第202話 取り残さない
高速で飛行するクレアの目前には、巨大なシルバーリヴァイアサンの銀色の鱗に覆われた細長い体が上下に続いている。砂上船から飛び出した彼女は、シルバーリヴァイアサンに気づかれないように尾から頭へ向かって飛んでいる。
視線を上に向けたクレア、二十メートルほど先にシルバーリヴァイアサンの頭部が迫っていた。彼女は右手をかけた、背中の大剣エフォールを勢いよく引き抜き両手で大剣を持って構えた。
「行きますよ」
両手に持った大剣を強く握りしめるクレア、大剣がうっすらと白い光に包まれる。彼女の大剣から光の剣が伸びていた。速度をさらに上げたクレアはシルバーリヴァイアサンのらせん状に移動して顔の前へと飛び出した。
「キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」
目前へと飛び出して来たクレアを見た、シルバーリヴァイアサンは大きな口を開けた。彼女に噛みつこうと素早く前に出るシルバーリヴァイアサンだった。クレアは大剣を構え視線をシルバーリヴァイアサン向けタイミングを計る。
大きな口がクレアを飲み込もうと迫って来る。
「はああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
気合を入れたクレアは横か剣を振り抜いた。クレアの両手にズシリと重い感触がして、耳に激しく何かがぶつかる音が届く。光の剣で巨大化した彼女の大剣が、シルバーリヴァイアサンの横っ面にめり込んだ。
「キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!」
シルバーリヴァイアサンの鳴き声が響く。クレアは重くてしびれた両手に構わず大剣を振り抜いた。
頬をはたかれたように顔を横に向けるシルバーリヴァイアサン、鱗が飛んだのか銀色の細かい光の粒が十数個飛んで行きキラキラと輝いている。クレアは剣を振り切った姿勢で止まる。シルバーリヴァイアサンは顔を横にしながら視線を横に動かしクレアへと向けた。シルバーリヴァイアサンの目が青く光りゆっくりと顔を戻そうとした。
「!!!!」
シルバーリヴァイアサンの目がわずかに大きく開く。視線の先には銀色の髪をなびかせハルバードを縦に持ってクロースが居た。
「まだ終わりじゃありませんわよ」
右手に持ったハルバードを天に掲げるクロース、空が青白い光が下りて来て大きな音が轟く。
「キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
シルバーリヴァイアサンが青白い光に包まれた。クロースが空から雷を呼び寄せシルバーリヴァイアサンへと落としたのだ。シルバーリヴァイアサンの動きが止まり、目の青い光が消えていく肉が焦げたような臭いクロースの鼻に漂う。しかし…… すぐに目を覚ましたシルバーリヴァイアサンは瞳を青く光らせ大きく口を開けた。
「この!!!」
シルバーリヴァイアサンの頭上にメルダが飛んで来た、彼女は弓を下に向け構え矢を放つ。鋭く伸びる矢がシルバーリヴァイアサンの頭上へと向かう。空気を切り裂き鋭く伸びた矢はシルバーリヴァイアサンの頭へ命中した。
「やっぱり私じゃ…… えっ!?」
下を向き失望したようにつぶやくメルダだった。彼女の矢はシルバーリヴァイアサンに命中したが、硬いうろこにあっさりと弾かれダメージを与えられなかった。メルダの視界に黒い影が素早くシルバーリヴァイアサンの頭上に移動するのが見え彼女は驚きの表情を浮かべた。
「はあああああああああああああああ!!!」
「グキーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー……」
口を開けクロースに噛みつこうとした、シルバーリヴァイアサンの頭上からクレアの大剣が振り下ろされた。大剣が頭にめり込み開けていた口が上から押された衝撃で強制的に閉じられた。
ふらつき頭から落ちそうになったシルバーリヴァイアサンだが、すぐに目を光らせ振る向いた。
「キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
大きく口を開いたシルバーリヴァイアサンの口から光線が発射される。青い直径数十センチの細長い光線がクレアへと伸びていく。クレアは素早く横に飛んで光線をかわした。
「キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」
シルバーリヴァイアサンは光線を発射した状態で顔を振り回した。光線を口から生えた剣のようにして彼女を斬りつけようと追い回す。
「ここは一旦…… !!!」
クロースはシルバーリヴァイアサンの剣に巻き込まれないように動きながら離れようとした。しかし、何かに気づきハルバードをしまって猛スピードで飛んで行く。
「クソ…… また私だけ」
止まったままメルダは悔しそうに弓を手を強く握っている。
「危ないですわよ!!」
「えっ!?」
クロースが飛んで来て叫びながらメルダの手を強く引っ張った。振り下ろされた光線がメルダの横を通りすぎていった。クロースはメルダを引っ張って飛びシルバーリヴァイアサンから離れる。
「なにをボサッとしているんですか。ここは戦場ですわよ」
「べっ別に…… あっありがとう」
振り向いてクロースがメルダに声かけ注意をする。メルダは頬を赤くしてクロースから顔を背ける。クロースはメルダから手をはなすと、次に彼女の弓へと手を伸ばしてつかんだ。
「それをお貸しなさいな!」
「えっ!? なにするの!!!」
「任せてくださいまし」
「もう……」
弓を引っ張ってメルダから取り上げるクロースだった。不意をつかれ弓を取り上げられたメルダは不満気にクロースに声を上げた。クロースはメルダにウィンクしてほほ笑む。不服だったがメルダはクロースの顔を見て頬を赤くし渋々納得する。
「はああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
メルダの弓を掴んだクロースが声をあげた。彼女の腕が青白いく光ると同時に弓も同じように光りだした。光った自分の弓を見たクロースが声を上げる。
「なっなにをしたの?」
「私の稲妻の力を込めたんですわ! さぁ! これでクレアを助けてください」
クロースはメルダに弓を差し出し返す。メルダは弓を受け取りまじまじと見つめる。青く白い光に包まれた自身の弓を不思議そうに見つめる。どこか優しい光に包まれた自身の弓にメルダの頬が自然とほころぶ。
「稲妻の力…… よし!!!」
メルダは力強くうなずくと矢筒に手を伸ばし矢をつがえた。弓を構えると矢が弓と同じように青白く光り出す。メルダはシルバーリヴァイアサンへ弓を向けた。クロースとメルダの下でクレアは光線をかわしながら飛んでいた。
「ふぅ…… そこ!!!!!!!」
弓を構え小さく息を吐いて止めたメルダが目をかっと見開いて叫ぶと同時に矢をはなった。青白い光をまとったメルダの矢は一直線にシルバーリヴァイアサンへと向かって行った。
矢はシルバーリヴァイアサンの首辺りに命中した。先ほどは弾かれた矢だったが今度は突き刺さり強い光を放った。
「キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!」
シルバーリヴァイアサンの体が青白い光に包まれ苦しそうな声をあげた。動きが止まった
「やった!!」
拳を突き上げ声をあげるメルダだった。横に居たクロースが彼女の肩に手を置いた。
「メルダ…… あなたは一人じゃありませんわ。わたくしもオリビアもキティルもあなたの仲間ですわよ。もう少し頼ってくださいまし」
「えっ!?」
クロースの言葉に恥ずかしそうに頬を赤くするメルダだった。少し間を置いて彼女は頬を真っ赤にして顔を背けた。
「えぇ…… せいぜい利用さえてもらうわ」
「ふふふ」
顔をあげ赤い頬のまま得意げな顔でうなずくメルダにクロースは優しくほほ笑むのだった。
二人の下では動きが止まったシルバーリヴァイアサンとの距離をクレアが詰めていた。
「とりゃああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
「キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
クレアから光の大剣がシルバーリヴァイアサンの頭を横から叩いた。大きな音がしてクレアの両手が衝撃によりしびれて彼女は顔をしかめる。大きく顔を横にしたシルバーリヴァイアサンは目の光を失い静かに落ちていく。
「ふぅ…… さぁ! グレン君! 頼みましたよ!!!」
落ちていくシルバーリヴァイアサンを見ながら、クレアは大剣を肩に担ぎ視線を下に向け叫ぶ。彼女から数十メートル下でグレンが静かにシルバーリヴァイアサンを見つめていた。