧を作りだし森に迷い込ませ獲物を狩るのだ。
ミストゴブリン達の目には青い鎧を着た神聖騎士ウォルターが膝をつく光景が映っている。彼の横には鞄を開けたまましゃがんだレイナが見える。
「大丈夫ですか?」
「はっはい……」
ウォルターをレイナが支えて、彼女の右手には緑の煙を吐く薬玉が握られていた。二人をかばうように剣を抜いたルドルフが前に立ち振り返った。
「ここは私は任せて逃げなさい」
「いやです。私だって戦えます!」
「戦闘に民間人を巻き込むわけには……」
「はぁ!? 巻き込ないですって!! いまさら何を言っているのよ! 巻き込みたくないならさっさと倒しなさい!」
ミストゴブリンを指してルドルフを怒鳴りつけるレイナだった。ルドルフは前を向いて苦い顔をするのだった。
「ぐぬぅ…… さすがにグレンの姉上だな…… 無茶苦茶なことばかり言う…… でも…… 間違いじゃない」
口元を緩ませルドルフは前に出て右手に持つ剣を強く握った。
レイナとウォルターの後ろには、福音派のシスターが十人ほどいて怯えた表情をしている。彼らの後ろにはチャーターした二艘の魔導ゴンドラが見える。
ルドルフとウォルターは福音派の信徒を連れ、魔導ゴンドラでツリーローダーへ向かう途中でミストゴブリンに襲われた。レイナは徒歩でフォレストワールからツリーローダーへ向かう途中で霧に巻き込まれたルドルフたちに遭遇したのだ。
前に出たルドルフに手斧を持った二体のミストゴブリンが飛び掛かって来た。
「ぬう!!!」
「「ギギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」」
ルドルフは横に剣を振り抜いた。鋭くの伸びた銀色の剣は二体のミストゴブリンを横に真っ二つに切り裂いた。
「ふん! たわいもない」
地面に落ちたミストゴブリンの下半身をルドルフは蹴り飛ばす。放物線を描きミストゴブリンの下半身は仲間達の前へと落ちる。ミストゴブリンは落ちた仲間の下半身を見て後ずさりする。
「舐めるなよ! 我は聖騎士ルドルフ! 聖女オフィーリア様より大陸の守護を任せれし者である!!!!!!!!」
剣を構えルドルフは大きな声でミストゴブリンを怒鳴りつけた。彼の迫力にミストゴブリン達は後ずさりを始めた。
「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
ミストゴブリンの後方から声が上がった。集団が左右に別れるとそこには、腰巻を巻いただけの周囲のミストゴブリンとは違う一匹のミストゴブリンが立って居た。そのミストゴブリンは他のミストゴブリンより一回り大きく頭に角が生えた山羊の骨を被っている。手には首には動物の牙で出来た首飾りをさげ、右手に動物か魔物の大きな骨の棍棒を持ち左手には骸骨が先端についた棒を持っている。現れたのはミストゴブリンのリーダーミストゴブリンマージである。
「あれは…… どうやらこいつらのリーダーのようだな。あいつを倒せば……」
ルドルフは膝を曲げ腰を落とし両手で持つ剣に力を込めた。ミストゴブリンマージは左手に持つ棒を天にかがげ左右に動かした。棒の先端に取り付けられた骸骨の目の部分が紫に光り出して鈴のような音が周囲に響いた。周囲に霧の色が紫色へと変わっていく。
「なんですか…… 紫の霧……」
「動くな!!!」
怯えて後ずさりしようとしたレイナに向かってルドルフが叫んだ。ビクッと一瞬震えてレイナは立ち止まった。
「この霧はポイズンミストだ…… 紫は…… 麻痺毒だからな。大量に吸い込んだら動けなくなるぞ」
「わっわかったわ。こうなったら私が」
「大丈夫だ。任せておけ」
開いた鞄へ手を突っ込むレイナに、首を横に振り自分に任せろと告げルドルフは前を向く。
「慈悲深き女神アーリアよ…… 我に闇に逆らう力を与えたまえ……」
胸くらいの高さでルドルフは左手を空へ向けた。彼の左手が白く光りだすと右手をあげ剣を水平に左手に乗せた。ルドルフは左手で剣を撫でるように動かした。左手の動きに合わせて剣が白く光り出す。
「はああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
天を突き刺すようにルドルフは剣を掲げた。刀身が強烈な光を放ち周囲を照らした。ミストゴブリンやレイナたちは真っ白な光に照らされ見えなくり消えて行った。
「「「「「「ぎいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」」」」」」
不意に強烈な光に照らされ、目がくらみミストゴブリン達は悲鳴のような声をあげた。
「ぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」
ミストゴブリンマージも同じような声をあげ必死に棒を前に出して光を防ぐ。ルドルフの光は周囲の霧を吹き飛ばす。にやりと笑ったルドルフは剣を構え地面を蹴って駆け出し前に出た。
「はっ!!」
ミストゴブリンマージとの距離を詰めたルドルフは剣を振り下ろした。ミストゴブリンマージはルドルフの剣に何とか反応し、左手に持っていた棒の先端を剣へ向けた。大きな音が響くミストゴブリンマージの骸骨の前に光に盾が出来てルドルフの剣を防いだ。
「無駄だ!!! ふん!!!」
剣を止められたルドルフは力任せに両手を押し込んだ。ガラスが割れるような音がして光の盾は砕かれた。ミストゴブリンマージが衝撃で左腕を上げた姿勢で、後ずさりし光の盾を砕いたルドルフの剣が目の前を通過していった。
淡々と素早く剣を引くルドルフは視線を目に向け、鋭い眼光をさらに強く鋭くした。彼の視線にはがら空きとなったミストゴブリンマージの胸が見えていた。
「逃がさんぞ!」
叫びながら彼は剣先を前に向けた前に出て両腕を突き出した。鋭く伸びたルドルフの剣はミストゴブリンマージの胸へと突き刺さる。鈍い音が周囲に響きミストゴブリンマージの体をルドルフの剣が貫通した。ミストゴブリンマージの顔が苦痛に歪む。
「ぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!」
甲高い悲鳴をあげるミストゴブリンマージだった。悔しそうに剣を前にだした姿勢のルドルフを睨むミストゴブリンマージは最後の力を振り絞り、棒を捨て剣を掴み右手に持った骨の棍棒を振り上げた。
「ふん!!」
ルドルフは両手に力を込めると、剣を持ち上げ横に勢いよく横に動かした。剣に突き刺さっていたミストゴブリンマージは剣から抜けて飛んで行った。ミストゴブリンマージは放物線を描き近くにいたミストゴブリンをにぶつかった。
「「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」」
二匹のミストゴブリンがミストゴブリンマージの下敷きになり悲鳴をあげていた。剣を戻してルドルフは構えると口を大きく開いた。
「お前達も逃がさんぞ!!」
声を張り上げたルドルフが駆け出しミストゴブリンへと向かって行った。距離をつめ剣を一振りしてミストゴブリンを斬りつけた。白い輝きを放つルドルフの剣が、上下左右に動き度にミストゴブリンたちが次々に倒れていく。
リーダーを失ったミストゴブリンたちは混乱し、たった一人のルドルフに対しても何もできず次々に彼に倒されていった。




