表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

181/209

第181話 雷は彼女の物

 グレンとオリビアがアランドロの船を見つけた頃。砂塵回廊の第八十二階層。ロックが率いる兵士たちとオリビア達の戦闘が始まっていた。


「はあああああああああああああああああ!!!」


 一人の男性兵士が叫び声をあげながら槍を突き出した。兵士は整った口ひげを持つ中年の兵士で右手が銀色のかわっていた。鋭く伸びていく槍が向かう先にはハルバードを構えたクロースが居た。槍は正確に彼女の心臓を捉えていた。


「はっ!!」


 必死な顔で彼女はハルバードで槍にぶつけ防ごうとした。音がしてハルバードと槍がぶつかった。しかし、槍は軌道がわずかにそれただけでクロースへと向かって来ていた。


「クッ!!」


 クロースの左肩の横を槍はかすめていった。槍によって彼女の肩はえぐられるようにして斬られた。追撃をしようと槍を引いた兵士、クロースは歯を食いしばって右手一本でハルバードを振り上げた。


「おっと!」


 振り下ろされたハルバードを余裕の表情で下がってかわす兵士だった。


「やりますわね……」


 笑って兵士を見るクロース、その笑顔からは悔しさがにじみ出ていた。静かに左腕を下げるクロースの指先から血が垂れて彼女の顔は苦痛に歪んでいた。

 兵士は視線をクロースのつま先から顔へと舐めるように移動させニヤリと笑った。


「さあ…… そのかわいい顔が歪む前に降伏しな。なーに命はとらねえ。かわいがってやるよ」

「あらぁ…… お優しいですのね…… でも!!」


 右腕を素早くあげクロースはハルバードの先を兵士へと向けた。ハルバードの先から雷が飛び出し兵士へと向かって行く。青白い光が兵士を包み白い大量の湯気のような煙が彼を隠した。


「なっ!?」


 クロースが声をあげた。右手を前にだして槍を水平にした状態で兵士が立って居た。


「はははっ! ただの雷が俺につうじるものか!」


 笑いながら勝ち誇った顔で右手に持った槍を突き上げる兵士だった。彼の槍を握った銀色の手から白い煙があがっている。


「なるほど右手で…… 良い右手ですわね」

「あぁ。雷だろうが魔法だろうが全部この右手が吸ってくれる。あんた特殊能力者だろ? 良いサンプルになるって博士が喜ぶぜ……」


 兵士はニヤリと笑って槍を構える。クロースは顔を歪ませて静かに彼を見つめていた。斬られた左腕の傷は深く先ほどよりも多くの血が垂れていく。


「じゃあ。さっさと終わらせて楽しもうぜ!!!」


 槍を構えた兵士が駆け出した彼は素早くクロースとの距離を詰める。悔しそうな顔を歪めクロースはハルバードを逆手に持った。


「はっ!!!」


 クロースは兵士に向かってハルバードを投げた。兵士に向かって一直線にハルバードが飛んで行く。


「馬鹿め!! はっ!!」


 兵士は余裕に笑って槍を振り上げ、飛んで来たハルバードを打ち上げた。


「なっ?! うわ!?」


 目を見開いて驚いた顔をする兵士、彼の前に左腕を横に引いたクロースが立って居た。彼女はハルバードを投げて隙を作って兵士との距離を詰めたった。

 クロースは虫を払うように大きく左腕を横に振った。同時に兵士の視界が赤く染まった。兵士は顔を背けて左手で顔を拭う、そのままクロースは下がって兵士から二メートルほど距離を取った。


「えっ!? 血……」

 

 顔を拭った兵士の左手に血がべっとりと着いていた。クロースは左腕から垂れていた血を兵士にかけたのだ、赤毛で彼は右手てから肩から顔にかけてクロースの血で汚れていた。


「チッ! 時間稼ぎかよ!! もう許さねえ!!!」


 兵士はクロースに向かって叫んで槍を構えた。彼女はにっこりと微笑み右手で上を指した。兵士の視線が上に向かう。


「これであなたの右手は私の領域になりましたわね……」

「えっ!? ふっ! なんどやっても無駄だ!」


 クロースを鼻で笑って槍を持って右手を空に掲げる兵士だった。上を向いた彼に自信が打ち上げたハルバードが落ちてくる姿が見えた。ハルバードは先端が青白く光って雷を放とうとしていた。

 兵士が槍をかかげた直後に激しい光が瞬き轟音が響いた。

 

「うぎゃあああああああああああああああああああああ!!!!」


 上空から激しい雷が兵士に落ちた。青白い光に包まれた兵士が声をあげた。光と黒煙で兵士の姿は見えなくなった。煙が消えると兵士が姿を現した。

 真っ黒に体が焦げ彼はかろうじて立って居た。体を震わせてクロースを睨む兵士だった。


「なっなぜだ…… 雷は全て吸収……」

「あなたの右手に触れる前に私の血が雷をあなたの体に通したんですわ」

「なっ!? なんだと…… それで俺に血を」


 クロースには微笑んだ。クロースの血液は特殊能力の効果をあげるために、人よりも電撃を通しやすくなっていた。彼女の血液が先に雷にふれることにより、銀の右手に雷が吸収されずに兵士の体を貫いた。


「クソ…… まっ負けるか…… グフ!!!」


 兵士は槍を構え必死に前にでようとしたが、彼が槍を構えるとほぼ同時に上からハルバードが落ちて来て彼の頭に突き刺さった。兵士はうつ伏せに倒れた動かなくなった。


「ふぅ…… 銀細工…… 油断なりませんわね」


 小さく息を吐いたクロースは右手で雑に肩に回復魔法をかけ、彼の肩に足をかけハルバードを抜いた。彼女はハルバードを持って次の戦いへと向かう。

 クロースから十メートルほど離れた場所でオリビアがメイスを構えていた。彼女の後ろには怯えた顔のグレゴリウスがいる。

 二人の前には三人の兵士が武器を構えている。兵士は中央に盾と剣を持った金髪の女性に槍を持った若く短い黒髪の男性が女性兵士の左右に立っている。女性は左足が銀色で、男性は右手と左手が銀色であった。

 右腕を伸ばし女性が剣先をオリビアへと向けた。


「降伏しなさい。あなた達は特別に大事にしてあげるわ」

「断る…… 私はもう冒険者なんだ」

「ふん。じゃあ…… 死になさい!!!!」


 女性兵士の号令で二人の男性兵士が槍を構え走り出す。しかし、前にいたはずのオリビアが消えた。直後に男性兵士の一人の前に現れた。彼女や右手だけでメイスを持って先端を兵士に向け引いていた。


「えっ!?」


 男性兵士がオリビアに気づいた時にはすでに彼の体へとメイスが鋭く伸びていた。

 

「はっ!!!」

「どぅふ!!!!!」

 

 伸びて来たメイスの先端が男性兵士の腹へとめり込み、何かが砕ける音と破裂する音が響く。男性兵士は目を大きく見開き口から血を吐き出した。槍を落として両手で腹を落とし膝をつく、男性兵士を蹴り上げてオリビアは彼を仰向けに倒した。

 腹を押さえたまま仰向けに倒れた男性兵士の傍らで、彼を見下ろしオリビアはニヤリと笑う。メイスを振り上げる彼女の視線は腹を押さえる銀色の手に固定されている。


「君達は馬鹿だな…… 弱点を自らさらしているのだから!!!」

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」


 叫んだオリビアがメイスを勢いよく振り下ろした。高速で風を切る音を立て、メイスは腹を押さえていた男性兵士の右手に命中する。ガラスが割れるよな甲高い音がして彼の右手は粉々に打ち砕かれた。兵士は苦痛に顔を歪め悲鳴を上げた。

 しかし、悲痛な声をあげる兵士を見てもオリビアは止まらない。今度は真顔で横にメイスを振り上げ前に出る。オリビアが何をするのか理解した兵士を青ざめ声をあげようとした。


「やめ……… がはっ!!!!」


 男性兵士がしゃべりだすと顔の横から飛んで来たメイスが言葉を遮った。グチャッという音がして男性兵士のメイスがめり込み頭は首から引きちぎられ床を転がって行った。


「次……」


 メイスを横に振ったオリビア、メイスについた血が床に飛び散った。彼女は静かにつぶやき残った二人に視線を向けるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ