第228話 木の町の冒険者ギルド
ディープスグランのフィエロ区がある、デオデフの木は一番小さく中も狭い。これはディープスグランの町がフィエロ区から作られたからである。深い森と変わりやすい天候に加え、魔物が多く徘徊する深層の大森林では町の建設が難航した。開発最前線の移動に間に合わせるため、デオデフの木に仮に町を作った。町が建設されると雨風をしのげ硬いデオデフの木が天然の城壁になることが分かり、ディープスグランの町はデオデフの木を使って拡張されていった。
「えっと…… 確か教会の…… あそこです」
クレアとグレンの二人はフィエロ区の中心へとやってきた。フィエロ区の中心には教会があり、囲むように円形の道がある。教会の向かいに各種ギルドが並んでいた。
二人はクレアが指した教会の左手にある三階建ての建物へと向かう。建物の軒先に冒険者ギルドを示す、宝箱の後ろに剣と剣が交差する看板がぶら下がっている。
「ここがディープスグランの冒険者ギルドですよ。お邪魔しまーす」
クレアが冒険者ギルドの扉を開け中へ入る。グレンも彼女に続いて扉をくぐる。扉の向こうは左手に四人掛けベンチが三つ置かれ背後の壁に依頼が張り出された掲示板が置かれ、右手の壁際に三つの窓口があるカウンターが見えた。建物の奥の右側カウンターの中に扉がある。
「けっこう狭いんだな」
「えぇ。ここは受付だけですよ。土地が狭いですからね。ギルドに酒場がない代わりに各地区に教会運営の食堂があって冒険者は割引で食べられます」
ディープスグランは土地が狭いため冒険者ギルドは小さくまとまっていた。また、受付のピークがずれた時間のようで冒険者は二人だけ掲示板の前にいるだけだった。
「うん!?」
カウンターに中へ目を向けたグレン、奥の扉が開いて一人の女性が出て来た。女性を見て少し驚いた顔をしたグレンは横に立つクレアに視線を向けた。
「あれってさっきゴンドラに乗っていた人と同じ服を……」
カウンターの奥の扉から出て来た女性は、大樹案内人の制服を着ていた。クレアは視線をカウンターに向け小さくうなずいた。
「はい。魔導ゴンドラの運営は教会ですからね。各種ギルドの人達が大樹案内人業務を兼任しているんですよ」
「そうなんだ……」
魔導ゴンドラの乗務員である大樹案内人は専門の乗務員ではなく、各ギルドの職員が兼任している。グレンはクレアの言葉を聞いて小さくうなずいた。
カウンターが開く音がしてグレンとクレアの元へ、先ほど扉から出来た大樹案内人の制服を着た女性がやってきた。
「てっテオドール冒険者ギルドの方でござるか?」
「はい。そうです」
女性はややどもった声で二人に声をかけ、クレアが返事をした。大樹案内人の制服を着た彼女は耳が尖ったエルフで厚いレンズの眼鏡をかけ灰色の髪を後ろに束ねている。レンズの厚い眼鏡のせいで瞳が見えないせいか地味な感じ女性だった。
「せっ拙者はディープスグランの冒険者ギルド受付担当のジャスミンござる。よっよろしくお願いしますでござざる」
「クレアです。こちらはグレン君です。よろしくお願いいたします」
「よろしく」
女性の名前はジャスミンという。年齢は同じ十八歳でディープスグランの冒険者ギルドで受付を務めている。ジャスミンあ名乗ると静かに頭をあげ体を横に向け、彼女が出て来た奥の扉を手で指した。
「はっ話は聞いているでござる。拙者と一緒に奥へ行くでござるよ」
「わかりました。グレン君。行きますよ」
「おう」
ジャスミンはうなずきグレンとクレアを先導して歩き出した。カウンターの中へ二人を招き入れジャスミンは奥の扉に手をかけ開こうと……
「いた!!」
「だっ大丈夫ですか」
「はっはい…… めっ面目ないでござる」
扉を開けたジャスミンだが、勢い余ってドアを自分の顔に当ててしまった。慌てて声をかけるクレアに眼鏡を押さえながら首を横に振って返事をするジャスミンだった。
「さぁ。こっちでござるよ」
ジャスミンは頬を赤くして扉を開け一人で先に入ってしまった。恥ずかしくて早く行きたかったようだ。ゆっくりと扉が閉まりグレンが口を開く。
「あの人も大樹案内人なんだな…… さっきみた人とは全然違うような……」
「こーら! 失礼なこと言わないんですよ」
「あぁ。わかったよ」
ドジなジャスミンとさきほどすれ違った優雅な大地案内人を比べるグレンをたしなめるクレアだった。
二人はジャスミンを追いかけ扉を開け冒険者ギルドの奥へ向かう。カウンターの先は十メートルほどの短い廊下になっており扉を出て左側へ伸びていた。二人が出てくるとジャスミンが声をかけてくる。
「こっちでござる」
廊下の先を指した彼女は先導を始める。廊下の先は階段になっており三人は二階から三階へ上がった。三階の廊下の端にある部屋の前にジャスミンは止まり扉をノックする。
「おっお二人をお連れしたでござるよ」
部屋の中へ声をかけジャスミンは扉を開けた。扉を押さえた彼女はグレン達に体をむけ中へさした。
「どうぞでござる……」
「ありがとうございます」
クレアとグレンの二人は部屋の中に入る。部屋の中は執務室で左手に本棚が並び、奥の壁にある窓の前に黒塗りの机が置かれ男性が一人が席に座っている。
「こんにちは君達がクレアさんにグレン君だね」
座っていた白い修道服を着た男性が立ち上がりグレンとクレアに頭を下げた。黒い紫がかった髪に細い目に紫の瞳を持つ真面目そうな男性だった。
頭をあげた男性は胸に手を置いて名乗る。
「僕はジーグルド。聖女オフィーリア様からここを任されている」
「クレアです。よろしくお願いします」
「グレンだ。よろしく」
男性はジーグルド司祭という。彼の年齢は二十八歳でディープスグランの冒険者ギルドのギルドマスターを務めている。
挨拶が終わるとジーグルドは席に戻りグレンとクレアは彼の机の前に並ぶ。ジーグルドの机の横にジャスミンが立つ。ジャスミンはおどおどしながら口を開く。
「あっあの…… お茶でも淹れるでござるか?」
「えっ!? 気を遣わないで大丈夫ですよ」
「そっそんな……」
「わっわかった。お願いします」
ジーグルドに断られるとジャスミンはしょんぼりとする。彼女の様子に気まずくなったジーグルドは渋々茶を淹れることを了承した。
顔をあげぱあっと顔を明るくしたジャスミンは部屋を出ようと扉へ向かって行く。
「失礼するでござる…… いた!! めっ面目ない……」
三人に声をかけ出ようと扉を開けたが、ジャスミンはまた顔に扉をぶつけていた。すぐに眼鏡をなおした彼女は扉を出て行った。
「騒がしくて申し訳ないね」
「いっいえ……」
「ゴホン! じゃあ話を……」
恥ずかしそうにクレアとグレンに謝るジーグルドだった。彼は気を取り直すと咳ばらいをして話を始める。
「キーセン神父から話は聞いてます。福音派の聖者の復活日の調査をしたいと……」
「はい」
うなずくクレアにひじ掛けに両手を置き渋い顔をするジーグルドだった。
「ふぅ。聖女オフィーリア様は福音派との融和を望んでおられます…… あなた達の行動は聖女様のご意思に背くとおもわれますが?」
クレアにやや強い口調で尋ねるジーグルドだった。教会の指導者である聖女オフィーリアは福音派との争いを禁止し融和を指導していた。ジーグルトはグレンたちの行動は福音派をいたずらに刺激し過激な行動を誘発するのではと危惧していた。
彼の問いかけに答えたのはクレアではなくグレンだった。




