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第189話 大事なもの

 激しく揺れる砂上船。耳には激しい衝突音が聞こえ体が震える。グレンとクレアとアーラの三人は必死に甲板のヘリを掴んで耐えていた。

 華美な装飾をされた帝国の砂上船の横っ腹に、グレン達が乗るラウルが作った砂上船が突っ込んだ。船首に取り付けられ古代の鎧が広がったラウルが作った砂上船は、帝国の砂上船の甲板の半分ほどまで食い込んで止まった。帝国の砂上船に突っ込んだラウルが作った砂上船はほぼ無傷だ。


「じゃあ乗り込みますよ…… あっ」


 甲板のへりから顔を出したクレアは笑顔で前を指した。帝国の砂上船の甲板には物や人が乱雑に転がっていた。

 話の途中で何かを思い出したクレアはグレンに顔を近づけた。


「武器から手を離したらダメですよ。彼は物を操作したり入れ替えたりしてきますからね。大切な物はギュッと握ってください」


 グレンが腰にさしたムーンライトを指してクレアは注意をした。アランドロの特殊能力は物を操作し入れ替えるだった。注意を終えたクレアが前を向いた。グレンは歩き出そうとしたクレアの服の袖をいきなりつかんだ。


「なっなんですか?」

「えっ!? あっ!? べっ別に……」


 いきなり服を掴まれ驚いて振り返るクレアだった。グレンはすぐに手を離し慌てて顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。意識せずに自然と体が動いてクレアを掴んでしまい、自身の行動に驚き動揺している。

 二人の様子を見ていたアーラはぱあっと顔を明るくして嬉しそうに笑う。


「ふふふ。愛されてるのですね。うらやましいですわ。クレアさん……」

「あっ!? あぁ!!!! ちっ違う!!! そうじゃない!!」

「ふぇ!? あっ……」


 アーラがからかうような口調でクレアに声をかける。彼女の言葉に耳と頬を真っ赤にして恥ずかしそうにうつむく。クレアも同様に顔を真っ赤にしてうつむくのだった。

 グレンは大事な物をしっかりと握れと言われ、一番大事な義姉を真っ先につかんだのだ。


「ふふふ。では私は下へ向かいますね」


 恥ずかしそうにする二人を見て笑った。アーラの目が紫に光ると背中からすっと蜘蛛の足が伸びていった。静かに飛び上がって彼女はそのまま帝国の砂上船の側面に張り付いて歩いていった。

 グレンとクレアは互いに顔を背けていた。クレアがグレンの手にそっと触れた。触れられたことに気づいたグレンが彼女の方へ視線を向けた。


「もう…… 恥ずかしい…… でも…… ありがとう」

「ごっごめん…… でも…… だって…… えっ!?」


 すっとクレアはグレンの前へと回り込み、彼女は自分の唇と義弟の唇を重ねた。驚き固まるグレンだった。クレアはすぐに唇を離し呆然としている最愛の義弟に優しくほほ笑み頭を軽く撫でた。


「これでグレン君にマーキングです。あなたも大事ですよ」

「うっうん…… ありがとう」


 クレアはグレンの手をしっかりと握り、彼は小さくうなずいて答える。彼女はグレンの手をしっかり握って前をさした。


「じゃあ行きましょうか」

「あぁ。えっ!?」

「甲板に下りるまでですよ…… ふふ」


 手をしっかりとつないだままクレアは前に出た。驚くグレンに彼女は笑って答えた。二人は帝国の砂上船へと乗り込むのだった。

 クレアとグレンの二人と別れたアーラは単独で砂上船の側面を移動していた。砂上船の中央から船尾へと移動していた。


「船室に閉じ込められているはずですよね……」


 砂上船の船尾へとやって来たアーラは右腕を伸ばす。袖から鉄扇が出て来て彼女の手におさまる。アーラは目の前にあるガラスを鉄扇で叩き割った。

 アーラは窓の縁に手をかけ、足から船室へと侵入する。彼女の体を船内に入ると背中の足は短くなって消えた。


「あらぁ…… 船長室でしたわ…… ふふ」


 わざとらしくつぶやいたアーラは周りを見渡している。彼女が窓を破って侵入した部屋は船尾の最上階にある船長室だった。ここはアランドロが使用していた部屋で彼は襲撃に備えるために出て行っており誰もいない。アーラは机の上を物色し一冊の本を拾いあげた。彼女が持った本は帝国第三統合軍に物資調達の記録だ。


「ふふふ…… もっと下ですわね……」


 ニコッとほほ笑んだアーラの背中から足を出して天井へと張り付いた。顔をあげ床を見ると右手に持った鉄扇を広げ床に投げた。激しく回転しながら床を中央で円を描いて鉄扇は彼女の手元へと戻って来た。


「はっ!」


 アーラは天井から飛び下りて着地する。着地すると同時に床が円形に抜けた。アーラの体は床下へと消えて行った。何かが床に落ちたようなドンという音が響く。


「なんだ!?」


 船長室の下は倉庫のように広い船室だ。奥には檻がありそこには猿ぐつわに目隠しをされ後ろ手に縛られたミナリーが閉じ込められた。ミナリーの檻の前には見張りをする二人の男性兵士がいた。

 彼らはいきなり落ちて来た船長室の床に驚き一人が声をあげる。顔を見合せた二人のうち一人が剣に手をかけゆっくりと前に歩く。剣を抜いた慎重に兵士は落ちて来た板の前までやってきた。


「さっきの衝撃で天井が抜けたのか…… あっ!?」


 兵士は左手で床板を拾って顔を上げた。しかし、そこには……


「ごきげんよう……」

「なっ!? 敵しゅ……」


 天井にはアーラが張り付いていた。彼女は背中の足を天井の四隅にかけて姿勢で体を天井と水平にしていた。兵士はアーラの姿を見た直後に彼の視界は真っ暗になった。床に兵士の首が転がり血で染めていく。

 アーラが床に向けていた右手に鉄扇が戻ってきた。彼女の左腕は檻の方へと突き出されていた。アーラは兵士と顔を合わせるとほぼ同時に鉄扇を投げ彼の首を跳ね飛ばしたのだ。


「ふぅ……」


 ゆっくりとアーラの体が床へと向かう、彼女は足を下にして着地する。


「まだですか…… 意外と頑張りますわね……」

 

 アーラは左腕を曲げ強く引く檻のやや上に視線を向けた。アーラの左手からは糸が伸び、彼女の視界に激しく動くブーツが見えている。


「うぐっ!!!! ぐううううううううううううううう!!!!!! うぅぅぅぅ…………」


 檻の前の天井には糸を首に巻き付けた状態で吊るされた男性兵士の姿が見えた。アーラは鉄扇を投げた直後に檻の前に残っていた兵士の首に糸を巻き付け吊る上げていた。

 糸は徐々に短くなり男性兵士の体を浮かび上がらせていった。彼は足をバタつかせていたがしばらくすると力が抜けダラーんと足を垂れるのだった。


「えっと…… 鍵は……」


 吊るした男性兵士が動かなくなると、アーラは首を落とした男性兵士の体をまさぐりつぶやく。アーラは檻の鍵を探していた。男性兵士は鍵を持っておらず次に彼女は背中の足を伸ばして吊るされた男性兵士の死体を探る。


「うーん。じゃあこちらですかね」


 男性兵士は二人とも鍵を持っておらずアーラは部屋を見渡してた。檻の向かいにある扉の横に机を見つけたアーラはすぐに机へと向かう。


「ありましたわ」


 机の引き出しを慣れた感じアーラは上から開け檻の鍵を見つけた。鍵で檻を開けるとミナリーの前へと移動して右手に鉄扇を持って振り上げた。


「はっ!!」

「!?!?!?」


 鉄扇を振り下ろしたアーラだった。ミナリーを拘束していた、縄と目隠しと猿ぐつわは斬り落とされ彼女は解放された。


「あんた…… どうして?」

「ふふふ。冒険者ギルドの仕事ですわ」

「そうかい…… 助かったぜ」

「じゃあ逃げましょうか」


 ミナリーの手をつかんで上の天井を指すアーラだった。ミナリーは大きくうなずいた。


「おう…… と言いたいところだけどよぉ。あたいの装備を取り上げられちまってんだ。ちょっと待ちねえ」

「えっ!? ダメですわ。外にはまだ……」


 アーラの手を外したミナリーは部屋の扉へと向かう。見張りがいると思い止めようとするアーラだったが、ミナリーは勢いよく扉を押して開けた。


「うん!? キャッ!? ぐは!!!」

 

 ミナリーは扉を開けると横に立って居た女性兵士の顔に右手を向けた。彼女の手に反応してい床の隙間から勢いよく砂が飛び出して女性兵士の顔を拭きつけた。目に砂が入り視界を奪われた女性兵士の腹をミナリーは殴りつけた。うずくまる女性兵士の顔をミナリーはさらに横から蹴りつけた。女性兵士は蹴られて壁に頭をぶつけ動かなくなった。

 

「よーし…… 確か…… ここだ……」


 ミナリーは外に出ると隣の部屋へと入っていく。ミナリーの後に続く隣の部屋の開いた扉の前でアーラは待っている。倒れた女性兵士をアーラはあきれた顔で見つけていた。


「あったぜ」


 二つのベルとサーベルを腰につけミナリーはと隣の部屋から出て来た。


「じゃあ今度こそ!? ってどこに行くんですか?」

「決まってんだろ!? あいつをぶん殴ってやるんでぇ! このままじゃあたいの気が済まねえんだよ」

「あぁ!! 待って下さい…… もう!」


 ミナリーは右腕を曲げ殴る仕草をすると一人で駆けて行ってしまった。ミナリーはアランドロに仕返するつもりのようだ。首を横に振ってミナリーを追いかけるアーラだった。

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