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第183話 置いていかないで

 必死に走りながら矢を弓につがえたメルダは小さく息を吐く。両手に力を入れ弓の弦を引きながら素早く振り向いた。振り向くと同時にメルダの視界に二人の兵士が見える。兵士は男性兵士が前で女性兵士が彼の斜め後ろを駆けている。メルダは瞬時の判断で標的を男性に定めて矢を放った。

 解き放たれたメルダの矢は空気を切り裂き音を立て、走る男性の喉元へ向かって一直線に伸びていく。走る男性兵士の口元が緩みにやりと笑う。


「なっ!?」


 メルダの前に急に男性兵士が現れた。彼は右足で地面を蹴ると矢の横をすり抜け、あっという間にメルダとの距離を詰めたのだ。


「はっ!!!」


 男性兵士は右手に持った剣を体の横へと持って行き斬りつけた。メルダはとっさに矢を捨て持っていた弓を両手で持って剣を防ぐ。


「クッ!! キャアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 大きな音がしてメルダの弓と剣がぶつかった。メルダは必死にこらえたが衝撃で吹き飛ばされてしまった。彼女は男性兵士から二メートルほどの床に横に叩きつけられた。叩きつけられたメルダは両手から弓をはなし彼女の弓は床を回転しながらわずかに滑って行った。

 剣を戻した男性兵士は転がったメルダの弓を見つめ首を傾げた。


「あれ!? おかしいな…… 手ごたえはあったのに……」


 自分の剣を刀身を見ながら不思議そうにつぶやく男性兵士だった。彼の元に女性兵士がやって来て声をかける。


「どうしたの?」

「いや…… あの弓を見ろよ。剣で斬ったのに傷一つないんだ」


 女性兵士の質問にメルダの転がった弓を顎で指して答える男性兵士だった。転がったメルダの弓を女性兵士は目を輝かせる。


「うわぁ。良い弓じゃない。もらっちゃお…… どうせこいつここで殺すんだしさ!!」


 槍を両手で持って構えた女性兵士は右足で地面を蹴った。メルダは体を起こし腰の矢筒へ手を伸ばす。彼女は赤い羽根が付けられた矢を出した。同時に右手が赤く光り炎が起こって矢を燃やす。火が付いた矢をメルダは向かって来る女性兵士に投げた。

 火が付いた矢は女性兵士に届く直前で爆発した。女性兵士は黒煙に包まれメルダの視界から消えた。彼女は素早く起き上がりジッと目の前の黒煙を見つめていた。


「はぁはぁ…… 舐めるんじゃないわよ…… チッ!!」


 肩で息をしながら笑ったメルダだったが、黒煙の中から槍が突きでてきた。メルダはとっさに横に飛び弓をつかんだ。メルダは床を転がり女性兵士と距離を取り、素早く立ち上がると同時に矢をつがえて女性兵士へ向けた。黒煙が消えていく。女性兵士はゆっくりと槍を下ろし、視線を銀色になった自身の足へ向けすぐに顔をあげメルダを見た。


「舐めてるのはあんたよ…… 銀細工は帝国が作った最高傑作なの…… よ!!!!」


 弓を向けるメルダに女性兵士は微笑んだ。直後に女性兵士の姿がメルダの視界から消えた。慌てるメルダはすぐに顔が青くなる。自身の一メートルほど前に女性兵士が現れたのだ、彼女はメルダに向かって槍を突き出した。心臓を目掛けて伸びて来る槍、メルダは体をひねって避けようとする。手が自然と離れ矢が飛び出しすぐに床に突き刺さった。弓が床に転がった体をひねったメルダの左肩に槍が突き刺さった。

 

「ぐぅ!!!」


 肩に刺さった槍を両手で押さえて苦痛で顔を歪ませるメルダだった。女性兵士は右足で地面をしっかりとつかむと槍を斜めにするメルダの体は浮き上がり地面に足がつかなくなった。


「あなた…… 魔王の娘らしいじゃない? 自分の親を殺した奴と旅するなんて頭がおかしいんじゃない?」


 女性兵士は槍の先にいるメルダににこやかに話しかける。メルダは顔をあげ槍の先にいる女性兵士に必死にほほ笑み返す。


「あら!? おかしいかしら? 魔族は強い者が正義だからね…… それに…… オリビアと父は立場があったのよ。あんたの上司みたいな私情でしか動かないクズと一緒にしないでほしいわ…… ねっ!!!」


 メルダの手が光った。直後に白い冷気が両手から発せられ槍を凍りつかせていく。白い霜と冷気によって槍の周りを分厚い氷が覆い女性兵士へと向かって行く。


「クソ!!!」


 迫る氷に女性兵士は槍から手を離し捨てた。凍りついた槍とメルダが地面へと落ちた。直後……


「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」

「なっ!?」


 メルダと女性兵士の横から激しい唸り声を上げながら、真っ赤な火の髪をなびかせ炎の魔人が駆けて来た。炎の魔人は丸腰になった女性兵士を巨大な拳で殴りつけた。不意をつかれた女性兵士は動くことが出来なかった。大きな影が彼女を覆い顔は青ざめていく。


「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア…………」


 悲鳴が響いてグチャッという音がし、炎の魔人の拳が床にめり込むと火の粉が周囲に巻きあがり悲鳴は消えていった…… 腰を落とし拳を床に付き出した姿勢で炎の魔人は止まる。


「もう遅いわよ! キティル!」

「ごめん。ごめん。だって…… 速いんだもんメルダ…… はぁはぁ」


 炎の魔人の後方で両ひざに手を置いて肩で息をするキティルが居る。顔をあげメルダに視線を見てニコッとほほ笑んだ。


「クソ! なんだあれは……」


 男性兵士が炎の魔人を見て後ずさりしている。キティルは彼を指さした。


「さあ! いっけーーーーーーーーーーーーー!!」


 顔を男性兵士へと向けた炎の魔人は床にめり込んだ拳を引き上げる。拳により床はへこみそこには女性兵士が横たわっている。


「うう……」


 女性兵士はかろうじて息があるようだが、ボロボロで体中が真っ黒に焦げ、銀色へと変わった右足だけ輝いていた。手足が折れているのかほとんど動かない。


「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 拳を握り腕を体の前へと持って行き、炎の魔人は口を大きく開け天井に向かって叫んだ。炎の魔人は拳を振り上げると巨大な拳で男性兵士を殴りつけた。

 男性兵士は右足で床を蹴って飛び上がりすんでのところで拳をかわした。炎の魔人の拳が空を斬り火の粉が周囲に舞う。


「クソ! 負けるかよ!!」


 飛び上がった男性兵士は剣を構えて炎の魔人へと迫っていく。剣先を炎の魔人へ向ける。だが、彼の視界が真っ暗になった。大きな炎の魔人の手が横から飛んで来たのだ。


「フン!!!!」


 左腕を曲げ炎の魔人は飛んで来た男性兵士をはたき落とした。飛んでいた男性兵士の体は引っ張られるようにして床へと向っていく。


「ぐわぁ!!!」


 横から男性兵士は床に横から叩きつけられた。激しい衝撃が彼を襲うが何とか剣と盾から手を離さずに彼はすぐに起き上がった。

 炎の魔人は腕を曲げ右手を開いて上に向けた。手のひらの上に炎の球が現れすぐに直径二メートルほどの大きなになっていった。


「ガアアアアアアアアアア!!!」


 腕を伸ばした炎の魔人は男性兵士へ向かって炎の球を投げた。放物線を描きうねりを上げながら炎の球が男性兵士へと向かってくる。彼は左手に持った盾を炎の球に向け身構えた。


「グっ!!!」


 男性兵士の顔が歪み大きな爆発音が響く。爆風と衝撃が体に叩きつけられ必死に踏ん張って耐える男性兵士、彼の服や肌がひりひりとして熱で焼かれているような感覚が襲う。

 衝撃がおさまり彼はそっと盾を下ろした……


「はあはあ…… 負けるか…… うえ!?」


 驚き目を見開く男性兵士だった。彼に向かって次々と炎の球が向かって来ていた。炎の魔人は左右の手を上に向け炎の球をつくっては投げてを繰り返したのだ。


「クソが!!」


 右足を踏み込んで走り出す男性兵士、彼は落ちて来る炎の球をかわして炎の魔人へと迫っていく。

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