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第182話 勇者に小細工は通じない

 オリビアはもう一人の男性兵士との距離を詰めた。彼は反応できずに槍をかまえたまま彼女の接近を許した。男性兵士がオリビアの存在に気づいたのは銀色になった左手を掴まれたからだった。


「なっ!? 何を…… あっあああああ!!!」


 うっすらと微笑みをうかべ男性兵士を見たオリビアは手に力を込め。音がして男性兵士の左手にヒビが入っていく、彼は苦痛に顔を歪めた。槍を掴む男性兵士の手の上からオリビアの右手はうっすらと黄色い光を放っていた。彼女の強い握力は手の下にある槍をも曲げていく。

 オリビアに掴まれた男性兵士の左手は限界を迎えた。

 

「うぎゃあああああああああああああああああああああああああ!!!!」


 音を立てて男性兵士の左手が砕かれた。銀色の破片が地面に散らばり、同時に圧力をかけられた槍もぐにゃりと曲がった。オリビアが手を開くと柔らかな黄色い光が漏れバラバラと地面に銀色の破片が転がる。


「どうだ。ルミナスアームの聖なる光は? この手の光は触れた敵の能力を弱体化させる…… 使う必要もなかったもしれないが」


 自身の手を見つめて笑うオリビアだった。オリビアの手から出ているのは魔法ルミナスアームの光だった。ルミナスアームは退魔の魔法の一つで聖なる力で触れた者を弱らせる。

 槍を落として左手を押さえる男性兵士、オリビアは彼の横に移動しメイスを構えた。


「さぁ…… 終わりだよ!」

「グボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!」


 横から軽くメイスを振りぬいたオリビアだった。オリビアのメイスは男性の兵士の背中に命中した。

 衝突音と何かが折れる音がして男性兵士は仰け反り膝をついて倒れた。口から白い泡と赤い血が垂れ床へと落ちていった。倒れた男性兵士を見て小さくうなずいたオリビアが振り返る。彼女の視線の先に盾を剣を持った女性兵士が見える。

 怯えた顔の女性兵士とオリビアの目が合った。オリビアは真顔で静かに口を開く。


「君で最後だな」


 にやりと笑ってメイスを構えるオリビアだった。


「くっくそ!!!」


 眉間にシワを寄せ振り向いた女性兵士は左足で地面を蹴った。彼女の姿がオリビアの前から消えた。女性兵士は猛スピードでオリビアから離れていた。必死の形相とで走る女性兵士の視線はオリビアの大事な人間へと向けられている。


「あいつを…… つかまえれば…… あっ! あっあ…… ああ!!」


 視界に影が見え視線を横に向けた女性兵士が驚愕の顔で固まった。横には余裕の笑みを浮かべメイスを構えたオリビアがいたのだ。オリビアは横からメイスを振りぬいた。メイスが女性兵士の背後から鋭く伸びて来た。


「ぐああああああああああああ!!!!!!」


 とっさに振り向いた女性兵士は左腕を前にだした。彼女が持っていた盾がオリビアのメイスと激突した。女性兵士の盾がへこみ衝撃が彼女を襲う。必死に踏ん張って倒れないように女性兵士は耐えていた。両足を引きずり一メートルほど後方へ女性兵士は移動した。引きずられた足の摩擦で煙が上がる。


「おぉ!!! やるじゃないか」


 盾で自分のメイスを防いだ女性兵士をオリビアは褒めていた。盾を構えたまま悔しそうに女性兵士はオリビアを愕然とした様子で見つめていた。


「なっなぜだ!? 銀細工は特殊能力など凌駕するはず……」


 悔しそうに叫ぶ女性兵士をオリビアはメイスを頭の上で一回転させ、石突で床を叩いて笑い飛ばした。


「はははっ! 私は魔族とのひどいひどい殺し合いを経験しノウレッジでは冒険者で飛び回っている…… 私は君のような奴と戦ったこともある。経験はなによりも人を成長させるもものだ」

「経験が成長をですって!?」

「魔王を倒すために勇者が努力をしなかったとでも思ってるのか? まぁでも…… 君達は私達が相手で運が良いと思うぞ。五年の間に彼女と私はだいぶ…… 差がついてしまったからな」


 にやりと笑って手招きをして女性兵士を挑発し構えるオリビアだった。


「クソ!!!」


 女性兵士は盾を前に出した駆け出した。剣を持った右腕を引いた。駆け出した女性兵士とオリビアとの距離が縮まっていく。オリビアは両手に力を込めて横からメイスを振りぬいた。


「はああああああああ!!!!」


 盾でメイスを受け止める女性兵士、激しい衝撃が彼女を襲う。左手はしびれ構えた盾ごと体を持って行かれそうになるが、彼女は左足で地面をつかんで必死に衝撃に耐える。オリビアはメイスを引くと女性兵士は盾を横に移動させた。彼女は退いていた右腕を上げるとオリビアに向けて振り下ろした。


「ほっ!!」

「ぐぅ!!!!」


 オリビアが左手をあげた、メイスの柄の部分が跳ね上がるようにして女性兵士の剣へと向かって行った。剣を持った女性兵士の右手首の下辺りにメイスの柄はぶつかった。女性兵士は顔を歪ませ衝撃で剣が手から落ち床に転がって音を立てる。

 しかし、彼女は左腕を開くと右足を地面をつかみ左足を引いた。


「終わりだああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 左の足裏をオリビアに向けて一気に蹴り出した。オリビアの胸を目掛けて女性兵士の銀色の足が迫って来た。オリビアはメイスを水平に持って女性兵士の足の前へとだした。


「ニヤリ……」


 女性兵士はオリビアを見て勝ち誇ったように笑った。

 激しい音がしてオリビアは顔をしかめた彼女の両足が衝撃でわずかに後ろに下がった。右足を軸にして左足を伸ばした姿勢の女性兵士の前に、オリビアは両足でしっかりと立って水平にメイスを姿勢で立っていた。女性兵士は平然と立っているオリビアを見て聞こえをあげる。

 

「うっ受け止めただと!? ぎっ銀細工の攻撃ならそんなメイス…… 簡単に破壊できるはず……」

「あぁ…… 残念だったな。このメイスは聖剣リオールを修理に使用したニューアダマンタイト鋼製の特注品だ。もちろん一流の鍛冶屋が作っている。下手したらリオールより硬いぞ」


 にっこりと微笑んで自分のメイスの強さを語るオリビアだった。愕然とする女性兵士、彼女の足にヒビが入り力がわずかに抜ける。


「はああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

「キャアああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!」


 オリビアは気合をいれ前に出て両手を一気に突き出した。音を立てて女性兵士の足が砕かれ押された彼女はバランスを崩して倒れた。オリビアは追撃の手を緩めない。彼女は垂れた女性兵士の前に立ってメイスを振りかぶった。


「ふん!!」


 鼻息荒くオリビアはメイスを女性兵士の頭に振り下ろした。何かがつぶれる音がして地面が赤く染まった。三人の転がる兵士を見渡すとオリビアは静かにメイスを肩にかついでグレゴリウスの元へと戻る。

 グレゴリウスは腕を横に振りながらオリビアの元へと駆けてきた。駆けて来た彼は彼女の腰の辺りに抱き着く。

 

「すごい…… オッちゃん!!」

「あぁ。さっきもらった弁当のおかげだよ。私は百倍強い!」

「ふふふ。ありがとう」


 自分を上目遣いで見上げながら、話すグレゴリウスの頭を優しく撫でるオリビアだった。


「さて…… まだ終わってないぞ。グレ! 私から離れるなよ」

「うん!」


 メイスを肩に担ぎグレゴリウスを連れたオリビアは歩き出すのだった。

 オリビアとグレゴリウスから離れた部屋の片隅。メルダは必死に走っていた。彼女の後ろを二人の兵士が走っている。兵士は男女で男性が剣を持ち先を行く女性は槍をもつ、二人とも右足が銀色へと変化していた。


「はっ!」


 振り向いてメルダが矢を放つ。先を走る女性は矢を簡単にかわした。


「やっぱり…… あたしじゃ……」


 前を向いたメルダが悔しそうにつぶやき矢筒に手を伸ばす。メルダと兵士たちの距離は少しずつ狭まっていくのだった。

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