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第185話 全てを食らう者

 うねりを上げ迫って来る炎の球、ロックの頬は炎の光で赤く照らされ取り乱しはしないがわずかに表情に焦りが見せる。


「しょうがないですね」


 ロックはオリビアのメイスから左手を離すと拳を握った。


「はああああああ!!!」


 迫って来た火の球をロックは殴りつけた。火の球は弾かれて天井へと上がっていき爆発した。ばらばらになった火の球が床に落ちていく。


「ふん!!」


 さらにロックはオリビアを殴りつけて来た。


「おわっと!!!」


 殴りかかろうとしたロックにオリビアは彼の右手から手を離した。ロックはバランスを崩したがなんとか踏ん張って拳をオリビアに突き出す。しかし、オリビアは右手に持っていたメイスを振り上げた。

 激しい衝突音がしてオリビアのメイスとロックの左腕が天井を指す。二人の体はぶつかり合った衝撃で離れ地面を引きずっていく足から煙が吹き出していた。オリビアとロックの間に五メートルほど距離が開いていた。


「銀細工…… 厄介だな」


 ゆっくりと振り上げたメイスを下ろしロックを見つめるオリビアだった。


「勇者というのは伊達ではないようですね」


 オリビアのメイスに弾かれた左腕を下ろしロックは確かめるように動かす。

 二人の視線が合うと互いに口元を緩ませ武器を構える。オリビアは両手に持ったメイスの斜めにし先端をロックに向け構える。ロックは膝を曲げ腰を落とし、先ほどとは逆に右腕を前にだし左腕を後ろにしていた。


「正面から当たるのは無謀ですね。スパークショット!!!」


 ロック声をあげ左手を上に向けた。彼の左手が光り出した。持っている何かを投げるように上から左手をロックは前に突き出した。彼が手を前に出すと同時に左手から青白く光る電撃が流線型の弾丸となってオリビアへと向かって行く。

 ロックが出した電撃は雷魔法スパークショットという。雷撃を弾にして打ち出す魔法である。激しい音を立て横に回転しながら一直線にオリビアへ電撃弾が向かって来る。

 オリビアは淡々と表情を変えず向かって来る電撃弾に撃ち落とそうと構えた。スパークショットの速さはオリビアであれば簡単に対処できるものだった。タイミングを合わせオリビアは向かって来る電撃弾にメイスを振り上げた。


「ダメ!! オリビアちゃん!!! よけて!!!」


 背後からキティルがオリビアに叫んだ。オリビアは彼女の言葉を聞いたがすでに動きだしており止まらない。メイスが電撃弾へと向かって行く。ロックはニヤリと笑って左手の人指指をわずかに上下に動かした。


「なに!?」


 メイスが当たるまっすぐ向かっていた電撃弾が軌道を変えた。オリビアのメイスは空を切った。スパークショットは術者が軌道やスピードを自在に操作できるのだ。軌道を変えた電撃弾はオリビアへと向かって来る。彼女の頬が青白く照らされ髪の毛が細かに震えている。しかし、オリビアは笑って口をすぼませた。


「ほああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」


 口をすぼませて大きく息を吸い込むオリビアだった。オリビアの吸引力は周囲の空気がなくなっていくかのごとく彼女の口へと吸い込まれていく。それは飛んでくる電撃弾も例外ではなかった。


「ズズズズズーーーー!!!!!!!!!!!」


 激しく何かをすする音が聞こえ電撃弾はオリビアの口へと消えて行った。


「ふぃ…… あまりうまくはないな……」


 左手の親指で唇をぬぐいその指を下で舐め、首をかしげるオリビアだった。そんな彼女をロックは驚愕の表情で見つめていた。


「スパークショットを…… 飲み込んだのか……」


 驚くロックにオリビアはにっこりと微笑み自身の腹を優しくさする。


食い溜め(マジックストック)だ。私の特殊能力の特徴の一つだよ。私は魔法を食べてためておけるんだ」

「バカな…… 魔法を食えるわけ……」


 愕然とするロックだった。通常の人間であれば魔法を食べることなどできない。もし興味本位で口にしようとすれば、ただでは済まないだろう。だが、オリビアは違う彼女は特殊能力者だ。


「ふふ。私の特殊能力は少し変でね。特徴がいくつかあるんだ。その中の|なんでも食べる君が好き《オールバキューム》で私は何でも食べられる。魔法でも鉄でも…… そして…… 魔族や人間もな!!」


 メイスを構え視線をロックへと向けるオリビアだった。オリビアは特殊能力食べてレベルアップ(アビリティイーター)で魔法を食せる体になった。彼女は魔法を食し貯めておくことができる。さらに魔法以外にもほぼ全てのものが食べられるのだという。ちなみにオリビアは魔物を頻繁に食べるが、さすがに魔族や人間を食したことはない…… おそらく。


「化け物め!」


 剣を構えて叫ぶロックにオリビアはメイスを肩に乗せ顔をしかめた。


「おいおい。君は失礼なやつだな。これでも人類を救った勇者だぞ!? 今君らが生きていられるのは誰のおかげだと思っているんだ」

「だっ黙れ!!」


 ほぼ全ての人類が反論できない正論を叩きつけロックを見下したように笑うオリビアだった。ロックは叫びながら駆け出しオリビアとの距離を詰めた。オリビアは担いでいたメイスを横から駆けて来たロックに叩きつけた。

 ロックは左肘を曲げ向かって来るメイスを左腕で受け止めた。激しい衝撃で吹き飛ばされそうになるが何とか踏ん張った。ロックは剣を持つ右腕を上げ前に出た。彼はオリビアの頭に向かって剣を振り下ろした。

 オリビアの額を目掛けてロックの剣が向かって来る。にやりと笑って口をすぼませてオリビアは軽く息を吐いた。


「フッ!!!」

「ウッ!? ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

 青白い光が瞬きロックが悲鳴を上げた。オリビアの口から先ほど彼女が吸い込んだスパークショットが飛び出しロックの右腕に命中したのだ。電撃がロックの全身をめぐり激しい痛みが彼を襲う。ロックの視界は真っ暗になり意識が数秒だけ飛んだ。


「オリャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 メイスを引いたオリビアは再度横からロックにメイスを叩きつけた。今度はロックはメイスを威力に耐え切れずに吹き飛ばされてしまった。


「グハ!!!」


 横から床に叩きつけ声をあげるロック、彼の体は数十センチほど床を滑って止まった。電撃がもうろうとしていた意識が床に叩きつけられた衝撃がすぐに戻りロックはすぐに起き上がった。


「はあはあ…… 今のは…… 私のスパークショット!?」

「さっき言わなかったか? 私は溜めた魔法を一回だけ使えるんだよ」

「なっなんだと!?」


 首をかしげるオリビアだった。ロックは彼女を見つめている。オリビアは食べた魔法を一回だけ使うことができる。ちなみに魔法であっても食べればオリビアは強くなる。つまりオリビアに攻撃魔法を使えば使うほど彼女は強くなっていくのだ。


「なるほど…… あなたが魔王を倒せたわけだ……」

「はははっ。いまさら褒めても何もでないぞ。出るのはこのメイスの一撃だけだ」


 笑ってオリビアは胸の前に左手を持って行きメイスで軽く叩く。オリビアの行動に眉間にシワを寄せ彼女を睨むロックだった。


「クソ…… こうなったら……」


 うつむいてロックは悔しそうに左拳を握りしめ力を込めた。彼の左腕がやわらかな白い光に包まれた。顔を上げたロックは視線を動かしていく。オリビア、キティル、メルダ、クロースと視線を移したロックはグレゴリウスで止めニヤリと笑うのだった。

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