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第203話 強者は声を上げる

 大剣を左肩に担ぎグレンは砂海から、二十メートルほどに浮かんでいた。

 右手の人さし指と中指を立てこめかみに当て、彼はクレアに叩かれて落ちようとしているシルバーリヴァイアサンへ視線を向けていた。神経を指先に集中しグレンはシルバーリヴァイアサンへ向け手を突き出した。


「月の精霊よ。何事をも見通すその輝きで我に道を示せ! ルーナクリア!」


 グレンの指先が黄色く光りだした。月の光によってグレンの目にシルバーリヴァイアサンの透過されて見える。


「あった! 胸…… それに…… 二つの目か……」


 視線を動かしてうなずくグレンだった。彼の目に映るシルバーリヴァイアサンの眼と胸に小さな球体が青く光っている。丸い球体がシルバーリヴァイアサンの動力である賢者の石を示している。


「義姉ちゃん! 見つけた! 胸と目だ!」


 グレンが顔をあげクレアに向かって叫んだ。大剣を右肩に担いでたクレアは左手を上げ、グレンに顔を向けほほ笑む。


「ありがとうございます。じゃあ後は……」


 グレンに礼を言いシルバーリヴァイアサンへ顔を向け、左手を大剣へと持って行きクレアが構えた。


「えっ!?」


 シルバーリヴァイアサンが目が青く光り頭を上げ体勢を戻すと上空へと上っていく。クレアが追いかけようとした直後シルバーリヴァイアサンが顔を空に向けて吠え翼を大きく広げた。


「キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!」


 周囲に暗雲が立ち込めシルバーリヴァイアサンが広げた翼の前に数百の光の球が現れた。光の球は直径三十センチほどの大きさで青く光っている。


「クッ!!」


 シルバーリヴァイアサンが翼を激しくはためかした。激しい風がグレン達へと吹き付け近くにいたクレアが大剣を前に出した。同時に光球が一斉にクレアへと向かって行った。

 数十個の光の球が一斉に青い光線を発射する。クレアは上空へと飛んで行き光線をかわした。光の球は彼女を追いかけ光線を放った。


「はっ!!!」


 迫って来る光線を回転してかわすクレアだった。しかし、彼女の前に光の球が回り込んで来て並んだ。クレアは真剣な顔で光の球を見た。


「はっ!?」


 クレアが急停止する。周囲に視線を向けるとクレアは五十を超える光の球に囲まれてしまっていた。彼女は冷静に左手を大剣から離し光の大剣を作り出した。

 光の球が光線を一斉に発射した。四方八方から光線がクレアに襲いかかる。素早くクレアは前に出た前方から光線が迫って来る。


「はあああああああああああ!!!」


 クレアは右腕に持った大剣で光線を薙ぎ払う。さらに前に出続け右腕を戻しながら左腕の光の大剣で前方に並んだ光の球を斬りつけた。大きな音がして光の大剣に斬られた光の球が爆発する。

 大剣に斬られた光線を弾き返す。はじき返された光線は周囲に光の球を破壊しながら地上へ空の彼方へと飛んで行った。


「ふぅ…… やっかいですね…… 速いです。ちょっとまずいですね……」


 上げていた顔を戻し視線を周囲に向けるクレアだった。クレアの周囲を光の球が囲み光線が発射される。クレアは両手に持った大剣で光線を弾き光の球を退けながら上空へと移動するのだった。

 クレアから五メートルほど上空にはクロースとメルダの二人が居た。二人にもクレアと同様に光の球が向かって来ていた。


「下がってください!!!」

「キャッ!」


 クロースは慌ててメルダを押してどかした。彼女を下がらせ前に立ったクロースは右腕を伸ばす。クロースの右手にハルバードが握られていた。ハルバードを縦にしたクロースは両手を合わせてハルバードを持つ。


「はあああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


 銀色の髪が逆立ちクロースが持ったハルバードの周囲に小さな稲妻が舞った。周囲が薄暗くなり晴天が一気に曇天へと変わった。


「キャッ!!」


 青白い光に照らされるメルダ、激しい音が轟き彼女は思わず耳を塞ぎしゃがんだ。クロースとメルダの周囲に雷が落ちたのだ。周囲は白い蒸気のような厚い煙に覆われ真っ白だった。

 クロースはハルバードを持ったまま息を切らしていた。


「はぁはぁ…… なっ!?」


 白い煙の奥に青い光が見える。周囲の光の球は退けたがさらに追加で光の球が彼女達へ近づいて来ていたのだ。白い煙をかき分け近づいて来た光の球がクロースとメルダの前に並ぶ。クロースは愕然として自分達の前に並ぶ光の球を見つめていた。


「こっこれでは…… いくらわたくしの稲妻でも…… クッ!!」

「えっ!? あんた何をやってるの?」


 クロースはハルバードを背中にしまい、振り向くとしゃがんでいるメルダの上に覆いかぶさった。彼女の行動に驚くメルダにクロースは優しくほほ笑んだ。


「いいから静かにしてくださいな…… あなたを守らないとキティルに怒られてしまいますわ」

「えっ!? あっあんた…… クッ!」

「ふふふ……」


 二人を囲む光の球が青く光り出した。目をつむったメルダの手が震えていた。クロースは優しくメルダの手を握り自分も目をつむるのだった。直後に無慈悲に二人を貫こうとする光線が一斉に発射された。

 激しい爆発音が周囲に響く。


「えっ!? あっあ……」


 目をつむったままのクロースが何も起きなかった静かに目を開けた。驚いて目を見開きクロースは声を震わせる。彼女の視線の先には、かつて自分を何度も救ってくれた茶色の長い髪をなびかせた背中が見えている。

 

「クレア……」


 二人の前にクレアが仁王立ちしていた。クレアが右手に持つ大剣に焦げたような後がいくつでき、彼女の左肩は服が服が破れ血で染まっている。クロースの声に反応しゆっくりと振り向くクレアの左頬が切れ血が垂れていた。クレアは二人を襲う光の球に正面から斬りかかり破壊したのだ。


「ふぅ…… よかった。間に合いました。あら!? 仲良しさんですね」

「「へっ!?」」


 首をかしげてニコッとほほ笑むクレアだった。クロースはメルダをかばおうと彼女に覆いかぶさっていた。メルダとクロースはクレアに言われて自分達の状況を改めて認識し恥ずかしくなっていく。


「クックロース…… ありがとう。どいて……」

「えっ…… あぁ。申し訳ありませんわ」


 頬を赤くしてクロースが立ち上がると、メルダも同じようの真っ赤な顔で立ち上がる。恥ずかしそうにする二人を見てクレアは優しくほほ笑んでいた。


「クレア!!! 来ますわよ!!」

「えっ!?」


 青ざめた顔でクロースが叫びクレアが振り向いた。青い光の球が彼女達へと高速で飛んできていた。


「クロースちゃん。メルダさんを連れて逃げてください」

「そんな…… あなただけを残してはいけませんわ……」

「そうよ。私だって意地を見せるくらい」


 二人に逃げるように指示するクレアだったが、メルダとクロースは拒否して武器を持つ手に力を込める。あっという間に三人は光の球に取り囲まれてしまった。青く光り出す球体に三人は覚悟を決め武器を構えた。その時……


「義姉ちゃん鞄を開けて!!!!!!!!!!!!!!!!」

「えっ!? はっはい!」


 三人の下方からグレンの声が響いた。クレアは彼の言葉に従い自分の腰の鞄の蓋を開けた。


「なっなにを!? グレン君!?」


 開いたクレアの鞄から月菜葉の酢漬けの瓶が飛び出した。飛び出した月菜葉は瓶に張り付き白く光り出していた。グレンの特殊能力は植物を意のままに操ることができる。瓶ごと月菜葉を操作することは出来る。

 月菜葉がさらに強烈な白い光を放つと周囲に瓶が割れる音が響く。同時に光の球から青い光線が発射されるのであった。

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