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第24話 待ち時間にお話を

 キティルとエリィとタイラーの三人は、草原をオーガが住み着いた砦を目指して街道を進んでいる。彼らの周囲には緑の起伏に飛んだ草原が広がっている。街道は草原の草を刈り左手側だけに、柵を作ったもので見える先までずっと続いていた。

 砦までは歩いて数時間ほど、早朝にテオドール発った三人はそろそろ砦に着くはずだ。エリィとキティルを先導していたタイラーが立ち止まった。彼は右手を伸ばして指を指し振り返った。


「あの丘から仲間が砦を見張っている。木の根元に居るのが僕の仲間だよ」


 タイラーが指した先は街道から少しそれた小高い丘だ。丘の上には青々と葉が茂る、大きな木が生え根元には二人の男が立っていた。

 男の一人は小太りでボサボサ頭に糸目で鉄の胸当てをつけ、背中に丸い金属製の盾を背負い腰にはメイスをぶら下げている。もう一人は紫色の肌に尖った耳で頭に角の生やした魔族で、上下黒のシャツとズボンに灰色の長いコートを羽織って細長い剣を腰にさしていた。

 三人は街道を外れて木が立つ丘へと登った。丘の登った二人に少し離れた場所に、ここよりやや低い丘があるのが見え、そこに城壁が崩れた古い小さな砦が建っていた。この砦がオーガ住み着いた砦だ。男達はタイラー達に気づくと近寄ってきた。


「よぉタイラー! 遅かったな」

「その二人が例の……」


 小太りの男がにこやかに声をかけ、続いて魔族の男がキティルとエリィを見て口を開いた。タイラーは小さくうなずくと振り返り、自分の少し後ろにいるエリィとキティルに声をかける。


「ボルリノ、こっちはビーロだ。こちらはキティルさんとエリィさんだ」

「よろしく。ボルリノだ」

「ビーロです。よろしくお願いします」


 メイスを持ち小太りの中年がボルリノ、魔族がビーロという名前らしい。二人は新しいインパクトブルーのメンバーだった。


「エリィです」

「キッキティルです。よろしくお願いします」

「そんな硬くならないで良い。しばらくは仲間なんだからよ」


 緊張した様子で挨拶をするキティルとエリィに、ボルリノが優しく二人に声をかけ和やかな空気に包まれる。


「それともう一人いるんだ…… あれ!? あいつはどこにいった?」


 タイラーは首を横に動かして誰かを探しているようだ。


「上よ」


 声に反応したタイラーが見上げた。彼の目には白のロングスカートに包まれた、茶色のブーツを履いたスラリと伸びた褐色の細い足と、その奥に見える水色と白のシマシマの下着がタイラーの目に入った。


「早く下りて来い。オーガを討伐に参加してくれる助っ人を連れて来たぞ」

「はいはい」


 木の上から女性が飛び降りてきた。彼女は褐色肌に銀色のストレートのロングヘアで頭には、魔族の特徴である渦巻いた羊のような角を生やすぱっちりとした目に赤く瞳を持つ美しい女性だった。

 服装は白いロングスカートに襟が丸く特徴的な上着を羽織り、身長と同じくらい長い弓と矢が入った矢筒を背負っていた。

 女性はニコッと笑ってエリィの前へと歩み寄り右手を前に差し出した。エリィは一瞬戸惑って手を出すのを躊躇したが差し出された女性の手を握って握手した。


「私はメルダ。このパーティのヒーラーよ。よろしく。あなた達がエリィ、キティル…… 噂通りの優秀そうな美少女二人組ね」

「えっ!? そんな優秀だなんてたまたまですよ」

「(エリィ…… 美少女ってところは否定しないんだ……)」


 メルダと名乗った女性に褒められたエリィは恥ずかしそう視線をそらし、キティルはエリィの態度に呆然としている。エリィの様子を見てメルダは優しく微笑む。


「そんなに謙遜しなくてもいいのよ。テオドールオオジカを倒すなんて並の新人にはできないことよ」

「えへへ」


 エリィはメルダの言葉に下をむいて恥ずかしがり頭をかいていた。続いてメルダはキティルとも握手をした。メルダの視線がエリィの背負った杖に向いた。


「あなたも魔法使いなのね。私は弓が専門で回復魔法は親に教わっただけなの。あなはどんな魔法が使えるの?」

「えっ!? その…… 私は…… 学校卒業したばかりで修行中なんで…… そんなにすごい魔法は……」


 緊張したキティルはうまく返答ができずにうつむいてしまった。


「そう。まぁ誰しも最初は初心者だから大丈夫よ」


 うつむくキティルにメルダは、優しく声をかけるのだった。二人の握手が終わると、二人の前にタイラー達が並んだ。


「皆そろったね。今回は特別にキティルさんとエリィさんに参加してもらってる。二人共改めてよろしくね。僕達が冒険者パーティ、インパクトブルーだ」

「「はい! よろしくお願いします!」」


 エリィとキティルが元気に返事をした。四人はその様子をにこやかに見つめていた。自己紹介が終わり、タイラーはすぐ横に立つメルダに真剣な表情を向けた。


「メルダ。それでオーガは?」

「まだ帰ってないわね。みんなこの辺の街道を避けるようになったから、獲物を求めて遠出をしてるんでしょう」

 

 タイラーは砦に目を向けた。ひっそりと静まり返ったボロボロの砦は、昼間で明るくても不気味に見える。


「わかった。じゃあ戻るまで野営をしてここで待つぞ」


 小さくうなずいたタイラーはパーティに指示を出すのだった。

 しばらくして…… 辺りは薄暗くなったがオーガはまだ戻らない。六人は交代で見張りをしながら、焚き火を囲みオーガ戻るのを待っていた。


「そろそろ食事だな。じゃあ僕が作ろう」

「わっわたしお手伝いします」

「ありがとう。キティルさん」


 食事の用意を始めたキティルとタイラー、ボルリノが砦の見張りビーロとエリィとメルダは焚き火を囲んでいた。エリィの隣に座ったメルダが彼女に声をかける。


「あなたも弓を使うのね」

「えっ!?」


 メルダはエリィが背負った弓を指して微笑む。メルダも弓を持っており同じ武器に興味を持ったようだ。


「見せてもらっていいかしら?」


 優しく問いかけるメルダ、エリィは背負っていた弓に右手を、つかんで取り出しメルダへ差し出した。


「はっはい。どうぞ」

「ありがとう」


 礼を言って弓を受け取ったメルダはまじまじとエリィの弓を見つめ、ちいさく感心したようにうなずいている。エリィはその様子を緊張した面持ちで見つめていた。


「よく手入れされてるわ。あなたなかなかいい腕をしてるわね」


 弓をエリィの前に出してほめるメルダ。弓をメルダから受け取ったエリィは嬉しそうに答える。


「そんなぁ。私なんてまだまだ」

「道具を見ればその人間の腕前はわかるものよ」

「えへへ。ありがとう。メルダさんの弓は珍しいですね。すごい大きいですね」


 メルダの背中の弓を見てエリィが答える。チラッとメルダは自分の背中の弓に視線を向けた。


「これは代々私達一族が使ってる弓なのよ。魔大樹の大弓って言ってその名の通り魔大樹って木から出来てるのよ」

「ほぇ……」


 ジッと目を輝かせるエリィ、メルダは立ち上がって背中の弓に手をかけて外しエリィの前へと差し出した。


「はい。ちょっと見ていいわよ。さっきあなたの弓を見せてくれたお返し」

「良いんですか? やった」


 エリィは立ち上がり、メルダから弓を受け取った。嬉しそうに目を輝かせてメルダの弓を触って感触を確かめるエリィだった。


「持ちやすくて思ったよりも軽い…… すごいです!」

「大した物じゃないわよ。あなたはもっとすごい物を持ってるでしょ?」

「えっ!? いえ…… 私の武器はこんなに……」


 メルダの言葉に意味がわからず、驚いて否定するエリィ。メルダは彼女の言葉を遮るようにして口を開き言葉を続ける。


「違うわ。槍と弓じゃなくてテオドールオオジカからでた銀の短剣……」

「持ってないですよ」

「えぇ!? どうして!? 売ってしまったの?」


 あっけらかんと銀の短剣を持ってないというエリィ、メルダは目を見開いて驚く。そして……


「売りません!!!!!!!!」

「えぇ!?」

「だから! 絶対に売りません!!!!!!!!」


 二人の会話のどこを聞いていたのか、食事の用意をしていたキティルが叫びだした。メルダは彼女の反応に口をあんぐりと開いて唖然としていた。


「キティル! 違うのよ。売らないわよ」

「ほっ」


 エリィはキティルをなだめてからメルダに顔を向け話しを始めた。


「ごっごめんなさい。ちっ違います。今は持ってないんですよ。調査をしたいって言われて冒険者ギルドに預けてあるんです」

「えっ!? あっ…… そっそうなの……」


 メルダはエリィの言葉を聞いて残念そうにして下を向いた。


「冒険者ギルド…… チッ!」


 聞こえないくらい小さい声で、メルダが悔しそうにつぶやき舌打ちをした。エリィはその様子が気になって首をかしげいてる。


「おい! オーガが戻って来たみたいだぜ」


 見張りをしてボルリノが慌てた様子で焚き火の前へ来た。


「わかった。火を消せ。飯は後回しだ!」


 タイラーの指示でビーロが砂をかけて焚き火を消した。灯りを失い辺りはすぐに暗くなる。


「ブオーーーーーーン!!!」


 砦からオーガのものと思われる大きな鳴き声が響いた。


「僕が先行する。ボルリノとエリィとビーロは僕に続け。メルダとキティルは後方からみんなのフォローを頼む。じゃあ行くぞ」


 タイラーが指示をだして、六人は顔を見合わせてうなずいた焚き火から離れ、タイラーの指示通り隊列を組んだ六人は砦に向かって闇の中へと消えて行った。

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