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第195話 姉の執念

 アランドロの五メートルほど前にクレアは静かにたたずんでいる。わずかに出て来た風が砂上船の外に広がる砂を静かに流していた。


「さて…… そろそろ終わりにしましょうか。時間の無駄ですし」


 口を開いたクレアは両腕を開いた。彼女の両手がわずかな光を放つ。慌てて膝をついたアランドロが口を開く。


「まっまて! わいが土下座して許していうたら許してくれるか?」


 膝をついた左手を前に出して必死な様子でクレアに尋ねるアランドロだった。笑顔でクレアは静かに首を横に振って答えた。


「ふん…… そうかい!」


 クレアの答えに眉間にシワを寄せたアランドロは立ち上がり、左手の拳を握り上に振り上げた。甲板に転がっていた武器が浮かび上がりクレアへと向かって飛んで来た。


「はっ!!!」


 飛んで来た武器にクレアは右腕を振った。彼女の右手から光の剣が伸びて武器を叩き落とす。クレアは飛んでくる武器たちを光の剣で全てはたき落とした。

 甲板には破壊された武器が転がっている。クレアは静かにアランドロへ顔を向けた。


「いまさらこんな…… いや違いますね」

 

 クレアの視線の先にいるはずのアランドロはいなかった。クレアは驚くことなく視線を空へと向けた。そこには……


「何をするつもりですか?」


 空に向かってクレアが叫んだ。マストより高い上空にアランドロが大剣エフォールを構えた姿勢で浮かんでいた。クレアの問いかけにアランドロは黙ってまま何も言わない。

 彼が持つ大剣エフォールの刀身が黄色く光り出した。


「魔法剣ですか…… そんなので私に勝てるとでも?」


 失望したようにつぶやきアランドロへ視線を向けるクレアだった。アランドロはクレアをジッと見つめてエフォールを握る両手に力を込めていく。


「銀細工はな。人間の魔力を増幅させるんや!!! わいはこの一撃にかけるでぇ!!!」


 クレアに向かって怒鳴ったアランドロだった。大剣エフォールから光の剣が伸びて行く。光の大剣は五メートル以上の長さになり太さも五十センチ以上ある。

 アランドロは左手をエフォールから離し、右手に持った巨大な光の大剣を見つめ満足そうにうなずいた。


「どや!!! これでお前を切り刻んでやる!!!」


 クレアを指さして叫ぶアランドロだった。クレアは光の大剣を見て、小さく首を横に振り彼に最後の警告を出す。


「分不相応な武器は身を滅ぼしますよ」

「黙れ!!! このクソアマアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」


 叫びながらアランドロは猛スピードで急降下してクレアに向かって来た。光の大剣を伸ばしたエフォールをアランドロは体の横へ持っていく。長い大剣で船ごとクレアを真っ二つにしようと考えているようだ。クレアは静かに両手を開いた彼女の手が黄色くうっすらと光り出す。


「フェイント……」


 急降下して来たアランドロが消えた。直後に彼はクレアの真横へ姿を現した。膝を曲げ低い体勢ままアランドロは伸びあがるようにして伸びた大剣エフォールを振り上げた。


「お前の剣で死ねえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!」


 アランドロは叫び声が甲板に響く。クレアの首を狙いエフォールが鋭く伸びていき彼女の体を光の大剣の黄色い光が照らす。しかし、クレアは反応できないのか微動だにしなかった。


「義姉ちゃん!!!」


 動かないクレアにグレンが声を上げた。クレアの体を目掛けてエフォールが迫っていった。


「えっ!?」


 グレンが驚きの声をあげ呆然としていた。甲板にはクレアが静かに立っており、彼女の胸の谷間が黄色の光に照らされている。彼女の手前でアランドロの光の大剣は止まったていた。

 クレアはグレンに顔を向けにっこりと微笑み右手をあげていく。彼女の右手が伸びたエフォールの光の大剣を静かに触れた。


「はぅ!?!?!?!?」


 エフォールから伸びた光の大剣はクレアが手を触れると静かに消えて行った。目の前で消える自分の大剣に変な声をあげることしか出来ないアランドロだった。

 すぐに我に返ったアランドロはエフォールを引こうと両手を力を込めた。


「クックソ!!! はっ!?」


 目を大きく見開くアランドロ、エフォールは固定されたように動かないのだ。彼がいくら押しても引いてもビクとも動かない。


「なんで動かへんねん!!! クソ! うわ!?」


 諦めたかの手を離しエフォールを叩いて動かそうとしたアランドロだった。しかし、彼の手が触れる寸前にエフォールは急に動いた。アランドロの手は空振りした。


「クソ!!! クソ!!!」


 顔をあげ悔しそうにクレアに向かって叫ぶアランドロだった。エフォールはクレアの横に刀身を下にした状態で浮かんでいる。クレアは右手でエフォールを握った。


「私の特殊能力は聖剣大師(ソードマスター)…… 全ての剣は私の意のまま…… ですよ」

「はっ!? おっお前…… わざとわいにフェイントに?」

「ふふ!!」

「うわあああああああああああああああ!!!!」


 ほほ笑んだクレアは走り出した。キラっとした閃光がアランドロに見えた直後彼の体は浮かび上がり甲板へと背中からたたきつけられた。アランドロとの距離を瞬時につめたクレアが彼の両足を大剣で斬りつけた。鋭いクレアの一撃にアランドロの両足は太もも中央辺りで切り落とされた。

 倒れたアランドロは両手を広げたまま仰向けになっている。クレアは大剣を振りかぶり微笑んだ。


「これであなたの右腕を斬るのは二回目ですね!」

「グあああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」


 クレアの大剣はアランドロの右腕に振り下ろされた、大きな音がして彼の右腕は肩のすぐ下辺りで切り落とされた。表情を一つ変えずにクレアは大剣を逆手に持って振り上げた。アランドロの表情が青ざめていく。彼女を止めようとアランドロは必死に叫ぶ。


「やめろ!!! やめてくれ!!! そっそうだ! 銀細工について教えたる!!!」


 ピクッと大剣がわずかに震えるように動いて止まった。アランドロは安堵の表情を浮かべた。


「銀細工を作ったのは誰ですか?」


 にっこりと微笑みクレアは質問をする。アランドロは必死な様子で答える。


「こっこれは帝国大学のデグオンに金ははろうて作らせたんや。あいつは古代文明に詳しいからな」

「なるほど…… その技術はどこから?」

「ふん。冒険者は金を払えばなんぼでも教えてくれるんや……」


 鼻で笑うアランドロだった。クレアは彼の言葉を聞いてまたほほ笑み両手に力を込めた。


「ぐっは!!! おっお前…… なんで……」

「私は一言もやめるなんて言ってませよ」

「くっクズが……」

「それをあなたに言われるなんて光栄ですね」


 逆手に持った大剣エフォールをクレアはアランドロの腹に突き立てた。アランドロが声をあげ口の端から血が流れていく。


「グレンくーん! 終わりましたよー」


 アランドロの頭の前に立ってクレアはグレンを呼ぶ。まだかろうじてアランドロは息があり呆然とクレアを見つめている。


「わっ!? ちょっと!?」


 グレンが近づくとクレアはグレンに抱き着いた。急に抱き着かれてバランスを崩すグレンだったが、なんとか踏ん張って彼女を受け止めた。


「くっクレア……」

「ふふ。そこで大人しくしててくださいねぇ」


 アランドロが残った左手を伸ばしてかすかにクレアの名前を呼ぶ。彼に微笑んだクレアは両手を目の前に立つ最愛の義弟の頬へ持って行く。


「えっ!? 義姉ちゃん!? 何を……」

 

 目をつむったクレアはグレンに顔を近づけ唇を重ねる。突然のことに驚いたグレンだったがすぐに彼女を受け入れていた。


「クっ…… クレア…… クレアアアアア……」


 悔しそうに涙を流すアランドロだった。尊大な態度でクレアに接した彼だったが、クレアへの好意は本物だったようだ。口づけをしたまま目をそっと開けたクレアはアランドロへ視線を向けた。そして右手の人さし指を伸ばし彼に向けた……


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!」


 クレアの指から光の剣が伸びて行きアランドロの額に突き刺さった。アランドロの断末魔が甲板に響いたのだった。グレンは目を開いて目の前の光景を見てクレアから口をはなした。クレアは名残惜しそうに彼の唇を見つめている。

 首を横に振り呆れた顔でグレンはクレアを見た。


「もうえげつないなぁ…… 殺す前に好きな女のキスを見せるなんて…… 辛いんだぞ……」

「知ってますよ。私の大事な人がされたことですもん。いずれやり返すために練習です」


 うなずくクレアにグレンは微笑み彼女の頭を撫でたのだった。


「よし…… これで終わりか…… 後はシルバーリヴァイアサンだけだな」


 アランドロの排除は完了し帝国第三統合軍は壊滅した。次なる目標はシルバーリヴァイアサンを退けモニー浮遊島への上陸だ。グレンの言葉にクレアは首を横に振った。


「いや…… まだです。もう一人…… 責任を取ってもらう人がいます」

「あっ。そうか……」

「すぐに戻りましょう。サウンドロックへ…… でもその前に!」

「わっ!? こら…… もう…… しょうがねえな」


 クレアはグレンに顔に手を伸ばすとまた彼に口づけをした。驚いて逃げようとしたグレンだったがすぐに彼女を受け入れた。


「じゃあ行きましょうか……」

「ダメだ!」

「えっ!? グレン君…… んっ……」

「後で浄化してやるって言ったろ」


 口を離したクレアをグレンは強く抱き寄せ強引に口を塞いだ。クレアはグレンの背中に手を回し彼の温もりに包まれ目を閉じる。

 誰もいない甲板の上で強く抱き合った二人は、互いに確かめ合うように熱い口づけを交わすのだった……


「おやおや…… 仲がよろしいですねぇ」

「やってらんないねぇ…… まったく。オリビアとグレゴリウスも大概だけど……」

「「えっ!?」」


 声がしてグレンとクレアが顔をはなした。彼らの背後にアーラとミナリーが立って居てニヤニヤと笑っていたのだった。その後…… グレンとクレアは帰還するまで二人にずっと冷やかされたのだった。

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