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第187話 百マイルの狙撃手

 ロックがグレゴリウスと共にファイアウォールに立てこもり十数分が過ぎていた。キティル、メルダ、クロース、オリビアの四人はロックに気配を悟られないように、ファイアウォールから距離を取りグレゴリウスを救出する策をだしあっていた。


「どうしましょうか。とりあえずわたくしの氷魔法でもぶつけてみますか?」

「無駄よ。今のキティルの魔力で作られたファイアウォールを壊せる人はここにはいないわ。一ヶ月前ならどうにかなったでしょうけど……」


 クロースの案を即座に否定するメルダだった。クロースの言う通りファイアウォールに氷の魔法は有効だが、ファイアウォールの強度は術者の魔力に依存する。特殊能力者として覚醒したキティルに魔力で叶う人間は四人の中にはいないのだ。


「じゃあ力ずくで私が…… さっきの空腹状態から回復した私なら……」

「ファイアウォールは防御魔法だけど…… 近づく敵を焼き払うようになっているから長い時間持ってるとオリビアちゃんが焦げちゃうよ」


 力ずくでこじ開けようというオリビアだったが、キティルがファイアウォールの特性から難しいと説明する。


「そうか…… 強く堅牢な壁が逆に仇になったか……」

「うん。ごめんね」


 うつむき謝るキティルの頭をオリビアは優しく撫でるのだった。キティルはグレゴリウスを守ろうとしてファイアウォールを展開したがその強く堅牢な壁が今は自分達を苦しめていた。


「そうだ! オリビアちゃんが食べれば……」

「ダメですわ。いくらオリビアでもあのファイアウォールを一口というわけにもいきませんわ。食べてる途中に気づかれます」

「そうか。そうだよね」


 首を横にふったクロースは顎に手をあげ何かいい案がないか考える。


「なんとかしないとですね…… そうだ。キティルさん! 炎の魔人なら…… ファイアウォールをこじ開けるけられませんか?」

「えっ!? うーん。出来ると思う……」


 クロースの問いかけに自信なく答えるキティルだった。彼女の回答にオリビアの顔が明るくなる。


「本当か!?」

「うん…… 多分。でも炎の魔人でも開けるのは数十センチ…… 時間も数秒だと思う」

「それじゃあダメね…… 何もできないわ」


 キティルが召喚する炎の魔人をもってしても、ファイアウォールをわずかにしかこじ開けられないという。メルダはキティルの回答に首を横に振って落胆した様子でつぶやく。


「いや…… 少しでも開けば瞬間に私が飛び込んで制圧……」


 オリビアが食い下がる。彼女は最愛の夫であるグレゴリウスを助けたくてやや前のめりになり焦っているようだ。メルダが彼女をたしなめる。


「無駄よ…… グレゴリウスからロックが離れるわけがないわ。闇雲に飛び込んでも中の人質を増やすだけですわよ」

「なっ!? じゃあどうするんだ!? グレは……」

「そうねぇ。開いた穴からロックを仕留めれば……」


 すっとメルダが視線をファイアウォールへと向けつぶやいた。メルダの言葉を聞いたクロースがハッと目を見開いた。


「それですわ!!! メルダ!!」

「えっ!? 開いた穴からロックを仕留めるってこと?」

「はい」

 

 クロースは嬉しそうに明るくうなずく。メルダは小さく首を横に振る。


「確かにそう言ったけど…… そんなことできるわけないでしょ」

「大丈夫ですわ。うちには弓の名手がおりますでしょ」


 笑ってクロースはメルダの肩に手をおいて彼女が背負う弓を指した。炎の魔人が開けた穴からメルダがロックを射抜くというクロースは言いたいようだ。


「えっ!? あたし? 無理よ…… あいつに私の矢は効かない…… さっきだって足止めしか……」


 首を横に振りメルダは静かにクロースの手を肩から外し、悲し気にまた彼女はファイアウォールを見つめるのだった。メルダは自身の矢が銀細工の腕を持つロックに通用しないと分かっていた。特殊能力者ではない彼女が出来るのは弓や魔法で相手の気を引いたり足止めすることしかできなかった。


「ううん…… 出来ますわ。ちょっと失礼……」


 クロースはもう一度メルダの肩に手を置くと強引に彼女を引き寄せた。背伸びをしてクロースはメルダの額と自身の額をくっつけた。綺麗で整ったクロースの顔が近づきメルダは思わず赤面する。突然のクロースの行動に動揺するメルダだった。


「なっ!? なにするのよ……」

「大丈夫ですわよ……」


 メルダの額に自身の額をくっつけクロースは目をつむる。クロースが付けた青く丸い耳飾り蒼眼の発掘人(ブルーアイズスカウト)が激しく震えた。柔らかな黄色の光が彼女を包み額を通じて光がメルダへと移動した。


「これでよろしいですわね……」


 目を開けたクロースはメルダからゆっくりと顔をはなした。クロースは上目遣いでニコッとほほ笑み首をかしげた。


「どうですか?」

「なっなにが…… 別に何も…… えっ!? なに…… 目が……」


 メルダの左目が紫に輝く。彼女は左目に急激な違和感を覚え左手で目を押さえた。動揺するメルダの肩にクロースはそっと手を置いた。


「大丈夫です。手を外してファイアウォールを見てくださいまし」


 体を斜めにしてクロースは手でファイアウォールを指した。メルダは手を外し左目をゆっくりと開けた。彼女の左目が燃え上がる炎のような紫の光が煌めく。


「なっなによ…… これ……」


 メルダの左目の視界から色が抜け全ての物に紫色のフィルターがかかったようになっていた。さらにファイアウォールの中で黄色の線に縁どられた人影が二つ動いているのが見える。大きな人影が華奢で小さな人影に腕を回し右手に持った剣のような物を突きつけていた。ファイアウォールの中に見える二つの人影はロックとグレゴリウスであると、すぐにメルダは理解した。


「炎の壁の向こうが見えている…… なっなによこれ!? クロース何をしたの?」


 動揺したメルダは急に顔をクロースに向け、彼女の両肩をいきおいよく掴む。クロースはほほ笑むと優しく肩に置かれた手を外した。まるでクロースはこうなることを予想していてように落ち着いていた。


「落ち着きなさいな。あなたの特殊能力を一時的に開花させただけですわよ」

「えっ!? あっあたしの特殊能力…… これが……」


 驚きさらに困惑するメルダだった。ただ、困惑している彼女だったがどこか嬉しさがにじみ出ていた。クロースの様子を見たクロースは笑顔でうなずいて話を続ける。


「あなたの特殊能力は”百マイルの狙撃手”ですわ。闇魔法の恩恵を受け障害物を見通しどんな過酷な状況であっても的は外れず。放たれた矢はどんな金属も貫通する……」


 メルダの特殊能力について話すクロースだった。メルダの特殊能力は弓使いに特化した”百マイルの狙撃手”という。闇魔法に力と恩恵で矢の射程は百五十キロを超え、目は標的を隠す障害物を透過し暴風が荒れ狂うような場所でも正確に標的を射抜けるようになる。


「それが…… 私の…… これなら…… ロックを……」


 両手の拳を握りメルダは大きくうなずいた。彼女は顔をキティルに向け口を開いた。


「キティル!! 炎の魔人を呼んで! 私がロックを仕留めるわ!」


 メルダはキティルに炎の魔人を召喚するように指示をした。炎の魔人が作り出した穴からメルダがロックを射抜くつもりだ。


「うん。わかった。ちょっと待ってね」

「待て! 私も手伝おう」


 笑顔で返事をするキティルにオリビアが手助けを申し出た。キティルは炎の魔人を呼び出すために皆から少し離れた。オリビアはキティルに付いて行く。

 メルダは立ち去る二人を見送って顎に手を置いて何かを考え始めた。


「じゃあ…… まずはどこを狙撃するかよね…… クロース…… どこが良いと思う?」

「そうでうね…… 相手は油断しているとはいえ…… 正面だと対応するでしょう。幸いあなたならファイアウォールの中の様子がわかりますよね?」

「わかった。背中ね…… 二人とも! ちょっと良い?」


 小さくうなずいたメルダはオリビアとキティルを呼んだ。彼女は炎の魔人とオリビアが作り出した穴から狙撃するための準備を始めるのだった。

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