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第206話 迫る波に決断を

「キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 シルバーリヴァイアサンの今までに聞いたことのないような、大きく激しい鳴き声が響いた。あまりの大きな声にグレン達は思わず耳を塞ぐ。


「うわああああああああああああああああああ」

「キャっ!」

「おっと!!!」


 砂上船が激しく揺れ動いて船首がわずかに上がって斜めになっていく。バランスを崩したキティルをグレンが腕を伸ばして彼女を捕まえた。グレンに腕を掴まれ振り向いたキティルは頬を赤くした。ただ、すぐに彼女の顔を青ざめていく。


「グレンさん!!! あれ!!!!!」

「なっ!? 砂が…… 波か…… クソ!!!」


 キティルがグレンの背後を指さした。振り向いたグレンが驚きの声を上げる。砂が舞い上がり壁のようになって砂上船へと迫ってきているのが見えた。シルバーリヴァイアサンにより砂海の砂が舞い上がり巨大な波となって砂上船へと迫って来たのだ。


「飛んで逃げるのは無理か……」

 

 船の甲板が暗くなる。モニー浮遊島を囲む岩山から発生した砂の波は高さ空へと届くほど高くなってりさらに上へと伸びていっていた。すぐに飛んで逃げよたとしても間に合わずに砂の海に飲まれてしまうだろう。


「グレン君! ルナライトを使って賢者の石の場所を探してください」

「あっあぁ!!」


 シルバーリヴァイアサンを指して叫ぶクレアだった。グレンはキティルから手を離すと、すぐに左手の指を二本立てこめかみに持って行きすぐにシルバーリヴァイアサンへと向けた。


「ない…… どこにも…… どこだ!!! クソ!!!」


 光った指先を移動させシルバーリヴァイアサンをなぞるグレンだったが彼の表情が焦っていく。激しく擦れるような大きな音が近づいてくる。波が砂上船を飲み込もうと猛スピードで向かって来ていた。

 キティルは怯えた様子で迫って来る波を見つめている。彼女がふと視線を動かすと高く上がった砂の波にモニー浮遊島にも迫っていた。キティルは目を大きく見開きモニー浮遊島を指してグレンに向かって口を開いた。


「グレンさん! 浮遊島じゃ!?」

「えっ!? おぉ!!! モニー浮遊島の真下! 砂海の中に賢者の石がある」


 ルナライトの力でグレンはモニー砂海に隠された賢者の石を見つけた。


「あれを破壊すれば止まるはずだ!!」


 砂海を指して叫ぶグレンだった。メルダは彼が指す砂海を静かに見つめたままクロースを呼ぶ。


「クロース! 私が射抜くからもう一度特殊能力を……」


 メルダはクロースが身に着けている蒼眼の発掘人(ブルーアイズスカウト)を使って砂に埋もれる賢者の石を自らが破壊すると申し出た。だが、クロースは彼女を見て小さく首を横に振って残念そうにつぶやく。


「ダメですわ。あれは一回だけのお試しですのよ…… 今のあなたに特殊能力を使うことはできませんわ」

「なっ!? クソ!!!」


 蒼眼の発掘人(ブルーアイズスカウト)で特殊能力を使えるのは一度のみだった。告げられた事実に悔しそうに拳を握るメルダだった。

 悔しがるメルダの横でグレゴリウスが迫る砂を心配そうに見ていた。オリビアは彼の肩に手を置き皆に聞こえるような大きく口を開いた。


「じゃあ四の五の言わずに行って破壊するだけだ。波と私達…… どっちが早いかだな。クレア! 私を連れて行ってくれ!!」

「はい。行きましょう。オリビアちゃん」

「俺も行く」


 うなずいて返事をするクレアに満足そうに笑うオリビアだった。グレンはすぐに飛び出した。


「ラウル! 波の中心に向かえ! 出来るだけ波に飲み込まれる時間を稼ぐんだ」

「あぁ。やってみるわい」


 返事をしたラウルはすぐに鍵盤をたたき砂上船を円形で迫る波の中心へと持って行く。


「キティル! 君はファイアウォールで船を守ってくれ! クロースとメルダは彼女を手伝ってくれ」

「わかりました」

「えぇ。頼んだわよ」


 メルダとクロースが返事をするとクレアはオリビアを抱え飛び出した……


「うわああああああああああああ!!!! オッちゃん!!! 助けて……」

「へっ!?」

「あぁ。すまん外すの忘れてた……」


 驚いた顔をするクレアの目にオリビアの腰から伸びたロープの先に必死にスカートのすそと帽子を押さえるグレゴリウスがぶら下がっているのが見えた。オリビアはロープを持って揺れないように支えていた。


「クレア! 船に戻ってくれ。グレを……」


 オリビアは船に戻るように告げるがクレアは首を大きく横に振った。


「いえ時間がありません。このまま飛びます。グレゴリウス様は軽いですし…… 二人は一緒に居た方がいいですよ」

「そうか…… じゃあグレ!」

「わっわ!」


 笑顔で返事をしたオリビアはグレゴリウスとつながった縄を引き寄せて抱えた。


「ふぅ……」


 オリビアに抱えられてスカートの裾をはていて一息つくグレゴリウスだった。三人が先に飛んでいたグレンの元へとやって来た。


「うん!? グレゴリウスも連れて来たのか?」

「あぁ。私達は一緒だからな」

「そっか……」


 得意げな顔をするオリビアにグレンは微笑んでいた。グレゴリウスは少し気まずそうにしていた。


「さあ…… クレア! 私の宝石の場所へ連れて行ってくれ!」

「わかった。行こう。義姉ちゃん!」

「はい」


 前を指すグレンにうなずくクレアだった。三人はモニー浮遊島へと向かう。速度を上げ急ぐ三人の砂の波は猛スピードで迫って来ていた。高い砂の壁が三人を覆い周囲は薄暗くなっていた。


「キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」


 鳴き声が聞こえる振り向くと目が真っ黒に抜けた、シルバーリヴァイアサンがグレン達へと迫って来ていた。


「クソ! シルバーリヴァイアサンの野郎…… 義姉ちゃん! 先に行け!! 俺がここで食い止める」

「でっでも……」

「大丈夫。俺はどこにも行かねえ。すぐに追いつくから」

「わかりました。約束ですよ! 絶対ですよ!!!」


 泣きそうな声で叫びながらクレアは前を向いて飛んで行く。グレンは止まってシルバーリヴァイアサンを迎え撃つのだった。


「キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!」


 シルバーリヴァイアサンはグレンに噛みつこうと、大きく口を開けて迫って来ていた。グレンは大剣を持つ両手に力を込めて構えた。

 

「はああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」


 横からシルバーリヴァイアサンに向かって大剣をグレンは振り抜いた。硬く重い衝撃がグレンの両手に伝わってきた。シルバーリヴァイアサンは頭を横にした姿勢で砂海へと落ちていった。

 砂が舞い上がりシルバーリヴァイアサンが一時的に見えなくなる。


「!!!」


 砂の中から鋭く尖ったシルバーリヴァイアサンの尻尾がグレンへと向かって鋭く伸びて来た。グレンはとっさに大剣を垂直にして盾にした。グレンの大剣にシルバーリヴァイアサンの尻尾が激突する。グレンの体が浮き上がりそうな衝撃が襲うが彼は何とか耐えた。


「クぅ…… やるじゃねえか」


 大剣で尻尾を受け止めにやりと微笑むグレンだった。舞い上がった砂が薄くなってり中からシルバーリヴァイアサンが現れるのだった。


「グレン君……」


 オリビアを抱えながら心配そうにつぶやくクレアだった。猛スピードで三人はモニー浮遊島の下まで飛んで来た。砂海の上に立ち空を見上げるとモニー浮遊島を覆うような高い波が迫って来ていた。

 モニー浮遊島は周囲の状況に左右されることなく上から砂を降り注いでいた。


「賢者の石の正確な場所は…… グレン君がいないと……」


 クレアが困った顔をしているとオリビアがメイスを抜いた叫んだ。


「こうなったら手当たり次第だ!!」


 腰を落としてメイスを突き出したオリビアだった。彼女の前の砂が細長く盛り上がっていき伸びていく、猛スピードでオリビアの一撃が砂海の中を進んでいっている。


「そうですね!!!」


 両手の指を広げ顔の横に上げたクレアは指先を前にだして突き出した。光の剣が指先から伸びていき砂海へと突き刺さった。クレアとオリビアと同じことを何度も繰り返した。

 砂の波は倒れていきグレン達を覆い隠し周囲は真っ暗になった。残された時間はわずかだった。


「はあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」


 迫る砂の波の中でオリビアが最後に一撃を砂海へと放った。闇を切り裂きながらオリビアの一撃が砂海を伸びて行った……

 きしむような音が大きくなって二人の耳に届く。もう砂の波が寸前まで迫って来ていた。グレン達の体が影に覆われた彼らは波にのまれ砂の藻屑へと……


「キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」

「!!!???」


 呆然とするグレン、彼の目の前に浮かんでいたシルバーリヴァイアサンが力なく地面へと落ちていく。影に覆われたいた彼の顔にわずかな日が差し込み徐々に大きくなっていく。

 すんでのところでオリビアの一撃は賢者の石に命中した。賢者の石は破壊され動力源を失ったシルバーリヴァイアサンは停止し砂海を進んでいた波は崩れたのだった。

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