第184話 帝国を追い詰めろ
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」
迫る男性兵士を見た炎の魔人が不機嫌そうに眉間にシワを寄せ、天井に顔を向け声を上げた。口を大きく開いたまま炎の魔人は男性兵士を向いた。直後に強烈な赤い光が周囲を照らす。あまりの強烈な光にキティルが両手を前に出して目を覆う。
炎の魔人の口からマグマよりもはるかに高い熱を持つ光線が発射された。火の粉をまき散らし男性兵士へと光線は飛んで行く。男性兵士は反応すらできずに一瞬で光線に飲み込まれていった。
「ギャアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!! アアア……」
男性兵士の声と影が小さくなってすぐに消えた。
光線がおさまるととこに男性兵士の姿はなく銀色の足の先だけが残っていた。光線が通った床が熱で溶け数十センチほど円形にへこみ溝のようになっていた。
「がうあ!!!」
「よーし。じゃあ戻れ!」
キティルはやすらぎの枝を掲げ炎の魔人は消えていった。
「ふぅ…… あっ!」
炎の魔人が消えるとキティルは安堵して小さく息を吐いた。すぐに彼女は何かを思い出しハッとしてすぐに振り向き駆け出すのだった。
「はぁ…… またあたしだけ…… ううん。いいのよ。これで……」
肩に刺さった凍った槍を両手でつかんだ姿勢のまま、消えていく炎の魔人をメルダは静かに見つめつぶやいた。大きく首を横に振った彼女は両手に力を込める。彼女の手が赤く光り炎が出て凍った槍を溶かした。
「グっ!」
顔を歪ませ両手に力を込めて槍を引き抜くとメルダは槍を捨てた。そこへキティルが駆けてくる。
「大丈夫? メルダ」
「えぇ…… 問題ないわ……」
キティルが心配そうにメルダに声をかけた。メルダは肩に自分の手を当て、魔法で治療しながら答えるのだった。寂しそうな表情をするメルダをジッと見つめるキティルだった。メルダはキティルが自信を見つめているのに気づいて笑った。
「どうしたの? 何か?」
「ううん…… 何でもない!」
振り向いてキティルは歩き出した。彼女は転がったメルダの弓を拾って戻って来た。
「はい。これ」
「ありがとう…… うん!?」
キティルから差し出された弓を笑顔で受けとりメルダが背負った。弓を背負う時にメルダは何かに気づいた。
「待って!」
弓を背負ったメルダは女性兵士の元へと歩きだしキティルが慌てて追いかける。女性兵士は息絶え横たわったまま焦げた体が転がりすぐそばに彼女が銀色に変化した右足が転がっていた。
メルダは手を伸ばし転がった銀の足を拾い上げた。
「炎の魔人の攻撃でも無傷なのね……」
まじまじと銀色の足を見つめるメルダだった。銀色の足は彫刻のようであり断面はほぼ垂直で綺麗だ。さらに炎の魔人の拳を叩きつけられたのにほとんど傷もなかった。
キティルがメルダの元へとやって来た。興味深げに彼女の横からキティルも銀の右足を覗き込む。キティルにメルダは足を差し出した。キティルはうなずいてメルダから足を受け取る。
「白銀兵や銀色のミノタウロスと同じものかしらね……」
「うーん…… そうだと思うけど…… ちょっと違うと思う……」
手に持った銀色の右足を見つめ首をかしげるキティルだった。
「違うの? フフ。古代人の勘ってやつかしら?」
「ううん。古代人とかじゃないよ。ただ…… テオドールで戦った白銀兵は体が銀色になっただけのような気がして…… これはなんというか…… 道具というか武器と言うか……」
「白銀兵は生き物でその足は生命じゃないってこと?」
メルダの質問にキティルは少し考えてからうなずいた。
「うん…… なんとなくね……」
「そっか。面白いわね。まぁでも今はそんなに考えている場合でもないけどね」
「そうだね…… 行こう」
キティルは大きくうなずく。二人は揃って駆け出すのだった。
「さぁて…… 残りは……」
ゆっくりと振り返るオリビア、足元には仰向けに倒れた帝国兵士がいる。帝国兵士はすでに息はなく、右手は砕かれなくなり腹にはメイスがめり込んでいた。
オリビアは顔をある場所へと向けたままメイスを帝国兵士の体からゆっくりと上げていく。帝国兵士の腹がメイスにくっつき一瞬だけ盛り上がりメイスがはがれるとすぐに元に戻る。はなしたメイスを肩に担いで歩きだすオリビアだった。彼女のすぐ後ろをグレゴリウスが付いて行く。
「彼だけですわね……」
グレゴリウスの横を爽やかな風とわずかな花の香りが過ぎていく。オリビアの横にすっとクロースが現れ並び歩く。
「でもあいつは厄介よ」
「そうだねぇ……」
オリビアの右手からメルダとキティルが現れた。メルダは不機嫌そうに黙ってキティルはオリビアに笑顔で手を振ってからオリビアの横に並ぶ。
「そうだな…… でも、私達の敵じゃない。そうだろ?」
笑ってオリビアは視線を左右に動かした。彼女の言葉にクロース、メルダ、キティルの三人はほぼ同時にうなずいた。オリビア達は同時に立ち止まった。腕を前に出しオリビアはメイスの先端を前に向けた。
「さぁ…… 終わりにしようか…… ロック!!!」
オリビアが突き出しメイスの先に左腕を銀色に変えたロックが立っていた。四人の後ろに倒れている部下を見てロックは顔をしかめている。
「はあ。全滅ですか…… 情けない」
右手を眼鏡のつるへ持って行き直しため息をつくロックだった。彼は右手で腰にさした細長い剣を抜いて前に出た。
オリビアの横に立ったクロースが前を見たまま尋ねる。
「どうします?」
「まず、私が行く。君は援護を頼む」
「かしこまりましたわ」
クロースが返事をするとメイスを肩に担いだオリビアが前に出る。キティルはオリビアの背中を見て隣にいるメルダに顔を向けた。
「メルダ…… 無理しないで良いからね」
「わかってるわよ。あんた達の戦いにはついていけないもの」
笑ってキティルに答え矢筒に手を伸ばすメルダ、キティルは横に動きながらオリビアの斜め後ろに立った。オリビアは横を向き視線を後ろに向けすぐに前を向いた。
「はあああああああああああああああああああああああ!!!」
前を向いたオリビアはロックへと向かって駆け出した。ロックは静かに右腕を後ろに銀色の左腕を前に出して姿勢で構えた。
ロックに接近したオリビアはメイスを振り上げ横から彼に叩きつけた。大きな音を立て空気を切り裂きながら、ロック左側面からオリビアのメイスがしなるようにしてロックを襲う。オリビアの両手に衝撃が伝わり風圧により周囲の砂埃が激しく舞う。
「ぬぅ!?」
目を見開き驚きの声を上げたオリビア、彼女の視線の先に銀色になった左手でメイスをつかんで笑うロックがいる。
「驚きましたか? 銀細工はこの程度の攻撃を防ぐのは簡単なんですよ!!!」
ロックはメイスを握りしめる手に力を込め動けくすると胸を開くようにして、引いていた右腕を突き出した。ロックの剣先がオリビアの首へとめがけて鋭く伸びて来た。
「フッ!」
「なっ!?」
慌てることなくオリビアは冷静にメイスから左手を離すと体を後ろにそらしたロックの剣をかわした。剣を持ったロックの右手首を今度はオリビアがつかんだ。彼女は力ずくでロックの左腕を開いていく。二人は両腕を開いたしせいで向かい合うようになった。
「何をする気だ……」
「さあて…… ねっ!!!」
「えっ?」
オリビアは両腕の力を込め右足で踏ん張り左足で地面を蹴り、ロックを持った体の向きを反転させた。ロックは背中がじんわりと熱くなりわずかな音が聞こえた赤い光が覆う。
「しまっ!?」
振り向いたロックが悔しそうに声をあげた。彼の目の前にキティルが放ったファイボールが迫っていた。